滞在アーティスト誘致交流事業 文化村AIR

 

“アートが社会をつなぐプラットホームになる”とともに、県民をはじめ多くの方々に文化芸術への関心を高めていただくことを目的とする取組です。「文化村AIR」では、全国から広く公募した中から、選考委員が選定したアーティストを招へいします。奈良の豊かな歴史・芸術・文化を体験し、また、地域との交流を深めながら、アーティストならではの新しい視点と切り口で表現する作品の制作・発表を行います。

 

令和7年度なら歴史芸術文化村滞在アーティスト誘致交流事業

「文化村AIR」滞在アーティストが決定しました。

なら歴史芸術文化村では、奈良の豊かな歴史・芸術・文化を体験し、地域との交流を深めながら、

新しい視点と切り口で作品制作を表現する国内在住アーティスト名(組)を公募・選考した結果、招聘するアーティストを

下記の者に決定いたしました。今後、文化村を中心とした地域(天理市・桜井市)にて、作品制作のリサーチなど行いながら

新作を制作します。子どもや地域の方と楽しむワークショップも行い、土地の文化や人との出会いを大切に活動します。

これからの活動にご期待ください。

 

 

 招聘アーティスト 早崎 真奈美 はやさき まなみ (東京都)

 

 ■略歴

 大阪府生まれ、東京都在住。

 京都市立芸術大学美術学部日本画科卒業後、ロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アート&デザイン卒業

 

アーティストステイトメント

 私は自然科学史と人間社会の関係性、生物の生態系に着目し、「生と死」「善と悪」「美と醜」などの二項対立を通し て、人間の本質を問い

 直す作品を制作しています。科学的に整合しているように見える体系の中にも、矛盾や微細なエラ ーが潜んでおり、そこに人間特有のエゴや

 執着、偏見といった感情が滲み出ると考えています。 例えば、「在来種」と「外来種」といった生物分類の枠組みは、生態系を守るための実

 用的概念である一方で、社会にお ける排他性や境界意識とも密接に重なります。私はこうした自然と人間の間に現れる曖昧な領域に着目し、

 それを視覚化 することを試みています。 主な手法は、紙を用いたインスタレーションです。切り出した紙片は平面的でありながら、空間に

 配置されることで影を 落とし、二次元と三次元のあいだを揺らぐ存在となります。その姿は、分断されたはずの対立項が、実は明確な境界を

 持 たず、共存・交差しているという私のテーマを象徴しています。

 

文化村での活動提案

 奈良での滞在制作では、古墳や山の辺の道など自然と人の営みが交差する風景をリサーチし、墨と切り絵を組み合わせた新たな

 インスタレーションを発表予定。地域の子どもや学生を対象とした墨や影絵のワークショップも計画している。

 

審査評

西尾 美也 (美術家/東京藝術大学 准教授)

 本事業も年を重ね、応募者のプランには奈良という土地の歴史的・文化的文脈を踏まえつつ、それぞれの表現を発展させようとする意欲が多く 

 見受けられました。今年度は例年にも増して多様なテーマが寄せられ、挑戦的な企画を採択したい気持ちもありましたが、早崎真奈美さんの提

 案がそれらと比較して決して評価が劣ることはなく、結果的に早崎さんが選出されました。その意味で、本事業が今後も多様なアプローチを歓

 迎しうるものであることは強調しておきたいと思います。

 早崎さんは、自然科学史と人間社会の関係性に着目し、二項対立を超えた曖昧な領域を作品化してきたアーティストです。黒い紙の切り絵や墨の 

 ドローイングを用いたインスタレーションは、二次元と三次元のあいだを揺らぎながら、対立項の共存や交差を象徴的に示す点で独自性がありま

 す。奈良の古墳や祭祀跡、山の辺の道といった文化的景観に強い関心を寄せ、自然と人工が重なり合う風景をリサーチの出発点とする姿勢は、本

 事業の趣旨に即しており、当地での滞在制作にふさわしいものです。

 地域との交流活動についても、墨を使った描画体験や影絵づくりを構想しており、応募条件を踏まえた上で、自身の表現手法と結びつける工夫が

 見られる点が特徴的です。さらに、書や画の源流を奈良に位置づけ、専門家や市民との交流を通して自身も学ぶ意欲を示していることは、参加型

 の活動として大いに期待できるところです。

 土地の歴史や自然と響き合いながら、早崎さんのテーマが奈良でどのように深められていくか、その成果を楽しみにしています

 

間 勇助 (奈良県立大学 地域創造学部 講師)

 初めて審査委員を務めるにあたり、奈良という土地の歴史や文化に対して、多くのアーティストのみなさんから、リサーチと交流を軸にした魅  

 力的なプランを提案いただき、大きな刺激を得ました。レジデンス・プログラムは、それぞれに目的や特徴があるものだと思いますが、なら歴

 史芸術文化村AIRは、アーティストと地域の人々との交流を大きな柱のひとつとしています。

 そのなかで早崎真奈美さんのプランは、奈良にも多くある古墳のような「人の手が加わった痕跡を感じさせる風景」や「自然と人工が共存する

 場」に関心を向けながら、ご自身の表現素材のひとつである「墨」についてのリサーチがあげられていました。奈良墨でも知られる通り奈良の

 墨の歴史は深く、また地域の方々にとっても馴染みある素材や表現です。しかし、意外なことにこれまでのレジデンス・アーティストにはほと

 んど取り上げられてこなかったものでもあり、早崎さんに来ていただくことで、見慣れた風景や素材に対して、新たな価値を探ってくださるの

 ではないかと感じました。

 

 このプログラムはアーティストと地域の人々との交流を軸としていますが、そのためには何よりもアーティストにとって刺激にあふれ、創造性

 を回復・深化させる機会であってほしいと思います。時に「よくわからない」アーティストの関心や振る舞いも、その生き生きとした姿が、結

 果的に地域のみなさんの創造性を誘発し、活気ある地域の源になっていくことを願います。

 

山本 雅美 (奈良県立美術館 学芸課長)

 4年目を迎える本事業に始めて審査員として関わった。応募条件が幅広く設定されているため、多様なジャンル、多様なキャリア、多様な年齢

 のアーティストの応募があった。特に、ヴィジュアルアートだけでなく、パフォーマンスやサウンドを取り扱うアーティストもおり、

 アーティスト・イン・レジデンスの幅広い可能性を感じた。

  今回、選出された早崎真奈美さんは、日本の精神文化の源泉を奈良の歴史に求め、特になら歴史文化芸術村の近隣の石上神宮や山の辺の道、  

 古墳群などのへの憧憬があるという。また、黒い切り絵のインスタレーションから、墨を使ったドローイングに展開している現在、あらためて

 墨いう素材に向かい合うために奈良に来るという。

  そういった、個人的な関心と奈良という土地が幸福に結びついたのが、今回のレジデンスのプランになるのだろう。中之条ビエンナーレや越

 後妻有・大地の芸術祭などへの参加した経験も、土地と地域の人とのかかわりから作品を生み出す力量を示していて、このたびの滞在では奈良で 

 どんな実りを得るのかが楽しみである。

 

 

今後の活動予定

 ・滞在制作期間 2025年11月4日(火)~2025年12月5日(金)

 ・制作場所   なら歴史芸術文化村 芸術文化体験棟3Fスタジオ301・302

 

 

 ・成果発表展  2025年12月6日(土)~2025年12月21日(日)

 ・場  所   なら歴史芸術文化村 芸術文化体験棟3Fスタジオ301・302ほか

 

日々の活動などは文化村インスタグラム、X等をご覧下さい。

 

  

 

 

  

アーカイブ

 

 

令和6年度滞在アーティスト   大槻 唯我

■滞在期間

制作期間  :2024年10月1日~11月15日

成果発表期間:2024年11月16日~11月27日

 

記録動画  記録集

        

 

令和5年度滞在アーティスト 杉原信幸×中村綾花

■滞在期間

リサーチ期間   :2023年9月21日~10月10日

制作 成果発表期間:2023年11月10日~12月10日

 

記録動画  ■記録集 2冊組  

          Aテキストを中心に構成    B日々の記録、記録写真

 

 

令和4年度滞在アーティスト 中尾美園(前期)大西健太郎(後期)

■滞在期間

前期:2022年8月2日~9月26日

後期:2022年10月1日~12月18日

 

記録動画  記録集