明治より大正・昭和にかけて、数多くの文人等が奈良を訪れ、また住まう中で、奈良公園における景観の特性を評した記述を残しています。
「兎に角、奈良は美しい所だ。自然が美しく、残つてゐる建築も美しい。
そして二つが互いに溶けあつてゐる点は他に比を見ないと云つて差し支へない。
今の奈良は昔の都の一部に過ぎないが、名画の残欠が美しいやうに美しい。」
■志賀直哉『奈良』,昭和13年(1938)
「奈良公園は日本で一番美しい公園だと思う。(中略)なんとなく自然的な雄大さがあり、よくある箱庭趣味によってゆがめられていない。特にこせこせした築山や引きずってきてすえつけた岩石などのないのが気持よい。
もちろんこんなものはここでは必要がない。何しろ自然そのものが背景に丘陵山岳を配し、前景の地形を優雅に構成しているからだ。」
「木立ちは、美しい公園で見受けられるようにあまり密生せず、ここかしこの丘のすそで、まだ斧を加えられたことのない、荘厳な原始密林に連なっている。樹木類は主としてスギ、マツ、クスノキ、常緑のカシワ、モミジ、ケヤキ等」
「荘厳な公園へ眼を向けると、まったく神秘的なながめで、至るところ、これらのなれた獣と共に、千古の寺や塔が赤、白の装いをこらし、絵のような美しい形を、ほのかに見せている。(中略)およそ地上に、これ以上理想的の平和な風景はあり得ない。」
■エルヴィン・フォン・ベルツの日記より明治37年(1904)4月17日の項(トク・ベルツ編『ベルツの日記』)