各界の識者が語る「わたしの記紀・万葉」

第11回 桜井市長 松井 正剛氏

記紀・万葉プロジェクトを機に、「はじまりの地・桜井」の魅力を市民・行政一丸となって発信したい 

桜井市長 松井正剛氏

日本の歴史は、この地から始まった


桜井の地は、日本の黎明期の歴史と深く関わっていることが記紀・万葉に詳しく記されています。その点から教えて頂けますでしょうか。
松井
まず、桜井市内にある鳥見山は、神武天皇の大嘗会(即位の後、最初に行う祭事)の舞台とされていまして、天皇が大孝を述べられた碑「鳥見山中霊畤」が等彌神社にあります。
また、10代・崇神天皇から32代・崇峻天皇までの間、実に13の宮都に、桜井の地が含まれていたそうです。
特に、10代・崇神天皇の磯城瑞籬宮(しきみずかきのみや)、11代・垂仁天皇の纒向珠城宮(まきむくたまきのみや)、12代・景行天皇の纒向日代宮(まきむくひしろのみや)は、いずれも三輪山のふもとにあり、「三輪王朝」という初期大和政権の舞台として捉えられています。
さらに今、注目されているのが、纒向遺跡(まきむくいせき)。ここは、卑弥呼の宮殿跡かという建物跡が2年前に発見され、現在は邪馬台国の最有力候補地です。
だから、神武天皇がまず大和を制定され、邪馬台国と卑弥呼が現われ、そして崇神・垂仁・景行天皇が日本を統一し…そんな流れじゃないかと私は思っているんです。
桜井を訪れる方には、ここで歴史のロマンを感じて頂きたいし、私たちも、桜井が日本の始まりの地であることを大いにPRしたい。
始まりといえば、『万葉集』の最初の歌が詠まれたのも、ここ桜井です。
松井 そうなんです。雄略天皇が『万葉集』の巻頭歌を詠んだ地として「万葉集発燿の地」の碑が、白山神社があります。
他にも桜井は、垂仁天皇の時代、野見宿禰(のみのすくね)と当麻蹴速(たいまのけはや)が我が国で最初の天覧相撲を行った「相撲発祥の地」でもあるし、日本芸能発祥の地でもあります。また。仏教が最初に伝来したのも桜井市金屋であると『日本書紀』にあります。
桜井が、国の始まりだけじゃなくて、色々なものの「発祥の地」であることも、この機会に多くの方に知って頂けるとうれしいです。

六街道には見所がいっぱい


桜井市にはたくさんの記紀・万葉スポットがあって、 なかなか絞れないとは思いますが、初めて桜井に来られる方に まずここは見てほしいという所はどこですか?
松井 まずは「山の辺の道」に来て頂きたいですね。三輪山麓には、先ほどあげた崇神・垂仁・景行天皇の宮の跡もあるし、纒向遺跡にも来てもらえれば、桜井市が日本の歴史文化の始まりの地だというのを実感して頂けると思います。
また、桜井市には「山の辺の道」を合わせて6つの街道があって、それぞれに記紀・万葉とのゆかりがあります。
例えば「伊勢街道」だったら、『万葉集』の巻頭歌を詠まれた雄略天皇の泊瀬朝倉宮(はつせあさくらのみや)。
「忍坂(おっさか)街道」では、神武天皇の東征の際に、桜井の忍坂という場所で「まつろわぬもの」いわゆる従わぬ者を、酒を飲ませて征伐したという逸話が『日本書紀』に残っています。
また「多武峰(とうのみね)街道」が続く談山神社は、中大兄皇子と藤原鎌足が、有名な「大化の改新」の談合をした所です。
記紀・万葉には、古代、「中ツ道」や「上ツ道」など多くの道が、 大和にあったことが伝えられていますね。
松井 大和を南北に走る道が「上ツ道・中ツ道・下ツ道」。大阪から来ているのが「横大路」。桜井は、それらを東西につないでいます。
実は今年の春、中和幹線が開通した時に、私はこれを機会に、周辺の天理や橿原、飛鳥と連携して広域観光を行っていこうと言ったんです。その発想の源は、これら大和の古道を、もう一回復活させようというもの。
日本の歴史の始まりが桜井だとしたら、次に飛鳥、橿原の藤原京、そして北和の平城京という広がりが、宿泊型観光につながっていくのかな、と。それが、記紀・万葉プロジェクトの一つの目標だと思っています。

点から線に、線から面へ

「記紀・万葉」にまつわるイベントとして、桜井市では、 毎年9月に「万葉まつり」を開催されていますね。
松井 1975年から始まって、今年で38回目。毎年恒例の行事です。
今年は、金屋の河川敷に初めて『万葉集』朗唱のステージをやります。当時の衣装を着けて、万葉歌を朗唱してもらうという企画で、一昨年にサブ的にやってみたのが、皆さんから好評だったんでね。
また、お祭りといえば11月4日の「忍坂街道まつり」。
これは、忍阪地域の方々が自分たちで、記紀・万葉とのつながりを積極的にアピールしようと熱心に取り組んでおられます。行政としても、支援しながら一緒に進めているところです。
やはり、地域の人から発信してもらいたい。桜井市全体が同じ方向を向いて、観光を中心としたまちづくりをしていきたい。
そのためには、市民の皆さんが、桜井市の素晴らしい歴史文化をもっともっと知って頂き、自信と誇りを持ってもらいたいな。桜井市が日本の始まりだ、と子どもたちにも教育もしていかないとあかんし。
それを、こういったイベントを通じて推進していければと思います。
市民の皆さんが、問題意識を持っておられるのは大切ですね。 他には、どんなイベントや取り組みを考えておられますか?
松井 『万葉集』関連では、市内の万葉歌碑を巡るラリーや拓本教室です。4,500余首ある万葉歌の中で、桜井には60数首もの歌碑があるんですよ。
それと、奈良県がJRとタイアップして行う「古事記ガイド列車」では、午前と午後に1便ずつ、万葉まほろば線の奈良駅と桜井駅を往復します。そこで、観光ボランティアガイドによる車内案内や、桜井の駅前で古代服を着てのお出迎えなどを考えています。
他にも、来年2月に東京で行なう「纒向学セミナー」や、桜井の市民会館で行う「記紀・万葉リレートーク」などがあります。
記紀・万葉プロジェクトが始まったことをうけて、 桜井市では「記紀万葉プロジェクト推進協議会」が発足されました。
松井 観光協会や商工会、各地域でまちづくりに頑張っている会やNPOなど、市内の33団体に参画して頂いています。
記紀・万葉プロジェクトは、記紀・万葉のふるさとである桜井市を全国的にPRするのに絶好の機会なので、奈良県と一緒に「オール桜井」で取り組んでいきたいと思っています。
また、協議会の中には、行動力のある若い人たちも多くいるので、今後はその方々を中心に組織づくりをし、これからの桜井市の観光、まちづくりの核になっていけばいいですね。民間の人がものすごく盛り上がっているのは、桜井の強さです。
私は市長になる前に、観光協会の会長を3年間務めました。その時に、桜井の歴史文化をどう活用して観光につなげればよいかを、皆さんと一緒に真剣に考えさせて頂きました。
桜井には、素晴らしい史跡はたくさんあるけど、それらが点在している。それを点から線に、線から面になるよう観光戦略を立てていきたい。例えば、桜井の一番の目玉は纒向遺跡ですが、そこへ来た人には三輪へ来てもらい、三輪へ来られた人は、南の桜井茶臼山古墳、そして市内の七社寺へ、というふうに。
これを「記紀・万葉プロジェクト」と連携をとって実現したい。
そして観光を通じて、地場産業を再生して、日本一住みたい街になるよう頑張っていきたいと考えています。
まつい まさたけ
プロフィール
1952年 桜井市生まれ。大阪歯科大学卒業。
1983年より奈良県議会議員(6期)
2011年12月より現職。