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本作は、大阪府立大学の村田右富実先生が監修でおおいに関わられているんですね。 |
つだ |
最初に『古事記』の世界を描くときに、高天原が天上にあって、葦原中国(あしはらのなかつくに)が地上、根の堅州国(ねのかたすくに)が地下にあってと、単純に「天上・地上・地下」ってイメージで描いたんです。ところが村田先生に、「今は、『古事記』の世界の並びは上下ではなく、水平というのが定説だ」と指摘されて。それは新鮮でしたね。「ガーン。それ早く言ってよ」って。3回くらい描きなおしさせられてるんで(笑)。
それと、イザナギが死んだイザナミに会うところは、黄泉比良坂(よもつひらさか)を下がって死の国(根の堅州国)へ行くのでなく、山の上に上がって行くというのも、ものすごくびっくりしました。死の国が地下にあるっていう世界観は、上代のだいぶ後になってからのものなんですって。言われてみれば、山の向こうに死の世界があるというほうが、イメージしやすいかも。 |
村上 |
山の向こうっていうか、生と死が分かれていない感じ。その境目をどこではっきり認識するのかが、今の感覚と古代とで違う感じですよね。こちらからは行けなくても、死者は生きている人のところに訪れることができて、来ないようにお供えをするというように、今と感覚が違うっていうことじゃないでしょうか。 |
つだ |
そういったことを村田先生に教えられて、『古事記』の世界観が、ものすごくしっくりきました。 |
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村田右富実先生は国文学の先生なので、言葉の意味などについても詳しいですよね。 |
村上 |
そうなんですよ。たとえば、イザナミがイザナギに「『よもつへぐい』しちゃったから、死者の国にいなきゃいけない」みたいなことを言うところ。私たちにしてみれば「えっ、『よもつへぐい』ってなに?」みたいな。そういう言葉の解説をしてくださったり、「ことどわたし」は大事なことを渡すという意味だと教えてくださったり。黄泉比良坂で、大きな岩をはさんでイザナギがイザナミに「離婚します」と告げる場面で出てくる言葉です。 |
つだ |
上代のもともとの言葉の響きもいいんだなって。『古事記』を原文で読むのもいいですね。 |
村上 |
『古事記』を書き下し文にすると、原文でもほとんど意味がわかります。だから、稗田阿礼が語ったときそのままの言葉で、みんなに聞いてもらいたいなって。今度、「聞く古事記」っていう催しはどうですか? |
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奈良県で『古事記』の朗誦をする企画があります。『古事記』の好きな部分を声に出して読んでもらおうという大会です。 |
村上 |
『ヨセフ・アンド・ザ・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』ご存知ですか?『オペラ座の怪人』の作曲家、アンドリュー・ロイド=ウェーバーのミュージカルなんですけど、旧約聖書にあるヨセフの物語で、イギリスでは子どもたちが学校で必ず演じたことがあるという、とてもポピュラーな作品です。一度でも演じた経験があると、ただ物語を読んだだけじゃなくて、なじむというか。声に出すというのは、とても大事なことです。『古事記』の朗誦大会にも、子どもさんが参加したら、かわいいでしょうね。 |