各界の識者が語る「わたしの記紀・万葉」

第10回 第2・第3代葛城市長 山下 和弥氏

歴史をもう一度見つめて、日本で一番古い街道から世界へと視野を広げたい。

葛城市長 山下 和弥氏

ここから様々な文化が始まった

葛城市は歴史にゆかりのところがたくさんありますが、山下市長からご紹介いただけますか。
山下 そうですね。
記紀・万葉では、やはり大津皇子の墓がある二上山は外せません。
昔から信仰の対象で、雄岳と雌岳が男女や父母、または乳房に見立てて母性を表すとされてきました。
そして、仏教が伝えられ、西方浄土の思想が芽生えると、太陽が隠れる山の向こうを浄土と考え、
古い天皇の墓は二上山の向こうにつくられました。
その思想を今に伝えて体現しているのが當麻寺(たいまでら)で、独特の練供養は、恵心僧都源信が教えを劇にして見せたのが始まりとされています。
平成24年で1008回目を数えますが、今日まで菩薩講の方々が中心となって守ってこられました。
大陸の文物を伝えるという意味では、日本で一番古い竹内街道(たけのうちかいどう)の終点は、葛城市の長尾神社付近ですね。
山下 竹内街道は、『日本書紀』にも613年に大道を造ったと記されており、来年で開通1400年となります。本来の意味での、「国道第1号」です。
今、奈良県や大阪府、国土交通省にも協力を仰ぎ、記念イベントを考えているところです。
その他にも、葛城市には、今まであまり全国にアピールできなかった歴史的な魅力がまだまだあります。
先に紹介した當麻寺には国宝が八つあり、日本で唯一、古代に建立された東西の三重塔がともに創建時のままで現存する寺でもあります。
また、真言宗と浄土宗が並立する点でも珍しいお寺です。
その他、中将姫伝説で蓮の糸を五色に染めたとされる「染め井」や、北花内には、日本初の女帝ではないかとも言われる飯豊(いいとよ)王の陵墓があります。
その他にも、葛城はいろいろな文化の発祥の地と言われていますが。
山下 一つは、製鉄文化ですね。司馬遼太郎さんの「街道を行く」にも書かれていますが、大陸から来た忍海(おしみ)氏が鉄器を持ち込み、それを鋳直したのが製鉄文化の始まりで、その時の火の神様を祀ったのが笛吹(ふえふき)神社だと言われています。
また、『古事記』に、伊久米伊理毘古伊佐知命(いくめいりびこいさちのみこと・垂仁天皇)の前で當麻蹴速(たいまのけはや)と野見宿禰(のみのすくね)が力比べをしたと書かれているのが、日本で初めての相撲と言われています。
そういう歴史から、これまで巡業を自粛していた大相撲が再開のスタートを切る場所として葛城市が選ばれ、2012年4月2日に相撲巡業が行われました。

観光化はふるさとづくり


これだけ豊かな歴史的資産があるわけですから、観光地としての盛り上がりも期待されるところですね。
山下 確かに、歴史的な資産はたくさんありますが、観光地化は簡単ではありません。
私達にとって、参考になると考えているのが、平泉の中尊寺金色堂です。
世界遺産の中尊寺金色堂は、年間200万人の観光客を集めていますが、地元に宿泊施設がなく、多くの方々は花巻や仙台から1時間半~2時間かけて来ているようです。
葛城市は大阪市内から車で30分、関空からも40~50分の距離なので、歴史を訪ねて葛城市に来て、2~3時間滞在したら、あとは飛鳥に行っても、吉野に行っても、五條に行っても構わないし、大阪に宿泊しても良いというような感覚で、ツアーの開発をしていけたらと思っているのです。
他にも、歴史的資産を活かす方法を次々と考えられておられるようですね。
山下 先輩たちが大事に残してくれた遺産を、さらに未来へ伝えるために、我々が見直し、活用させていただきたい。
観光というのは、地元の人がどれだけ地元に誇りを持って、来られた方を歓迎できるか、そこがポイントだと考えています。
葛城市は、8年前に合併してできたまちなので、もっと自分のまちに誇りをもってもらえるよう、平成23年度は小学生用の郷土本を作平成24年度は中学生用を作成します。
子どもたちに自分たちのまちの歴史を知ってもらい、ふるさとを愛してもらいたい、という考えからです。
もちろん、大人も…ということで、同年度に全市民向けにも郷土本を作ります。
合併前の新庄の歴史も當麻の歴史も、同じ葛城市の共通の財産として知っていただきたいという思いもあります。私の仕事はいわば「ふるさとづくり」です。
さらに、竹内街道に沿って、橿原、飛鳥とも連携し、魅力的な情報を全国に発信したいと考えています。
手始めに、ウォーキングガイドとしてスマートフォン用に葛城市のARナビを開発しました。
コースを選び、ダウンロードすると、GPS機能によって現地で情報を取得できるという情報サービスです。
これからもさらに、住む人が誇りに思い、さらに日本じゅう、世界じゅうの人が訪れてみたくなるような、
「ふるさとづくり」を進めていきたいと思っています。
やました・かずや
プロフィール
1969年 御所市生まれ 甲南大学経済学部卒業。
国会議員秘書、葛城市市議会議員を経て、2008年より葛城市長就任、2016年10月30日退任。
全国青年市長会副会長。