高さ858メートルとはいえ、目指す青根ヶ峰への山道にはいささかの準備は必要と思われ、「山幸彦てくてく館」で非常食や飲み物を調達。登坂道の掛かりに「あきつの小野公園」があった。滝で修行した修験者達が開いたと伝えられる仙龍寺跡である。青根ヶ峰から流れてくる音無川に架かる反り橋を渡った先の広い平地は、桜の頃はさぞ美しいと思われるが、滝へ向かう鳥居の脇に、仙龍寺の苔むした石塔や梵字岩だけが残っている。
滝は、飛沫が美しい虹をつくるので「虹光(にじっこう)」とも呼ばれたそうだが、蜻蛉にちなむ故事は世々に伝えられ、『万葉集』の笠金村(かさのかなむら)の歌に詠まれたり、松尾芭蕉や本居宣長も滝見にきたりしたようだ。落差50mとされる蜻蛉の滝は数段に分かれ、激しく飛沫を上げながら滝壺に落ちる。
下から見上げ、真横から眺め、滝見台から覗き込むなど、色々な角度から楽しめるように、まわりに遊歩道が設けられている。いちばん下の濃い青緑に澄み切った滝壺のそばに、蕉門十哲の第一の門弟とされる宝井其角の句碑があった。「三尺の身をにしかう(西河)のしぐれかな」。その其角が滝見にやって来たのは、元禄7年(1694)9月のことだったという。