AIRとはArtist In Residenceの略で、アーティストが一定期間その土地に滞在し、普段とは違う環境下で作品制作や、発表などを行うことをいいます。なら歴史芸術文化村滞在アーティスト誘致交流事業(=文化村AIR)では、毎年アーティストを公募して招聘し、文化村を拠点としたリサーチ・制作・発表を行っています。今回はスタジオを中心に滞在の日々をお伝えしようと思います。
令和6年度(2024年)アーティストに選ばれたのは、大槻唯我さん。被写体となる土地の詳細なリサーチ、フィールドワークに基づいた写真での制作・発表を行なっています。滞在期間は、2024年10月1日~11月30日の2ヶ月間です。お読みいただく前に、滞在制作をまとめた動画をご覧いただくことで、より理解が深まると思いますのでぜひご覧ください。(約13分)

なら歴史芸術文化村(以下、文化村)は、文化財修復・展示棟、芸術文化体験棟、交流にぎわい棟、情報発信棟からなる文化施設です。交流にぎわい棟では産地直送野菜と奈良の味覚を楽しむことができ、日々の自炊に欠かせない食料品を購入することができます。大槻さんは、旬の野菜や大和当帰からできたシロップがお気に入りのようでした。
それでは早速アーティストが活動する制作スタジオを覗いてみましょう。制作スタジオは、芸術文化体験棟3Fにあります。アーティストが使用する前は作業机と椅子のみで、がらんとしています。このスタジオの使い方はアーティスト次第で、設えを見ることも楽しみのひとつです。スタジオ前にある交流ラウンジは、光が射すとても気持ちの良い空間です。一般の方々も利用できるスペースで、スタッフとの打ち合わせに使用したり、大槻さんもパソコンを持ち出して調べ物や読書をしたりしていました。 (写真左:制作スタジオ 右:交流ラウンジ)

10月、大槻さんが到着しました。書籍、スキャナー、プリンター、文具がスタジオに運びこまれました。作品が生まれる場所としてとてもシンプルであり、それは、まるで友達のお姉さんの部屋に来たような少し緊張感のある空間でした。4年目にして初めて、スタジオの設えにそのような感情を抱きました。

日中、大槻さんはリサーチやフィールドワークに出かけ、夕方は、スタジオに戻り作業を行う姿をよく目にしました。翌朝スタジオを覗くとその日に得た情報がメモに書かれています。歩いたところを地図に書き写していたり、大槻さんが制作を行ううえで大切にしている「心が動く場所で撮った」写真が順序よく並べられていました。

このスタジオにある壁はいわば大槻さんの頭の中(心の中)であり、それを覗いているという不思議な感覚を覚えます。
文化村がある天理市は柿の産地でもあり、近くには柿畑が沢山あります。「柿の収穫をしてみたい」とのことで、柿の収穫に行きました。収穫体験から大槻さんは何を写し出したのでしょうか。収穫した柿をいただき、干し柿にする大槻さん。干す場所がなかったのでスタジオの中にぶら下げて美味しくいただきました。干し柿を作るアーティストは2人目です。奈良の柿はとても美味しく、冬の味覚のひとつです。

文化村AIRでは、地域の人々や文化村に来られたお客様との交流を大切にしています。しかしリサーチやフィールドワークに出かけていて不在の時もあります。そこで何かいい方法はないかと考えたのが、付箋でのやり取りです。

大槻さんへ質問や伝えたいことなどを書いてもらい、ガラス窓に貼って帰る。後から見た大槻さんはひとつひとつ丁寧に回答し、横に回答を貼る。このやりとりを文化村インスタグラムにて公開し、質問主へ届けました。

11月中旬、成果発表に向けて壁一面に写真や地図が埋めつくされ、準備ができました。今回の発表は、2会場で行い、第1会場の文化村スタジオでは滞在中の制作プロセスを可視化し、第2会場のArt space TARN(天理本通り商店街内)では作品を展示しました。2会場での展示が連動していることで、作品への理解が深まりました。

壁ばかりに目が行きがちですが、窓際には、宿泊先から見える景色を定点観察した写真や、小瓶が3つ展示されました。小瓶のひとつには、発掘現場をリサーチに行った際に靴につまった粘土が入っていました。大槻さんが「もしかしたら弥生時代の土かもしれない」と言ったのには驚き、担当者も思わず保管しようか悩みました。

成果発表展がスタートすると、会場では大槻さんと観覧者との交流が生まれました。
子どもや大人が訪れ、子どもたちは写真を見て自分たちの住む地域ではないかと大槻さんに撮影場所を質問したり、大槻さんが歩いた道のりを知って驚く人、見るだけではわからないことが分かり始めます。アーティストが滞在し、様々な人と交流することで、互いに多くの気づきを得ることができます。一見難しそうに見えますが、実際にアーティストと交流できる機会が文化村には沢山あります。今年度2025年は11月4日からアーティストの滞在がはじまります。(現在募集中8/15まで)
是非アーティストに会いに来てください。

令和7年度公募のご案内、過去の活動記録をまとめたページはこちら(文化村AIRページへ)