大和川・竜田川・富雄川と水辺をめぐる、龍田大社~廣瀬神社をつなぐ道

文=辻本公一

(つじもとこういち)弁護士。86年に大阪弁護士会副会長。日弁連理事。趣味の歩きを「狂歩」と称して、歩きの効用を説く。主な著書に『あるきにすとの法則』(山と溪谷社)、『狂歩楽々』(二瓶社) 週末は奈良近郊の山歩きをしており、奈良県の山はほぼ踏破。

この道は、奈良時代には難波京と平城京を結ぶ街道として利用された竜田越奈良街道にほぼ沿う道である。この街道より北に位置する暗越奈良街道が急峻な山越えであるため、峠越えが楽な竜田越えのほうが広く利用されたという。また、竜田越奈良街道は飛鳥時代より四天王寺と法隆寺を結ぶ信仰の道でもあり、古くから人々の素朴な祈りの道でもあった。そこで、まずはJR三郷駅から西方400メートル先にある通称「関の地蔵さん」と呼ばれる「関地蔵」へ立ち寄ろう。天武天皇の頃に設けられたという「龍田の関」の関所跡と推定され、龍田越奈良街道の大坂と奈良の国境に位置しており、これから歩くコースのスタート地点とするにふさわしい。最初の見どころ龍田大社は、二千年以上も前の崇神天皇の時代に創建されたといわれ、その祭神は、万物生成の中心となる大気・生気・風力等の「気」を守護し、農業の守護神として風を鎮める風神である。広々とした境内、朱塗りの拝殿と周囲の木々の緑が清々しく、また透明感のある明るい雰囲気を醸し出している。

龍田大社

龍田大社

龍田大社からは鳥居前を北に上る。大社への参道だったといわれる道で、以前には松並木があったとのこと。大和川に架かる歩行者専用の多聞橋を渡る。大和川は奈良盆地の水を集め、大阪平野を経て大阪湾に注ぐ一級河川である。河川敷の遊歩道を歩き昭和橋を渡ったところをすぐ右にとって神南集落を通り抜ければ、まもなく三室山の麓に着く。三室山は竜田川が大和川に合流する手前の竜田川右岸にある標高82メートルの低い山。平安時代の歌人の能因法師や在原業平の歌が詠まれたところとして知られる。山のすぐ横を流れる竜田川沿いの公園に足を踏み入れば、そこは紅葉で知られる竜田公園。朱塗りの紅葉橋の上からの眺めは画趣がある。

竜田大橋から奈良街道へ入る。街道沿いには切妻造り、虫籠窓や格子のある民家・商家が軒を並べ昔の街道の面影が色濃く残っている。この辺りは以前、大坂、奈良、伊勢、当麻への分岐点として、商家や旅籠が軒を並べ大いに賑わったという。ほどなく龍田神社へ。聖徳太子が白髪の老人に化身した龍田大明神のお告げで斑鳩の地に法隆寺を建立したが、法隆寺の鎮守社として、この地に社を建て龍田大明神を祀ったのが始まりと伝えられている。社務所の前にある樹齢700年といわれるクスの大木が神社の歴史の古さを感じさせる。この先の斑鳩町役場の角を左折すれば金銅製馬具や装身具類が出土したことで有名になった藤ノ木古墳に出合う。さらに「藤ノ木・業平つれづれ道」の道標に従い右に道をとれば、法隆寺西大門に至る土塀と古色の屋根瓦の重厚な民家が続く西里の町並み。法隆寺は仏教興隆を願った聖徳太子ゆかりの寺で現存する木造建築物では世界最古といわれ、日本ではいち早く世界遺産に登録された。西大門から西院伽藍の五重塔を眺めつつ東大門を抜ければ中宮寺のある東院伽藍前に出る。JR法隆寺駅の先をさらに進めば富雄川に出合う。堤防に設置された自転車道を南下すれば大和川に架かる御幸橋に出る。辺りは富雄川だけではなく飛鳥川や曽我川、寺川、佐保川等、大和盆地を流れる大小の川が合流している地点。まさに多数の川が出合うことから、橋を渡った町の名も河合町。ちなみに橋の手前は安堵町。この地名は、古老の話では、大坂から大和川を船旅し、ようやく奈良のこの地に無事たどり着いた旅人がほっと安堵したことによるという。橋の上から川が合流する様を眺めれば、自然の営みの雄大な息遣いを感じる。

御幸橋先をさらに進み、廣瀬神社へ向かう。一の鳥居をくぐり鬱蒼とした木々に囲まれた長い参道では、耳にする野鳥のさえずりが心地よい。二の鳥居を抜けると正面に拝殿、後方に春日大床造りの朱塗極彩色の本殿。この神社の主神は水の守り神。河川の氾濫を防ぎ、風雨を調和し、五穀豊穣を守る。毎年2月11日拝殿前で行われる神事「砂かけ祭」は大和の奇祭として有名。砂を雨に見立て砂を掛け合い雨降りを祈願する祭である。帰路の最寄駅は、廣瀬神社から西南の近鉄田原本線池部駅であるが、その途上に大塚山古墳を目にすることができる。5世紀後半に築造されたという全長197メートルの前方後円墳。被葬者は不明であるが、大和川の水運を担ったこの地の豪族の墳墓ではないかともいわれている。その周辺にある城山古墳や丸山古墳等とともに「川合大塚山古墳群」として史跡に指定されている。このルートは、恵みをもたらす風雨の招来を希い、災いをもたらす風雨の鎮静を念じ、また心の平安を祈る古くからの人々の素朴な信仰心に感じ入ることの多い道である。

※この紀行文は2009年11月取材時に執筆したものです。諸般の事情で現在とはルート、スポットの様子が異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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