古代の一端に触れることができる「万葉集」を読むと、特定の語句を引き立てる枕詞をはじめとした、その表現の豊かさに感嘆を覚えます。私はなかでも万葉歌に見られる、歌の世界へと読み手を導く序詞にひらめきを得て「序詞」と題した楽曲を制作したことがあります。その「序詞」を冒頭曲とし、<続きを読む>
複数の楽曲が重なりながら最終的に大きな終結点に至るという、フィールドレコーディングによる自然音を調えたコンセプトアルバムを発表したのですが、後にその表現手法が「万葉集」の歌群に通じていたことを知って驚きました。
表現とは、どの時代であっても“伝えたい”という明瞭な願望から全てが始まっていると思います。神や自然、人間、宇宙など対象は様々であっても、その思いをより深く伝えたくて、人は歌い踊り、壁に絵を描き、美意識の中で表現方法を模索してきたのではないでしょうか。
「万葉集」の編纂が始まった飛鳥時代は、「日本」という国名が誕生した激動の時代でした。約百二十年の間に律令制や戸籍、時間の概念など、社会を統制するためのたくさんの決まり事が導入されました。反面、その急激な変化の中で、人々はそれまでにはなかった苦しみや不自由さを知ったのではないかと思います。苦しみが生まれれば幸せが際立ち、汚れが目立つようになればきれいなものに憧れるのが人間です。そうして育まれた感情の濃淡こそが情緒として磨かれ、より表現を彩った時代なのかもしれません。
「万葉集」では古代の人々が愛し合い、死を悼む歌や、夜空を海に、月を舟に見立てるなど自然との深い結びつきを感じ取る歌が多く詠まれています。この情感豊かな歌の芸術は遠い昔から現代に至るまで美しい旋律で響き渡り、私の音楽制作に共鳴します。
日本の始まりを伝える文化遺産「飛鳥・藤原」の地を訪れ、「万葉集」の歌枕を巡る旅は、その魅力を味わう絶好の機会となりそうです。
プロフィール
Nao’ymt (なおわいえむてぃー)
音楽家、音楽プロデューサー
三浦大知、安室奈美恵、AI、山下智久など、数多くのアーティストに作品を提供する傍ら、「Sunrise」、「Japanese Summer Lost」 などのオリジナル楽曲も発表。映画「ドラゴンボール超 ブロリー」の主題歌として書き下ろした「Blizzard」をはじめとした映画主題歌も制作する。
日本ゴールドディスク大賞、日本レコード大賞、優秀作品賞を受賞。
三浦大知のアルバム「球体」では、日本の美意識を取り込んだ独自のコンセプトから、全17曲の作詞・作曲・プロデュースすべてを手掛けた出色の出来である。
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