奈良の食文化 奈良漬・吉野本葛・柿の葉寿司のおいしさとその魅力

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吉野本葛

スペース

くずもち(葛餅)
かっこんとう(葛根湯)


 

                

これも奈良時代の話です。奈良時代の『万葉集』に、山上憶良(やまのうえのおくら)が秋の七草の歌を詠んでいます。秋の七草の一つがクズ (葛 )の花です。しかし、吉野本葛は、葛の花の話ではなく、根の話です。
 
 葛はつる性の植物で、山野に自生しています。「吉野本葛」は、この葛の根からつくるでんぷんの粉です。植物の根からつくられるでんぷん粉はほかに片栗粉やわらび粉があります。この葛粉から葛餅や葛切りがつくられ、和菓子の材料や料理のとろみなどにも使われます。
 しかし、葛の根は、むかしは食べ物ではなく、薬でした。中国の古い薬草のことを記した文献に葛根のことが出ています。また奈良時代の木簡に、「葛根」と記したものがあり、他の様々な薬草を記した木簡といっしょに出土しています。葛の根は首筋のこりをとる鎮痛作用があり、いまでも薬として使われていて、葛根湯という漢方の風邪薬がそれです。
 薬だった葛の根が、いつしか食用の葛粉になっていきました。これは、奈良時代に中国から伝来したお茶が、薬用から飲用になり、いまでは抹茶アイスにまでなっているのとよく似ています。

 

              

 

 

                

吉野本葛の不思議


なぜ「吉野」葛?

伝承と吉野の知名度がつくりあげた葛粉の吉野ブランド

 

山深い吉野地方に「国栖(くず)」という地名がいまもあります。『古事記』に、国栖の人が葛の根を売り歩いたという記述があります。それでクズというようになったともいわれます。これはあくまで伝承ですが、葛の根がはじめは食用ではなく薬用だったことや、吉野の山野に多くの葛があったであろうことが想像できます。また吉野は修験道の地でもあり、山伏が各地に葛の根の薬効を広めたのかもしれません。そこはナゾです。
 

 菓子や料理に葛粉が使われるようになったのは、早くて鎌倉時代、あるいは室町時代以降のことともいわれますが、定かではありません。 そしてやがて葛粉や葛粉を使った餅などが、吉野の名物となりました。これはナゾではなく、史実です。吉野詣での人々が、「吉野」葛を称賛したのです。
 江戸時代のはじめ、京の漢方医で薬もつくっていた黒川道安が、葛根を吉野より取り寄せて葛粉を作り、朝廷に献上しその風味を賞せられ、 1650年に京都から宇陀に移転しました。黒川家では、現在も宇陀で葛粉造りを続けています。同じ時期に、老舗の森野家も吉野から宇陀に移り、いまも葛粉づくりをしています。こうして、「吉野」葛のブランドができていきました。

 

大日本物産図会 大和国 葛ノ根ヲ堀図

出典:大日本物産図会 大和国 葛ノ根ヲ堀図

(国文学研究資料館国書データベース)

 

              

 

 

                

どうやってつくるの?


精製~ひたすらていねい、
そして「寒晒し(吉野晒し)」が決め手

3つのポイント「置き換える」「2つのチカラを利用する」「伝統と経験を生かし、自然の声を聞く」

 

 

大和(奈良県)は古くから日本の文化の中心(みやこ)として栄えた地です。飛鳥時代から奈良時代にかけて都があった奈良盆地には、全国からさまざまな物資が運び込まれました。また、朝鮮半島や中国との交流も盛んで、遣唐使や中国からやってきた僧や学者、技術者が大陸文化を伝えました。
 食文化もその一つで、全国から食べ物が運び込まれ、さらに中央アジアやヨーロッパ原産の野菜や果物の種も大和の地に伝わりました。そして、大和から日本各地に広がりました。酒や茶は大陸から伝わり、大和で発達し、全国に広がったものの良い例です。
 やがて奈良から都は移りますが、仏教や芸術などの文化は残り、そのなかで大和の地に根差した独自の食文化が寺社や地域の人々によって育まれました。これがいまに伝わる奈良の食文化のルーツで、日本の食文化のルーツでもあります。
 大和イモ、大和スイカ、柿などの野菜・果物はもちろん、蘇(チーズ)、饅頭、そうめんなどの加工食品、氷を保存して夏に食べる氷室の利用など、大和の素材や気候風土と、都であった大和の歴史が、奈良の食文化として再結晶しました。

 

製造工程と製造技術

 

              

 

 

                

何にどうやって使うの?


 吉野本葛は食用に使われますが、食用は2つの使われ方があります。一つは、葛そのものを食べる食べ方、もう一つは食べ物の材料の一部として食べられる場合です。
 第一のものの代表は、葛切りや葛餅です。第二のものの代表は、胡麻豆腐や蒸し羊羹、料理のとろみづけなどです。つまり、第一のものは葛そのものが固まったもので、第二のものは葛が「つなぎ」として使われ、そこでつないだ素材と一体になって食感・食味をかもしだすというものです。
 いま葛粉の用途で最も多いのは、和菓子の材料です。栗蒸し羊羹やういろうなどですが、葛粉の食感・食味を生かした新しいスィーツも生まれています。また、欧米では動物性のゼラチンにかわって、植物性の葛がオーガニック食材として注目を集めています。