「 日本の原風景に出会う古事記の世界」
記紀・万葉プロジェクト/古事記完成1300年記念シンポジウム
2012年1月29日
会場・ル テアトル銀座
チラシにリンク
プログラム
第1部 |
●オープニング
「古事記を歌う、古事記を哀しむ」
吉桑道子氏(歌)、菅原真理子氏(作曲)、松村佳子氏(ピアノ演奏)、千田稔氏(古事記解説)
●主催者挨拶
●全国古事記ゆかりの地サミット
「古事記・日本書紀・万葉集、今、ここから」
奈良県知事 荒井正吾
福井県知事 西川一誠氏
鳥取県知事 平井伸治氏
島根県知事 溝口善兵衛氏
宮崎県知事 河野俊嗣氏
奈良県立橿原考古学研究所所長 菅谷文則氏
奈良県立図書情報館館長 千田稔氏 |
第2部 |
●NEWせんとくんと平成伎楽団、各県のキャラクター登場
●里中満智子氏特別講演
「史上最強のパートナー天武天皇と持統天皇~
古事記・日本書紀に隠されたストーリー~」
|
本シンポジウムは、記紀・万葉プロジェクト/古事記完成1300年記念事業の開幕イベントとして開催された。
第1部 オープニング「古事記を歌う、古事記を哀しむ」
奈良県立図書情報館館長・千田稔氏による古事記の解説に合わせ、菅原真理子さん作曲の楽曲が、松村佳子さんのピアノで演奏された。奈良県出身の声楽家・吉桑道子さんの歌声が、参加者を『古事記』の世界へと誘った。
主催者挨拶
歌の余韻が残る中、主催者である荒井正吾・奈良県知事が挨拶。「ゆかりの地を歩きながら、先祖の息吹を『古事記』の中に感じてほしい」と本イベントのねらいを語った。
『古事記』の一節が美しい歌に
全国古事記ゆかりの地サミット「古事記・日本書紀・万葉集、今、ここから」
荒井・奈良県知事、西川・福井県知事、平井・鳥取県知事、溝口・島根県知事、河野・宮崎県知事、奈良県立橿原考古学研究所所長の菅谷氏が登壇。コーディネーターに奈良県立図書情報館館長の千田氏を迎え、「古事記・日本書紀・万葉集、今、ここから」というテーマで各県の『古事記』に由来する魅力が語られた。
まず、荒井・奈良県知事より、『古事記』を編纂した太安万侶の話、八咫烏(やたがらす)のいわれ、倭建命(やまとたけるのみこと)の物語等が紹介された。そして、本居宣長の言葉を引用し、「良いことも悪いことも乗り越えてきた日本民族を語る古事記に触れて、今の日本のパワーを導き出したい」と語った。
溝口・島根県知事は「神々の国しまね」キャンペーンの紹介や、かつて出雲大社が東大寺よりも大きかったことを物語る巨大な柱の発見、来年はその出雲大社が60年に一度の大遷宮を迎えること等を紹介した。
平井・鳥取県知事は、因幡の白兎のゆかり地を紹介。大国主命(おおくにぬしのみこと)が兄の嫉妬を受けて死にながらも二度も再生するという話から、震災後の日本が蘇ろうとする原点は山陰にあると語った。
西川・福井県知事は、福井県が古くは「高志の国」と呼ばれ、『古事記』では「高志のヤマタノオロチ」などと書かれていると紹介。また、「越前がに」など美味しいものが多く、越前国一ノ宮、氣比神宮の祭神も食べ物の神様であると紹介した。
河野・宮崎県知事は、天孫降臨の地とされる宮崎県の高千穂町と高原町の高千穂峰、国の重要無形民俗文化財の高千穂の夜神楽、「日向のお伊勢さま」と呼ばれる大御神社を紹介した。
菅谷・奈良県立橿原考古学研究所所長は、考古学的な観点から「実際の貴族の生活と『古事記』で理想もまじえて描かれた歴史には矛盾があり、『古事記』の世界に考古学が直接アプローチするのは難しい面もある、しかし、神話の裏にある史実を明らかにするというスタンスをとると『古事記は感じるもの』という結論になる。いいとこどりで楽しむことこそ、科学的になると同時に夢も崩さない最良の方法だ」と述べた。
荒井奈良県知事と各県の知事らが活発に発言
後半は、『古事記』に由来する宝物を中心に、各県の観光戦略を伺った。
溝口知事は、「島根県には昔のままの風景が残っている。現場を見て神話の世界を身近に楽しんでもらえるよう、ガイドや周遊バスを整備する」と説明。
平井知事は「稲吉角田遺跡から出た土器に大きな船の絵が描かれており、かつての大交流時代がしのばれる。既成の世界観を変える必要があるかもしれない」と話した。
西川知事は、「継体天皇は福井県育ちであり、8年後に完成1300年を迎える日本書紀に詳しく書かれている。記紀を合わせてその世界観を楽しく学んでいきたい」と語った。
河野知事は「今年を希望の光が差し込む岩戸開きの年にしたい。記紀編纂1300年記念事業で、古事記ゆかりの文化・歴史資源を全国に発信したい」と述べた。
荒井知事は「国取りを思わせる政権交代があっても、大事なものを1000年も2000年も残してきた日本にはやはり力がある。本日を古事記イヤーの始まりとして、『古事記』の世界の扉を開き、多くの人に日本のパワーを感じてもらいたい」と語った。
菅谷所長は「33年前、太安万侶の墓が奈良で発見されたことで、実在が証明され、『古事記』の信憑性も高まった。奈良でゆかりの地を巡ったあとは、ぜひ橿原考古学研究所附属博物館で墓誌の展示も見学してください」とゆかりの地だけでなく、埋蔵文化財も豊富な奈良県の魅力をPR。
千田館長が「本日披露された各県の、記紀万葉ゆかりの観光名所には、これまであまり知られていないところもあったと思う。改めて心に留め置いていただきたい」と結んで、全国古事記ゆかりの地サミットは終了した。
第2部
NEWせんとくんと平成伎楽団、各県のキャラクター登場
官人姿のコスチュームの、NEWせんとくんと、『古事記』ゆかりの地のキャラクターが登場、さらに、せんとくんの生みの親・籔内佐斗司氏プロデュースによる平成伎楽団の五鹿坊とせんとくんらがダンスを披露。会場は楽しい雰囲気に包まれた。
NEWせんとくんと、各県のキャラクター。
中央は籔内氏
特別講演
「史上最強のパートナー天武天皇と持統天皇
~古事記・日本書紀に隠されたストーリー~」
『古事記』が形になり始めたのが、天武天皇と持統天皇の時代であり、「二人は戦友とも言えるパートナー」と指摘。「そもそも記紀の編纂は、百済と手を組んだ日本軍が、新羅・唐の連合軍に敗れたことを機に取り組まれたとみられる。中国の属国となるのを避け、世界に独立した国と認められるために正式な国史が書物の形で必要だったためで、日本国の存続を賭けた重要な国家プロジェクトの一つだったと説明。
そのプロジェクトに取り組んだのが天武天皇で、後に持統天皇となる皇后と二人で政治を執り行ったが、志半ばで亡くなってしまう。皇后は息子の草壁皇子が即位しないまま亡くなると、残されたプロジェクトを成し遂げるために自ら即位。しかし、歴史書の編纂は中国に歴史的証拠として認められるだけの、いわゆる辻褄合せも必要だったために難航した。そのため、物語性豊かで先祖の気持ちを大事にした『古事記』、対外的な面を強調した『日本書紀』に分かれた」と記紀の成り立ちについて語った。
「古代の人にとってはそのときが現代。『近代国家としての日本再生』という夢を描いた天武天皇と持統天皇という史上最強のパートナーともいえるおふたりがいたからこそ、歴史書が完成に向かい、日本国も独立したまま存続できた。侵略されることもなかったがゆえに、私たちは1300年以上も同じ言語を使い、遠い先祖の物語を今も直接読むことができるのは幸せなこと。『古事記』を読む時、その物語を大切にしてきた多くの人々の気持ちにも思いは馳せたい」と締めくくった。
わかりやすい言葉で『古事記』を語る里中氏