左官の技に挑戦

 

秋のある日、文化財修復・展示棟で開かれた奈良県文化財保存事務所主催のワークショップ「知ってる?建造物修復の現場(左官編)」に参加しました。

文化財修理に欠かせない左官の技に挑戦する企画です。

リアルな『現場』にワクワク

ワークショップ会場は歴史的建造物修復工房。普段は入ることのできない場所です。

修理用の部材や道具の間近で活動するのって、すごくワクワクしますね!

まずは左官壁の解説から

 

文化村では修復工房を通年公開しているのでガラス越しに工房内を見学することができますが、ワークショップが行なわれるのは工房の奥の方。見学時にはほとんど見えないエリアです。

ちなみに文化財4分野(仏像等彫刻、絵画・書跡等、歴史的建造物、考古遺物)の修復工房の通年公開は日本初の試みで、当村学芸員が4分野の修復工房を詳しく解説をする修復工房見学ツアー(※注)もあります。


※注=修復工房見学ツアー(約40分)は休館日を除き、原則毎日14時から実施していますので、ホームページをご確認ください。

 

子どもたちは名人さん

いよいよ左官体験がスタート。土にワラと砂などを混ぜた材料を壁に塗っていきます。

利き手と反対の手に持ったコテ板に材料を乗せたら、次は利き手の左官コテで材料を壁の下地に見立てた板に押し当てて…。

講師からコテさばきを習う参加者

 

この日の参加者は小学生と保護者など私を入れて10人。みなさんの様子を撮影しつつ、私も挑戦したのですが……。

ボトン・・・。

いきなり、盛大に材料をぶちまけてしまいました。

「こう、下からすくい上げる感じで板に付けて」と手首を使ったコテさばきを実演してくれるのは講師の一級左官技能士・中村斗茂栄氏(橿原市・勇成技建代表)。
なるほど、とアタマでは理解しつつ四苦八苦する私の横で、カンの良い子どもたちがどんどん塗り進めていきます。

順調に塗り進める参加者

 

言い訳してしまいました

そのうちに私も何とか塗り進むことができるようになりましたが、今度は厚みにムラが。

「上に行く時はコテの上の方、下に行くなら下の方を少し浮かせて力を入れずに滑らせて」

中村氏の的確なアドバイスのおかげで、だんだん気持ち良く塗れるようになってきましたが、あっという間に終了時刻に。でも、「撮影しながらの体験だから」と取材を言い訳にして中途半端で終えた私以外は、約40分間の活動時間内にみなさん見事に完成しました。

角まできちんと仕上がった壁

 

ちゃんと伝わりましたね

両親と3人で大和郡山市から参加したSちゃん(小3)は「塗るの楽しかった。またやってみたい!」とノリノリ。

日本の気候風土に合った自然素材の左官壁が見直され始めたとはいえ、「左官」という言葉の意味さえ知らない若い世代もいます。

「知ってもらうことが技術の継承につながる」。そんな中村氏の思いが、伝わった気がするこの日のワークショップでした。

 

五感で感じる体験から文化財への理解が深まり、新たな視点が生まれる…。


文化村では左官体験をはじめ、今後も多彩なワークショップが展開されます。

 

 

プロも学ぶ修復講座>


左官体験の日、歴史的建造物修復工房では週末ごとの連続講座「奈良県文化財建造物保存修復講座」も開かれていました。

受講生はプロの左官のみなさん。通常の技術に加え、文化財の修理技術者に求められる知識や技術を学びたい、という意欲。素晴らしいですね!

東京から通う受講者は「1300年を超える長い年月、大切に培ってきた技術を学べるところなんて、世界中探したって、ほかにはないんじゃないかな」と話してくれました。