ふたりで行きたい、曽爾高原の秋景色ハイキング

文=山本純二

(やまもと じゅんじ)紀行ライター。元JTB勤務で、現在トラベル講師としても活動中。旅行ペンクラブ会員。共著に『街道・古道を歩く西日本編』(山と溪谷社)がある。

「秋が体を包み込んでくれる」。5年前に、初めて曽爾高原(そにこうげん)を歩いた時の印象だ。背丈以上に伸びたススキの遊歩道を妻と一緒に歩き、亀山峠まで上り、ベンチからススキの大平原を眺めながら弁当を食べた思い出がある。
久しぶりに自然の中で、秋を感じたいなあと思ったのは、朝刊に出ていた曽爾高原の写真。「ススキが見頃のようやで」と紙面を妻に差し出す。「曽爾高原だったら、もう一度歩きたいね」とティーカップを置いた。その週末、二人で曽爾高原のススキの原を5年前と同じように歩いていた。

曽爾高原の駐車場は午前10時を過ぎたばかりなのに、満車に近い。高原入口のお亀茶屋から、お亀池の周囲に沿って散策路が続いている。この池の名は、お亀が大蛇に変身した昔話に因んで、名付けられたという。今は長年の土砂の堆積によって、ほとんどが湿原化している。ヨシ、マアザミ、サワヒヨドリ、ウメバチソウなど50種近い草木が次々に咲き、湿原植物の宝庫でもある。ススキの穂の波に覆われているので、池の存在すら気付いてない人も多い。お亀池を半周ほど巡り、道標に従い、亀山峠に向かう。上り道に差しかかるとすぐに息があがってきた。前に来た時より、きつく感じるのは、年のせいだろうか。ひと息ついて振り返ると、ススキの高原が広がりを増して見えるのが、元気を与えてくれる。

お亀池

お亀池

亀山峠に着くと、いい具合にベンチがひとつ空いていた。5年前と同じ場所だ。「眺めが少しも変わってないね」と言いながら、おにぎりを頬張る。正面には、鎧岳、兜岳がそびえ、眼下に曽爾高原。ここからだとお亀池が、ひょうたん型なのがよくわかる。中高年のハイキング姿に交じって、若いカップルも多く訪れている。峠の眺望のいい場所は弁当を食べるには絶好のスポットなので、座るスペースを譲り合うことになる。隣り合わせたカップルから、「シャッターを押してください」とお願いされたのをきっかけに、会話が始まる。名古屋から来たという二人は、今日が初めての曽爾高原らしい。弁当を食べた後も、ススキの絶景を背景に、デートの記念写真撮影に余念がない。その微笑ましい姿に、「夕景になると、もっとロマンチックだよ」と、ひとことアドバイス。
峠の左には、倶留尊山への稜線が続き、右に行くと亀山の山頂である。右の山頂をめざすことにする。10分ほどの急坂だが、足元の悪いところもある。テーマパークでのデートというような服装のカップルや、ヒールを履いてきた女性が悲鳴をあげている。ここは男らしく、とでもいうように手を差しのべる男性。我が夫婦はというと、妻の手にすがりながら歩を進めるありさまだ。日頃の運動不足の影響が、こんな時にすぐに出てしまう。

曽爾高原

曽爾高原

山頂付近も眺望を楽しむ人で賑わっている。いつまでも佇んでいたい秋景色の中で深呼吸をする。隣で「来てよかったね」と、妻の目が笑っている。遊歩道を一周するかたちで、下山し、駐車場に戻る。
散策の後に訪れた曽爾高原温泉「お亀の湯」は、5年前の秋にはまだオープンしていなかった施設だ。週末で待ち時間が出ていたが、今回の楽しみにしていた温泉なので、20分の待ち時間を売店で過ごし、入浴した。肌ざわりが抜群のお湯で、露天風呂から山々の眺めのよさも申し分ない。日頃は、カラスの行水だが、あまりの気持ちよさに自然と長湯になっていた。
隣接する「曽爾高原ファームガーデン」も大変な人出である。人気の焼きたてのお米パンは売り切れ続出で、ほんのわずかしか棚に並んでいない。妻には「また太るのに」と言われながら、ついついよもぎ餅の売り場のほうに引き寄せられる。
夕刻が近付いてきた。「さっきのカップルは、高原の夕景を眺めているだろうか」そんなことを思いながら、「日本で最も美しい村」曽爾村を後にした。

※この紀行文は2009年11月取材時に執筆したものです。諸般の事情で現在とはルート、スポットの様子が異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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