「もしよかったら、大切なものをなくしたエピソードを教えてもらえませんか」
文化村に滞在し(2022年8月~9月)作品を制作したアーティストの中尾美園さんの成果展の会場で、学生さんが話しかけます。
これは、なら歴史芸術文化村が取り組んでいるアートコミュニケーターの活動の一端です。文化村に来ていただいた方に、アートをより身近に楽しんでもらうための架け橋の役割を、現在、奈良芸術短期大学の14名の学生さんが担ってくれています。
中尾さんは、解体される家にのこされた様々なものを拾い上げ、四角形に切り取り、日本画の技法で模写し作品化しました。今、私たちの身の回りで失われていくもの。それが、百年後千年後には、貴重な文化財になるかもしれない。ものに対する視点、気づきがテーマの一つです。
アートコミュニケーターの活動は、アーティストが伝えたいことを、来村者にどうアプローチするかが難しいところです。「大切なものをなくしたエピソード」は、中尾さんのアドバイスを受けながら学生さんが企画しました。
学生さんの問いかけに、この日は3時間ほどの間に10人の方がそれぞれのエピソードを文章にしてくれました。ある方は、古い建物で拾ったという石をこすり絵で表現してくださいました。「作品について深まった」「もう一度作品を観にいきます」など好評でした。
学生さんも「みなさん、エピソードがあっていろいろ聞かせてもらえてうれしかった」「時間のない方もいるので「今お時間いただいていいですか」からはじめるとスムーズだった」「正面に立つのではなく横や斜め後ろに立つ」など、コミュニケーションを通して得ることが多いようです。
アートコミュニケーターは、主体的なプレイヤーです。これまで、来村者と会話を楽しみながらの作品鑑賞や鑑賞ポイントに関連したワークショップなど、学生さんならではのアイデアを活かした様々な活動を行ってきました。
芸術文化体棟で展示などが行われている期間中の土日祝日を中心に活動しています。文化村に来られた折には、アートコミュニケーターとの対話を楽しんでいただけたらと思います。この看板が目印です。