大英博物館や
ボストン美術館が
指名する
吉野伝統の手漉き和紙。
奈良県には世界に誇る
数多くの工芸品があります。
そのひとつが吉野郡吉野町で
作られている「吉野手漉き和紙」。
地域の小学校の卒業証書から、
世界の名だたる美術館・博物館で
使用する修復用の和紙まで
長く、広く、愛用されています。
「1000年保存できる紙」である
吉野伝統の手漉き和紙につい
てご紹介します。
雄大な川と山に囲まれた
小さな集落に
江戸時代から
継承される手漉き和紙。
奈良県の中央部、吉野郡の北部に位置する吉野町。町の中央部を東から西に吉野川が流れ、春はヤマザクラ(吉野桜)の名所としても全国的に知られています。雄大な山と川に囲まれたここ吉野町の小さな集落に、1300年もの間継承され続けている伝統工芸があることをご存知でしょうか。それが吉野手漉き和紙。「壬申の乱で吉野で兵を挙げた大海人皇子(後の天武天皇)が国栖(くず)の里人に紙漉きと養蚕を教えたのが始まりである」と伝えられ、時代が変わりゆく中でも静かに、丁寧に、この伝統が守られ続けています。
この土地で育てる楮を原料に、
薬品を使わず
およそ48の工程を経て
最高級の和紙が仕上がる。
現在、吉野手漉き和紙を作っているのは5軒であり、そのひとつが江戸時代から続く福西和紙本舗さんです。6代目の福西正行さんにお話を聞くと、今も製法は昔から何ひとつ変わっていないとのこと。原料である楮(こうぞ)の栽培、伐採にはじまり、楮を蒸す、剥ぐ、黒皮を削る、吉野川でさらす、干す、というように楮の処理だけでも手間と時間をかけた工程。この楮を煮てアクを洗い出し、楮の繊維を叩いて紙素へ。この紙素に白土などの天然素材を混ぜてようやく手漉きの段階へ進みます。実に48もの工程を経て、最高級の和紙が仕上がっていきます。
1000年残る紙として、
世界有数の美術館や
博物館が
「この紙でなければ」と使用。
今、私たちがノートやメモなどに使用している大量生産された一般的な紙の場合、その寿命は数十年から100年程度と言われていますが、吉野和紙の中で最も高品質な木灰煮宇陀紙の寿命は1000年。この桁違いに長く保存できる理由は、化学薬品を使わない木灰汁による楮煮き、白土の使用、石の上で行う紙素打ちなどによって強くて破れにくく紙色が変わらない特性につながっていると、最近になって科学的にも解明されてきたそうです。
1000年前の記録が今に残り、今の記録が1000年後に残せるのは木灰煮宇陀紙ならではのもの。この耐久性と美しさ、扱いやすさによって、国内の書跡や絵画等の文化財修復はもちろん、アメリカのボストン美術館やイギリスの大英博物館でも最高峰の紙として使用されています。
この製法を変えない、
守り続ける。
だからこその難しさと
本物を伝えていく決意。
原料だけでなく、福西さんが使用している道具はすべて国産品で、紙漉きの際に使うすだれが四国の職人によるものなど、日本各地の職人の知と技がこの和紙に込められています。そして福西さん自身も表具用手漉和紙(宇陀紙)製作の選定保存技術保持者としてときには各地に赴き、文化財を守るための和紙製造の支援にも尽力されています。
世界の美術館や博物館が認める木灰煮宇陀紙。世界をつなぎ、歴史をつなぎ、技をつないできたこの和紙を、この先の未来につなぐために「本物の紙として、これからも何も変えずにやっていく」と話されていた福西さんの言葉が印象的でした。
取材・撮影協力
福西和紙本舗 六代目
福西 正行 氏
「表具用手漉和紙(宇陀紙)製作」
選定保存技術保持者
奈良県伝統工芸士