なら歴史芸術文化村滞在アーティスト誘致交流事業 文化村AIR
滞在アーティスト決定のお知らせ
全国各地からご応募いただき、誠にありがとうございました。
奈良の豊かな歴史・芸術・文化を体験し、新しい視点と切り口で表現する国内在住アーティスト1名(組)を選考し、招聘アーティストが決定いたしました。
来村者や地域の人々と交流を図りながら、自然や歴史など地域の文化資源を掘り起こし、ジャンルを超えて歴史と現代を繋ぐ新しい芸術表現を試みようとする、意欲あるアーティストの滞在中の活動にご期待ください。
■招聘アーティスト
杉原信幸×中村綾花 (すぎはらのぶゆき×なかむらあやか)
アーティストステートメント
生活と結びつく手仕事を行う帽子作家の中村綾花と美術家の杉原信幸のユニットです。民俗、考古などの側面から土地の歴史や文化のリサーチを行い、土地の記憶の欠片を繋ぎ合わせることで、土地に宿っている形を造形化し、その創作行為から生まれる身体による即興の舞を行います。土地の文化を受け継ぎ、生活とアートが分けられる以前の豊かな精神性と身体性を蘇らせることで、生活と美しさのともにある文化を呼び覚まします。わたしを超えて、地が語り始めること、それこそが表現です。
台湾、インドネシア、マレーシア、カナダと先住民のリサーチを続けることで、先住民が常に祖先と繋がる表現を行っていることに気づき、祖先との繋がりとは何かということを、自らのルーツとしての海の道、縄文文化を辿りながら、船、山、器、面などをテーマに様々な土地の文化を学びながら制作と考察を続けています。
■審査講評
西尾 美也(美術家/東京藝術大学 准教授)
民俗学や考古学に関心をもつ杉原信幸さんと中村綾花さんによるユニットは、自らの制作の目的について、「生活とアートが分けられる以前の豊かな精神性と身体性を蘇らせることで、生活と美しさのともにある文化を呼び覚ます」と表現しています。
多くの人がすでに知っている「アート」に比べると、お二人の考え方はすぐには理解し難いかもしれません。ただ、かれらの姿勢や制作学は、なら歴史芸術文化村の「複合的」なあり方に呼応するものでしょう。
今回のプランでも、①天理の昔話のリサーチ、②着物や帯を縫い繋ぐワークショップ、③楽器や舞で参加してくれる人の募集といった、お二人の特徴が反映された内容になっています。また、お二人のこれまでの活動の中で、天理参考館で見た彫刻や、三輪山の形にインスピレーションを得ている点も重要です。滞在することになる土地、そこで出会う人や素材、そして自らの感性とが、有機的で複合的な関係となって現れてくることが期待できるからです。
お二人と出会うことになる市民の方々が、アートという「わからなさ」に一歩踏み出すこと、かれらが目指す「この土地自体が語りだすような制作」に身を委ねてみることの機会を与えられると考えれば、それはアートを通じた本質的な「交流」事業になるはずです。
服部 滋樹(graf代表/クリエイティブディレクター/2025年日本国際博覧会協会CDCアドバイザー/京都芸術大学 教授)
お二人の活動が、この地の魅力を再価値化し、人々に伝えるべく可視化や体験を促して下さるように思えた。AIRの基本には、滞在する地の歴史や受け継がれた状況を対話や交流と様々な条件下でリサーチを行います。その方法論は無数。オリジナルなリサーチ手法によって生み出される作品群に期待をしたい。お二人のキャリアから感じる創造性は互いの手法を駆使し、導き出される空間性と体験だと思う。杉原さんは国内・海外問わず国際芸術祭での発表と、各地での民族学的リサーチによって生み出される基盤と土地、風土への解釈によって紡ぎ出される物語性ではないだろうか。一方、中村さんの手仕事は帽子作家として行われてきた繊細に組み立てられた質量観のあるカタチとして生み出されてきたのだろう。このような作家によって、数千年の歴史のレイヤーを各層事に捲り上げ狭間に起こっていたであろう出来事を私たちの手前へと表してくれるのではないだろうか。そして今までに無い新たな体験を共に歩んで行けそうだ。
松本 耕士(なら歴史芸術文化村 プログラムディレクター)
なら歴史芸術文化村は多機能複合施設です。
アートは、なら歴史芸術文化村が有するコンテンツの一部ではありますが、全てではありません。本施設のプログラムディレクターである私は、この特性をポジティヴに捉えることを心がけています。アートに限らず、本施設を構成する様々な要素が有機的に連携することによって、施設としての可能性をさらに広げていくことが重要だと考えています。この思考は、アーティストをはじめ本施設に関わる人々において、さらには周辺地域のポテンシャルにおいても、新たな可能性に繋がるものと確信しています。
今回は「杉原伸幸×中村綾花」のユニットが選考されました。
「『わたしを超えて、地が語りはじめること、それこそが表現』と語るお二人にこそ、『この地』を素材として提供したい。」と思いました。構想においては、どのようなこだわりを持って『この地』をリサーチされるのか。制作においては、どのようなアプローチで『この地』を表現されるのか。今から楽しみでなりません。
滞在期間:2023年9月12日~10月10日(リサーチ期間) 11月10日~12月10日(制作・成果発表期間)
主 催: なら歴史芸術文化村 滞在アーティスト誘致交流事業実行委員会(なら歴史芸術文化村・天理大学・天理市・桜井市)