札の辻石碑
山粕(やまかす)峠、鞍取(くらとり)峠は共に多少平らな場所があり、その昔、茶店等で賑わった光景が想像できる。しかし今は杉林の真只中。吹き抜ける風がその光景を消し飛ばす。三重県では年中連縄(しめなわ)を飾るが土屋原でも所々でそれが見られる。また、この地にある春日神社の本殿は伊勢神宮と同じ神明造(しんめいづくり)。これらを考えるとこの辺りが文化の境界か。昔の旅人は大阪から遠く離れた地に来た事を実感しただろう。春日神社の境内にあるオオイチョウは必見。野太い幹にこれまた太い枝があらゆる方向に奔放に伸び、更に細い枝が無数に広がる。真下から見上げると圧倒的な姿で覆い被さってくる。菅野の集落に入ると今度は「四社神社上棟祭」と書かれた木槌が玄関に飾られている。その神社は巨木で囲まれ、境内には天然記念物の菊花石(きくかせき)がある。次第に山の中へ入る事はなくなるが、民家を眺めながら歩くのも楽しい。赤い実を零れんばかりに付けた南天。積み上げられた薪。軒下にぶら下がる大根や柿。人々の変わらぬ営みが新鮮に映る。牛峠、佐田峠と越えるがどちらも舗装路で、今までの峠と味わいは随分異なる。この辺りまで来ると流石に疲れてくるが、街道はここで粋な演出を用意している。佐田峠を越えて現れる大洞山だ。道が下りになってホッしている所でこの山の姿にはため息が出る。そして近づく程にその美しさが味わえる。その先にある丸山公園は小高い丘が桜の木々で被われ、また春に来たいという気にさせられる。来た道を少し戻りながらゴールの敷津バス停へ。すぐ側にある道の駅「伊勢本街道御杖(いせほんかいどうみつえ)」は市場あり温泉ありで楽しい。私も冷え切った体を湯に浸したが最終のバスの時刻が迫り、僅か10分のカラスの行水となってしまった。