インタビュー記事

2022.10.07

伝統技術を世界、そして未来へ。奈良の木で作る木製雑貨に込めた二人の職人の願いとは。


文:長谷川あや
編集:奈良の木のこと編集部


だんじり祭りで使われる山車(だんじり本体)は、無数の精妙な木彫刻で埋め尽くされています。木彫前田工房代表で木彫師の前田暁彦さんは、そんなだんじりをはじめとする神輿、やぐら、太鼓台などに使われる木製彫刻を手がけています。
一方、秋田の伝統工芸士に師事し曲げの技術を習得した河内尚子さんは、「奈良の木を使った暮らしに寄り添うプロダクトを制作することを通して、森と人をつなぎたい」という想いを持って活動している鳶や (TONBIYA WORKS)の代表で、奈良を拠点に曲げわっぱをはじめ、奈良の木を使った雑貨を製作しています。

そんな二人のコラボレーションにより、吉野杉、吉野桧を使用した枡・ボトルクーラー・鞄が完成しました。今回は、前田さんと河内さんにコラボレーションのこと、奈良の木への想い、木にまつわる仕事のこれからについて伺いました。

――まずは、お二人が伝統工芸に関わる現在のお仕事に就かれたきっかけを教えてください。

前田さん 「僕は大阪府堺市の出身です。だんじり祭りといえば岸和田が有名ですが、南大阪の街にはどこにも同じようなお祭りがあり、僕も子どもの頃から参加していました。小さい頃は参加するだけで楽しかったのですが、小学校低学年の時だんじりが修理されて戻ってきたのを見て、“どんな人が作っているのだろう”と、だんじり本体に興味を持つようになったんです。その後、21歳の時から10年間、岸和田の親方の元で修行し、その後、独立しました」

河内さん 「私は奈良県奈良市の出身です。もともと京都の広告代理店にカメラマンとして勤務し、その後、全国の伝統工芸品を百貨店などに卸す老舗企業で企画開発を担当しました。そこで直面したのが、木製の国産品の製造や仕入れの問題です。その中でも特に“日本は森林の面積が多いのになぜ木製の国産品は浸透していないのだろう”と疑問を抱き調べてみると、国の政策と林業の現在の体制、仕入れ、製造販売までなど様々な要素でバランスがうまくとれていないことがわかりました。そこで、一度自分で中に入って動いてみようという結論に至ったのがこの世界に入ったきっかけです。のちの師匠となる、わっぱの伝統工芸士と出会ったことも大きかったですね。師匠に背中を押され起業を決意しました」

  • 写真提供:TONBIYA WORKS
  • 写真提供:TONBIYA WORKS

――お二人がコラボレーションすることになった経緯についてもぜひ聞かせていただきたいです。

前田さん「だんじりは日常的に使うものではありません。一度作ると70~80年、長いものだと100年は使用されます。だんじりを作る機会は年々減っていて、あと数年もしたら大きな仕事がなくなるのは目に見えています。そこで、だんじりの技術を活かし日常品に落とし込めるような仕事をしたいと考えていた時、吉野の材木屋さんが河内さんを紹介してくれて。すぐに伺ったところ、“これや、俺の求めていたのは!”となったわけです(笑)」

河内さん「前田さんの想いに共感しました。大きな企業なら大きな機械を使って大量生産を行えたり、資金的に裕福な会社では儲けが薄くとも大きくPRしたり販売を大きく広げる行動ができます。どちらも悪いことではありませんが、それによって価格が崩壊し、職人さんが廃業に追い込まれているという影響がないことはないのです。そんな状況において技術継承と現状を発信していくことは急務だと私も常々考えていました。平城京跡などからも曲物の井戸枠が出土していますが、1300年前もさまざまな技術が進化した現在も、手で作っているものについては曲物の作り方は7〜8割方変わっていないそうです。それはこの方法が最も効率的で理にかなっているから。そんな伝統技術を私も引き継いでいきたいと考えています」

――それぞれの技術の協業だけでなく、想いも合致しているのですね。そんな今回のコラボレーションですが、枡・ボトルクーラー・鞄、どれもとても斬新です。この3つのアイテムを選んだ理由を教えてください。

前田さん「僕は木彫り師なので木を使ったものならどんなアイテムでもコラボレーションできるのですが、今回は、河内さんのところで見せていただいたものの中から、“これはぜひやりたい”と思ったアイテムを協業させてもらいました。特に鞄に関しては、河内さんが試作で作っていたものを見た瞬間に、ここにワンポイント彫り物を入れたら、僕らの技術も残すことができるなと心が躍りました」

河内さん「覚えています。“これは絶対に販売するべきだし、ぜひ一緒にやりましょう”とおっしゃってくれました」

前田さん「当時すでに販売していた枡についても、彫物を入れるイメージがすぐに浮かびましたね」

河内さん「だんじりの背景にはお祭りがあります。おめでたい時に使う枡と、相性が悪いわけはないなと(笑)。側面にロゴを入れた枡は時々目にしますが、底に彫り物が入っているものはなかなか見かけません。前田さんに彫っていただくわけですから、決して安価ではありませんが、お店のオープニングイベントやギフトにもぴったりです。ボトルクーラーは保温力も高く、日本酒、ワイン問わず、ボトルのものでしたらなんでも冷やすことができます。今後、日本酒メーカーや飲食店などとのコラボレーションも実現させていきたいと考えています」

――今回のコラボレーションにおいて意識したこと、とくに大切にされたことはありますか。

前田さん「だんじりって、コテコテじゃないですか。そこが特徴でもあるのですが、それを押し付けてしまうと、モノ自体が元々持つシンプルな良さが消えてしまうんです。最初ボトルクーラーに龍の彫り物を合わせたのですが、これが自分でもびっくりするくらいダサかった(笑)。お互いが持っている力と力をそのまま掛け合わせるのではなく、シンプルなものにはシンプルなものを合わせたほうがいいと痛感しました」

河内さん「最終的にはそれぞれの落としどころを探し当て、うまくいったと思っています。ボトルクーラーに関しては、“前田さんがこんなにシンプルなものを彫るなんて!”と驚くほどの彫り物をしてくださって、それがぴたりとフィットしました。枡は彫り物だけを見た時は正直、“これ、枡になって大丈夫かな?”と思ったんです(笑)。でも完成したらイメージの100倍くらい良くて、嬉しくてすぐに枡を作る職人さんと前田さんに電話しちゃいました」

前田さん「枡、めちゃくちゃ評判がいいです!」

河内さん「写真だとわかりづらいかもしれませんが、これ、1枚の板に彫られているんです。見た目もインパクトがあるし、だんじりの職人である前田さんが魂を込めて作っているという背景も素敵です」

前田さん「本当に思った以上にいいものができました。“アートを身近に”というのも、今回のプロジェクトのテーマのひとつです。お祝いごとなどで使っていただいた後は、部屋に飾っていただいてもお楽しみいただけると思います。同時にこれをどう販路に乗せるかが今後の課題ではあります」

河内さん「お客さまが手に取ってくださることでブラッシュアップする機会も出てくると思うので。これで終わらせるのではなく、伝達していけるものを作り続けていきたいですね」

――先ほどから、「発信」「伝える」といった言葉が頻繁に出てきますね。それぞれの技術を次の世代に伝え続けていきたいという思いをひしひしと感じます。

河内さん「嗜好品的な高額なものは、ごく一部の方しか興味を持っていただけません。国内需要はある程度シェアが決まってしまっているなか、日常に寄り添うものを作っていくことが大切ですし、海外に販路を開いていきたいとも考えています」

前田さん「夢は世界に羽ばたいています(笑)。今やメイド・イン・ジャパンは一種のブランド。イベントでもとても興味を持っていただけます。今回のボトルクーラーも、あるオランダの方には、“直接レストランに売り込んだほうがいい”とアドバイスをいただきました。何より実際に手にして使っていただくことで、吉野材の良さもより感じていただけると思います」

――今お話にも出ましたが、今回の材料である吉野材の桧を使ってみての印象はいかがでしたか。

前田さん「だんじりの制作には、欅を使います。桧に触れることは滅多にないのですが、とても作業がしやすかった。そして、吉野の桧は綺麗ですね。他の桧を頻繁に触っているわけではありませんが、銘木と言われる理由がよくわかりました」

河内さん「しなやかさ、木目の美しさ、香りの心地良さなど、本当にすばらしい木です。歴史を紐解いてみても、吉野材は3世代先の人のことを考えた育て方を貫いていて、切って使ったらその分だけ植えています。私たちのような作品作りや技術は材料があって初めて繋がっていくものです。そんな地元の銘木に大きな誇りを持っています」

前田さん「一方で林業はさまざまな問題を抱えています。少し前に、吉野の山の作業場を見せてもらう機会があり、みなさんが命がけで作業しているところを目の当たりにしました。僕が見せていただいた現場では、3人がかりの作業で、切って山から降ろせるのは、1日14、15本程度だそうです。それでいくらになるのかと伺ったのですが、想像以上に安価でした。助成金や補助金がなければ、とてもやっていけない世界です。このような状況では、林業の担い手も、木を使った伝統工芸に携わりたいと考える人もいなくなってしまうのではないでしょうか。林業の現場の方がおっしゃっていました。『直接、お客様に商品を販売する人たちが、安価な値段をつけてしまうと、現場の俺たちに還元されるものはほとんどなくなってしまうんです』と。僕達が作る伝統工芸品は、ひとつひとつ手作りで、職人の手間がかかっている分、どうしても価格が上がってしまいます。きちんと説明すれば、ご理解いただけるのですが、その背景がわからないと安価なものに流れていってしまうのは仕方がないことかもしれません。ただ、このままでは、いずれ工芸品はなくなってしまいます。こういった状況下において、付加価値を付けて林業の現場の方にも還元されるような値段で商品を販売すること、ものづくりの背景を発信することは、とても大切なことだと思います」

河内さん「前田さんがおっしゃったことは、私がこの業界に飛び込んだきっかけでもあるのですが、やはり発信する側がどれだけ頑張れるかが大きいと思うんです。発信力がなければ、やがては発信するものさえ作れなくなってしまいます。安価なモノを買うことが愚かだというわけではありません。ただ、ものづくりの背景を知っていただくこと、そして、作品を愛してくれるファンを作ることは、とても大切だなと痛感する日々です」

――では、最後にお二人それぞれに、今のお仕事のどんなところにやりがいを感じていらっしゃるか、お伺いしたいです。

前田さん「自分の想いを形にして、それをお客様に感謝してもらえる仕事は、そうあるものではありません。時には納品の際に、泣いてくださる方もいらっしゃいます。そんなすばらしい経験をもっとたくさんの人にしてもらえたら、と思っています。そのためにも、彫刻師としての仕事の幅を広げて、職人を増やしていきたいです」

河内さん「前田さんがおっしゃるように、自分が思っている以上に感謝していただける仕事です。とてもありがたいことだと思っています。そして、人との繋がりを強く感じることができるのもこの仕事の魅力です。うちの雑貨は一つ一つに出来上がるまでの縁とストーリーがあってできたものばかりです。前田さんにしろ、生産者にしろ、想いのある人と出会い、いろいろなお話しを伺えるのはとても刺激的ですね。前田さんとの協業についても、今後のことを考えるとわくわくしています」

だんじり彫刻と曲げの技術、そして奈良の木を活かした雑貨は、圧倒的な存在感を放っています。そして、勇壮さと繊細さを合わせもつそれらには、伝統技術を未来に繋げたい、すばらしい文化と技術を日本のみならず世界に広めていきたいと願う、お二人の果てしない思いがぎゅっと詰まっています。

INFORMATION

RIJINDA(販売サイト)

https://rijinda.jp/

株式会社木彫前田工房

https://kiborimaedakoubou.com/

鳶やTONBIYA WORKS

https://tonbiya.com/

 

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