記紀・万葉講座

「今、記紀・万葉が語ること」

古事記完成1300年記念 プレ・イヤーフォーラム

2011年3月13日
会場・奈良県橿原文化会館

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プログラム
第1部 基調講演1 「記紀・万葉と日本人の心」 奈良県立万葉文化館館長 中西進氏
基調講演2 「古事記の国際性」 奈良県立図書情報館館長 千田稔氏
レクチャー 「出雲神話の世界」 荒神谷博物館館長 藤岡大拙氏
ステージ 石見神楽 島根県浜田市・大尾谷社中
第2部 パネルディスカッション 「記紀・万葉集と奈良」
パネリスト:
奈良県立万葉文化館館長 中西進氏
奈良県立図書情報館館長 千田稔氏
奈良県立橿原考古学研究所所長 菅谷文則氏
荒神谷博物館館長 藤岡大拙氏
司会進行 毎日新聞奈良支局長 山内雅史氏

本フォーラムは、「古事記」完成1300年を記念して平成24年から始まる、記紀・万葉の世界に触れるプロジェクトのプレ・イヤーフォーラムとして開催された。

まずは中西進氏による「記紀・万葉と日本人の心」と題した基調講演。
【要旨】「『古事記』は祖先の物語を語り伝えるもので、そういうものの中から年代記で並べ直したのが『日本書紀』。古い物語の散文の間の歌だけを取り出してできたのが『万葉集』。こうして、記紀・万葉は、古代人のドラマを補完的に伝えようとしている。この補完的に伝えようとした心とは、混沌とした国作りの時代の記憶とともに、今日まで受け継がれてきた『感傷力の文化』と呼ぶべきものだ」。

続いて、奈良県立図書情報館館長・千田稔氏による「古事記の国際性」と題した基調講演。
【要旨】「『古事記』の中の神話―例えば伊邪那岐(イザナギ)・伊邪那美(イザナミ)の話にしても海洋民の神話、中国の影響を受けているように、実は日本で生まれた純粋なものではなく、周辺諸国の神話の影響も受けている。だから、『古事記』の話をすることは決して国粋主義的なことではない。むしろ、神話を読むことによって、広い国際社会に出て行くのだと考えてほしい。学校教育で『古事記』を扱うときも、東アジアというグローバルな世界から生まれてきたのだという点をきちんと教えることが大事である」。

荒神谷博物館館長・藤岡大拙氏から「出雲神話の世界」というテーマでレクチャー。
【要旨】「平安時代の出雲大社は奈良の大仏殿よりも大きかった。最初からではなく、遷宮や再建のたびにだんだん大きくなってきたのではないか。これは祟り神としての出雲の社の神を畏れたからであり、鎌倉時代になり、急に小さくなったのは、鎌倉政権が祟り神的なことを畏れなかったと解釈できる」。

ここで、島根の大尾谷社中による石見神楽が披露され、須佐之男命(スサノオノミコト)の大蛇退治を題材とした「大蛇(おろち)」が演じられた。その余韻の残る中、荒井正吾・奈良県知事が主催者を代表して、東日本大震災の被災者に対する哀悼の意を述べ、「復興に向けて歩まれる姿に日本人の誇りを感じる。そのエネルギーは古代から受け継がれたものである。その心に根差した記紀・万葉をテーマにした取組みを進めていきたい」と挨拶があった。

第2部は、第1部で講演された中西氏、千田氏、藤岡氏と、奈良県立橿原考古学研究所所長・菅谷文則氏をパネリストに、「記紀・万葉集と奈良」をテーマにパネルディスカッションが行われた。
前半は『古事記』『日本書紀』『万葉集』の基本的な魅力について意見が交換された。まず、菅谷氏から考古学の視点から神の持つ刀を通した製鉄の歴史と、神話研究による事物起源論からの鉄の起源が紹介され、続いて、中西氏から歴史文学の視点で、世界に存在する生贄の話に照らした奇稲田姫(クシナダヒメ)の話と、それに繋がる縁結びの神の信仰について話があった。これを受けて、藤岡氏から出雲神話に向けられた戦後の歴史学の評価の変遷と、それに対する出雲の人々の心情が紹介された。千田氏からは『古事記』における北方アジアと南中国の神話の融合という水平軸、天と地の垂直軸による、自然を踏まえた『古事記』の宇宙観の解説がなされた。
後半は「記紀・万葉集と奈良」というテーマで話し合った。藤岡氏は国譲りの神話において「大和の神々は現実世界、出雲の神々は黄泉の世界を支配する」という対極の形を説き、中西氏は地勢から香久山の重要性、汽水圏による出雲文化の繁栄、自然的な出雲系信仰を日本の信仰のベースとする説を紹介した。千田氏は、「記紀」の舞台以外に何もない奈良県の中和・南和が注目されることで、「記紀・万葉プロジェクト」を通じ日本の観光スタイルが変わると期待を寄せ、菅谷氏は「古事記」の神話が大和化した神話であることを踏まえずに神話を論じることの危険性を示した。
最後に、司会の山内氏が、「興味を持ったところから入って、奈良や出雲が愛されるような学びをしていただくことにこのディスカッションの意味がある」と結び、プレ・イヤーフォーラムは終了した。