記紀・万葉講座

「古代歴史文化賞」記念シンポジウム

日時:2020年2月8日(土)13:00~17:15
会場:よみうりホール(東京都千代田区有楽町)
主催:奈良県 協力・島根県、三重県、和歌山県、宮崎県、読売新聞社

プログラム
主催者挨拶 奈良県知事 荒井正吾
第1部 基調講演『「古今和歌集」の創造力~万葉から古今へ~』
鈴木宏子 氏(千葉大学教育学部教授)
(第7回古代歴史文化賞大賞受賞者)
第2部 パネルディスカッション『今に生きる「古今和歌集」』
〈パネリスト〉
鈴木宏子 氏(千葉大学教育学部教授)
上野誠 氏(奈良大学文学部教授)
小島ゆかり 氏(歌人)
〈コーディネーター〉
関口和哉 氏(読売新聞大阪本社編集委員)
第3部 「記紀・万葉トークライブ」
古舘伊知郎 氏

主催者挨拶/開会

開会に先立ち、荒井正吾奈良県知事が主催者として挨拶しました。

 荒井正吾奈良県知事

各県ゆるキャラ紹介

奈良県のせんとくん、島根県のしまねっこ、三重県のとこまる、和歌山県のわかぱん、宮崎県のひぃくんが集合し、会場を盛り上げました。

 各県ゆるキャラ

第1部

基調講演『「古今和歌集」の創造力~万葉から古今へ~』

(千葉大学教育学部教授 鈴木宏子氏)
万葉から古今、そして令和へ。和歌が伝えた日本的美意識。

『古今和歌集』は『万葉集』から何を受け継ぎ、何を創造したのか。梅の歌を例として考えました。
『万葉集』の梅の歌には同じような表現パターンが繰り返し出てきます。
梅を見るだけではなく手折ったり髪に挿したりして愛でるという型。梅と鶯の組合せや、梅を雪に例える「見立て」という技法もあります。
『古今和歌集』は延喜5(905)年に成立した日本初の勅撰和歌集です。『万葉集』からほぼ100年。この間に「仮名」という日本語に特化した表音文字が成立しました。撰者の1人、紀貫之は和歌を「こころ」と「ことば」という2つの側面から捉えています。『古今集』の梅の歌は『万葉集』の表現パターンを受け継ぎつつ新たな要素や思考を加えています。例えば、『万葉集』にはない梅の香りを愛でる歌。毎年変わらずに咲く梅と移ろう人の心に思いを巡らせた歌。『古今和歌集』は、柔らかな仮名で表した個々の歌を細やかに並べることにより、現実以上の美、かくあるべき世界を創造。それが、今も日本の文学や文化の規範となっているのです。

 鈴木宏子氏

第2部

パネルディスカッション「記紀・万葉から読み解く人々の営み」

鈴木宏子 氏(大賞受賞者)
上野誠 氏(奈良大学文学部教授)
小島ゆかり 氏(歌人)
コーディネーター 関口和哉 氏(読売新聞大阪本社編集委員)

○古今和歌集の創造力と影響力

小島ゆかり 氏
私も周りも介護や老化が忍び寄る世代。しんどい時には和歌のパロディで遊びます。例えば、『久方の光のどけき春の日にしづ心なく母徘徊す』など。本歌にするのは『古今和歌集』。紀貫之らが試行錯誤を重ねて洗練された韻律で詠んでいるので、快く耳に入り記憶することができます。

○万葉集の「恋」、古今和歌集の「恋」

上野誠 氏
『万葉集』は今恋をしている状況をピンポイントで歌っています。「恋死ぬ」なんて表現があって、「私もう死ぬほどよ」という風に好きか嫌いかに振り切れる。ところが『古今集』になると「私の心は揺れているのよ」となります。『万葉集』の歌は中学生的な気分で、『古今集』の歌は熟年の気分かもしれません。

鈴木宏子 氏
『古今集』の中には恋歌が360首あります。片思いから相思相愛になり、熱烈に燃え上がるが次第に冷めていき別れてしまう。そして、独りで恋を追憶する。個々の歌にも時間性が含まれています。歌を並べることで「恋ってこういうものだ」という型を作り上げています。

○現代に生きる古今和歌集

小島ゆかり 氏
高校生の短歌大会の審査委員をしています。東日本大震災後の大会では、被災した女子高校生たちが参加しました。避難所で歌会を開くことで悲しみを分け合い笑うことができたと語っていました。また、東北で農業を志す高校生は自分の思いを五七五七七にのせて故郷を勇気づけていました。

上野誠 氏
鈴木先生の話に出て来た歌の表現の型。梅と鶯、梅と雪。あるいは「見立て」。これらは茶道の「お茶会のお菓子を何にするか」などの趣向にもつながります。『古今和歌集』の美学が、現在の日本文化を底支えしているのです。

鈴木宏子 氏
「ことば」と「こころ」は『古今集』流に言えば2つで1つ。言葉を豊かにすることは心を耕していくことです。『万葉集』も『古今和歌集』も現代短歌もぜひお読みください。

 パネルディスカッション

第3部

「記紀・万葉トークライブ」(古舘伊知郎 氏)

トークの達人が語る「五七五七七」のDNA
第3部は、フリーアナウンサー・古舘伊知郎氏が登場しました。プロレス実況で一躍名を馳せた古舘氏は型破りな表現を上司によく怒られたと当時を振り返り、話は『万葉集』へ。「スポーツ実況や歌謡ショーの司会、ナレーションなど日本の語りの基本には『万葉集』から受け継いだ五七調・七五調の韻律がある。それが日本人には心地よい」と往年のアナウンサーの名口調を真似て実演。また、「神ってる」「タピる」などSNSなどから生まれ定着していく現代語と万葉集の歌の表現を比較しました。世間を騒がしている政治や芸能ネタも交え、万葉の時代と現代を縦横無尽に行き来する古舘節は会場に笑いの渦を巻き起こしました。

 古舘伊知郎氏