これも奈良時代の話です。奈良時代の『万葉集』に、山上憶良(やまのうえのおくら)が秋の七草の歌を詠んでいます。秋の七草の一つがクズ (葛 )の花です。しかし、吉野本葛は、葛の花の話ではなく、根の話です。
葛はつる性の植物で、山野に自生しています。「吉野本葛」は、この葛の根からつくるでんぷんの粉です。植物の根からつくられるでんぷん粉はほかに片栗粉やわらび粉があります。この葛粉から葛餅や葛切りがつくられ、和菓子の材料や料理のとろみなどにも使われます。
しかし、葛の根は、むかしは食べ物ではなく、薬でした。中国の古い薬草のことを記した文献に葛根のことが出ています。また奈良時代の木簡に、「葛根」と記したものがあり、他の様々な薬草を記した木簡といっしょに出土しています。葛の根は首筋のこりをとる鎮痛作用があり、いまでも薬として使われていて、葛根湯という漢方の風邪薬がそれです。
薬だった葛の根が、いつしか食用の葛粉になっていきました。これは、奈良時代に中国から伝来したお茶が、薬用から飲用になり、いまでは抹茶アイスにまでなっているのとよく似ています。
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