ならの彩りさん!

大和郡山市【郡山城跡】

400余年の歴史が体感できる景観づくり

大和郡山市【郡山城跡】

<インタビュー>
大和郡山市役所
都市建設部都市計画課
中 稔生さん
松尾 健吾さん

郡山城の整備事業について教えてください。

郡山城は多くの市民の皆さまに身近な憩いの場として親しまれ、桜の名所としても愛されています。特に城内の中心にある天守台は誰でも気軽に登ることができ、大和郡山の街並みをはじめ、平城京大極殿や薬師寺、若草山までを一望できる人気スポットでした。しかし、400年を超える歴史を経た天守台は石垣の変形や破損が進み、そのままでは崩落の危険があることから近年は立入禁止となっていました。平成23年に奈良県景観条例によって「城跡と奈良盆地が眺望できる郡山城天守台付近」が奈良県景観資産に登録されたことをきっかけに、より魅力ある眺望施設として整備することになりました。
整備を進めるにあたって検討されたのは、歴史的な構造物である石垣を可能な限り現状のまま保存することでした。専門家の方々にも指導をいただき、事前発掘調査や石垣調査、地質調査などが入念に行われた後、本格的な整備が始まりました。事業は平成25年度から4年間にわたり、平成29年3月にいまの展望施設が完成し、来場された皆さまからも大変、ご好評をいただいています。

  • 若草山も見える雄大な眺望

  • 郡山城跡空撮 桜のころ

  • 整備された天守台石垣と遊歩道

  • 整備後の天守台頂上へは手すり付きの石段を設置

  • ガラス張りの下は発掘で明らかになった「天守の礎石」

景観向上の取り組みについてお聞かせください。

展望施設を整備するにあたって検討されたのが、頂上からの眺望景観の向上、そして道路や遊歩道など外周から見た郡山城の景観の向上です。まず、頂上からの眺望の妨げとなっている背丈の高い支障木を伐採し、どの方角でも市街地が見えるようにしました。それまでは見えなかった周辺の遊歩道からも天守台がはっきりと見えるように周辺の植栽整備も行った結果、郡山城全体の景観がより美しくなりました。もっとも苦労したのが、石垣に生えている雑木や雑草の除去です。石垣の崩落の危険も考えられるなか、手作業で行われ、本来の天守台の姿、堀の姿が蘇りました。今後は堀の石垣についても同様に、雑木・雑草の除去を行っていく予定です。

完成した天守台展望施設

事業を行う上で課題となったことはなんですか?

内堀沿いの外周遊歩道からの景観

木の伐採の仕方、特に桜については市民の皆さまからさまざまなご意見やご要望をいただきました。「日本さくら名所100選」にもなっている郡山城の桜をなぜ切るのか、という声が一番多かったですね。これについては、桜の根の影響により石垣が崩落する恐れがあるため、安全性を最優先した整備計画であると丁寧に説明させていただき、ご理解をいただくよう努めました。
伐採にあたっては、景観だけを考えて切るのではなく、現在の木の健康状態をよく見極めることや、補植計画とも照らしながら、どの木を伐採し、どの木を残すかの選択に頭を悩まされました。それらの課題と向き合いながらの事業は苦労の連続でしたが、やりがいも責任感も大きい事業だったと満足感でいっぱいです。

今後の取り組みについて教えてください。

展望施設が完成した平成29年の春以降、郡山城を訪れ、天守台に登られる方が急増しました。桜のシーズンが終わっても訪れてくださる方がたくさんいて、素晴らしい眺望に感動したと喜ばれています。観光面でもかなりの効果があり、郡山城の魅力が一気に高まったと思います。今後も、さらに多くの方々に来ていただけるよう、「観月会」などさまざまなイベントを企画し、観光PR活動にも力を入れていきます。なかでも、いま注目を集めているのがスマートフォン向けの観光案内アプリ「ココシル大和郡山城下町」です。専用アプリをダウンロードし、城内でカメラを向けると、かつての郡山城の風景がCG画像で再現されるというもので、歩きながら使うとCG画像もリアルタイムで移動します。天守台展望施設では、当時の天守に昇った位置からの360度パノラマを体験することができます。
景観整備についても引き続き行い、今後は、桜の木の剪定と植樹を中心に進めていきます。傷みの激しい桜の保存を急ぐとともに、周辺の植栽環境を整え、「桜の名所、郡山城」をしっかりと守っていきたいと思います。

スマホアプリ「ココシル大和郡山城下町」でかつての郡山城をVR体験

※インタビュー記事の内容は取材時のものです。
[取材日]平成29年9月24日

関連する方々の活動や景観・施設

  • 整備前の立入禁止状態の天守台石垣

  • 自然石をそのまま積み上げた見事な「野面積み」

  • 360度ビューの展望施設

  • (公財)柳沢文庫保存会による極楽橋再現計画