インタビュー

2022.11.25

「クレヨンハウス」主宰者・落合恵子さんに聞く、木育の大切さと木と触れ合うことの素晴らしさ


執筆:吉岡 加奈
撮影:豊島 望


1976年に東京・表参道に絵本の専門店としてオープンした「クレヨンハウス」。子どもがはじめて手にする「表現の道具」から命名されたという同店は社会派作家として長年活動を続ける落合恵子さんが主宰しています。47年目を迎え、並行して長い間、木のおもちゃやオーガニックのアウター・インナー、有機野菜をはじめとしてオーガニック食材なども「どこよりも早く」販売。海外とのフェアトレードのアクセサリーも人気です。地下1階にあるオーガニックレストランは日替わりで食べられる有機野菜を使ったビュッフェメニューが好評で、日々多くの人が訪れています。地下から3階までそれぞれテーマを持った各フロアには、クレヨンハウスが伝えたい思いが隅々まで詰まっています。

そこでこの度「奈良の木のこと」では、木のおもちゃを積極的に取り扱い、子どもたちが木に触れ合うことの大切さを発信している落合恵子さんに、「木育」について、また木や自然と触れ合うことの素晴らしさについてお話を伺いました。

――「奈良の木」を使った製品もクレヨンハウスでは取り扱っていらっしゃるんでしょうか?

「NARADOLL」をご存知ですか?奈良一刀彫りの節句人形で、ひとつずつ当然手彫り、手作りですよ。とても人気で、予約をいただき、たとえば来年のお節句まで待っていただいています。

――刀彫りは奈良県の伝統工芸品ですね。奈良県では長く続いている林業の伝統がありまして、木目が密で節がなく美しい木が育つことから、江戸時代には酒樽などにも使用されていました。その後も、和室の床柱や、割り箸に使われたり。

よいものは時代を超えて、良いということです。日本も文明という名の下に壊してきたり、 置き去りにしてきたことを見直して、木にかかわる作家たちの技や誇りを大切にしようという時代がきているのかなと感じます。

――山には山守という人たちがいまして、地元の山守たちが奈良県の山を代々守り続けてきました。その山で育った木は、文化を支えているんだということを、奈良県では伝えていきたいと思っています。

伝えたいことは、物に託した気持ちなんですよね。レイチェル・カーソンという米国の作家をご存じですか? 海洋生物学者でもあり、世界的に有名な『沈黙の春』の著者でもあります。当時、便利だということで盛んに使われ始めた、たとえば農薬が、ひとや自然そのものをいかに破壊したかを告発して、世界の歴史を変えた著者とも言われています。が、50代に大変重篤な病にあって、明日が残されていないと知ったときに、子どもたちに遺言のような形で言葉を残したいと思って『センス・オブ・ワンダー』を書かれました。自然の美しさ、不思議さ、時に起こる脅威に対しても、畏敬の念を抱き、驚く心を持ち、目を見張るセンスを大事にしようとよびかけたシンプルな本です。その本の中にこういう言葉があります。

……“美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知のものに触れたときの感激、思いやり、憐れみ、賛嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、次はその対象となるものについてもっと知りたいと思うようになります。そのようにして見つけ出した知識はしっかりと身につきます” 
「センス・オブ・ワンダー」(新潮社版より)

子どもが木に触る、木に抱きつく、木の匂いを嗅ぐ、そういった五感を使った試みの中で、子どもが木と向き合う時。感じることから始まるということがとても大事だということを教えてくれています。

――落合さんは幼少の頃に、自然や木に触れたときのことを覚えていますか?

栃木県出身ですが、子どもの頃は近くに雑木林もあれば、池もあったし、戦争によって破壊された自然もありました。春先にみんなで遊んだときは、大きい木があると抱きついて木に耳を当てる。すると木が地下水を吸い上げる音が聞えたものです。その音を聞いて「え!?」こうやって木は生きているのと感動したし、今でも春先に大きな木に出会うと「音を聞きたいな」と思います。五感で、植物と向き合うことができていたなと思います。

――クレヨンハウスでは、木のおもちゃを扱っていらっしゃいますが、どのようなものを選ばれていますか?

おもちゃを、子ども向けと決めるべきものではないというのがポリシーです。優れた子どもの本と呼ばれるものが、大人にとってもかけがえのない一冊になるように、おもちゃも本も、子どもから大人まで年齢制限はなしで楽しめるものを選んでいます。「1歳から」とか便宜上は書きますが、それは目安でしかありません。上は年齢制限なし。それに出会う最も小さな人から始まって、上は年齢制限なしと考えたほうが、はるかに自由であり、楽しむ範囲が広くなるじゃないですか。お年寄りが自分のために、と絵本を探しにいらっしゃいます。社会はそのあたりがせせこましくて、絵本やおもちゃは子どものものという位置付けがあるけれど、私たちはそう思っていません。

――木のおもちゃを取り扱おうと思ったのはなぜですか?

申し上げたように、私自身が木に触ったり、木の匂いを嗅いだり、噛んでみたりと、木で遊ぶ面白さを知っていたので、同じ遊び方ではなくても、木の良さを知って欲しいと思ってのことです。ヨーロッパへ行くと、ドイツなんか凄いですよ。素晴らしい木でおもちゃを作っている。家族だけの工房もあります。そこにあるのは、木への愛情と尊敬ともいえます。で、「これを日本へ紹介したい」と思いました。

  • 3階の木のおもちゃコーナーには全世界から集められた木のおもちゃが並ぶ

――ドイツや北欧は、木の利用率が高いイメージがあります。

そもそもドイツはオーガニックが盛んです。前首相のメルケルさんはかつて原発推進派だったのに福島の事故のあと、改めて研究をされた。そういう感覚をドイツの人たちは受け継いでいらっしゃるのかもしれません。黒い森(シュヴァルツヴァルト)もそうですけど、植物や木を大切にしている。イギリスの「Camphill(キャンプヒル共同体)」では、社会が障がいと呼ぶものがある人たちといわゆる健常者が共に暮らしながら、生活的に自立できるよう、おもちゃを制作しています。「Camphill」の素晴らしいところは、健常な人たちと、障がいのある人たちが、共に暮らしながら、対等におもちゃを作っているということです。クレヨンハウスのもうひとつテーマに「差別をなくす」ということがあるのですが、人権も自然とともに在ることも大事にしたい、と思っています。

――「木育」についてお聞きできればと思いますが、落合さんは「木育」をどう捉えていますか?

ちょうどクレヨンハウスから毎刊行している育児雑誌、『月刊クーヨン』で「森と木に子どもを育ててもらおう」という特集を組んだばかりです。ぜひこの特集をお読みください。
わたしたち大人社会はともすると、子どもと向かい合うとき、何かを「しちゃいけません」と言うことが多いですね。そうではなく、「これをすると素敵だよ」と肯定的に背中をおすことのできる大人が増えることが大切だと思っていて。木育も同様です。「木を守りましょう」とか、「自然を守りましょう」という言い方は実はちょっと傲慢で、むしろ木に、自然に守られているわたしたちがいる。そんなことも伝えたくて、特集をしました。

――落合さんが、木とともに生活をしていて感じるのはどんなことでしょうか?

疲れたときに木の匂いを嗅ぐと、頭の凝りがスッとなくなる瞬間ってありますよね。木からの贈り物です。深呼吸の時空です。私の小さな庭にも様々な植物がありますが、1本の木がそこにあるだけで、その木と向き合うことで広がり、深まる景色があります。私はどちらかというと、落葉樹が好きです。すべての植物に言えることは、素敵な贈り物をありがとう、です。

  • クレヨンハウスの記念樹 “アキニレ”
  • 木の絵本も大好きだという落合さん。インタビューの際にはおすすめの木の本をお持ちいただいた。

――日本は緑が多い国だと思います。日本人には、木の存在がどのように影響していると思いますか?

ヨーロッパやアメリカ、アフリカであろうと日本であろうと、人間の記憶の中には昔から、風が吹いて、木の葉が揺れて、木が育っていくというのがあるんだと思います。それは祖父母の世代から、それよりずっと前から大切に木を育てて、木が木陰をくれたり、秋になれば木の実を贈ってくれてという遠い記憶ともつながるのかもしれません。そういった歴史の連なりの中で、私たちは次の世代と向き合っていきたいですね。
ダイアン・モントーヤさんというネィティヴアメリカン(先住民)の女性が、「私たちは何かを選択して考えるときに、7世代先のことを考える」と、クレヨンハウスを訪ねてこられた時におっしゃいました。便利だから、効率がいいからと言って、7世代先の子どもたちに迷惑をかけてしまってはいけない。いま邪魔だからと木を切って、あとで悔やむのはおかしいでしょう。福島第一原発事故の直前にその話を原稿に書いて……。そのあと、原稿が印刷されている最中にあの事故が起きてしまいました。7世代先が遠すぎるなら、3世代先、自分たち大人に見える子どもたちのことを考える。それを1人1人が考えていったら、ずいぶん違うと思います。

――そう考えると、木のおもちゃはそういった概念を伝えることができそうですね。

だと思います。多くの場合、概念を概念のまま終わらせないことが、ひとつの力になり得るものであり、だからこそ概念が大事だともいえます。クレヨンハウスで実際に木のおもちゃに出会っていただいて、これまでの子どもたちが遊んできたように、今の子どもたちも遊んで喜んでくれたら、そして新しい遊びを自分たちで発見できたら、次の世代にも伝わっていきます。父親にあたる息子もこれで遊んでいたから、とお祖母さまが店にきておもちゃを購入。お孫さんそれで遊んで、そうやって同じおもちゃを何世代にもわたって楽しめるのが木のおもちゃです。確実に三世代はもちます。絵本も一緒ですけど、それぞれの記憶をもちよって、こうだったよね、ああだったよねと、世代を超えて共通する記憶でもありますね。

それと人は感じる心があると同時に、学ぶことも大事。クレヨンハウスでは、これを知ったらあなたの景色が広がるよ、素敵になるよということを伝えていけたらいいなと。


吉村厚子さん

クレヨンハウス東京店の店長を務める吉村厚子さんにもお話を伺いました。長年、落合さんとともにクレヨンハウスで販売する絵本や木のおもちゃを世界各国から探し求め、店頭に並ぶ商品を決められています。


――クレヨンハウスで取り扱っている絵本、木のおもちゃはどのような視点でセレクトされてきましたか?

絵本はロングセラーを中心に、毎月行う新刊会議でスタッフが意見交換して選んでいます。おもちゃもロングセラーを基本にしながら、子どもたちの創造力を高め、考えるおもちゃ、新しい発想のおもちゃをセレクトしています。
おもちゃは、絵本のように頻繁に新作が届く世界ではありません。作家や、メーカーからの新作情報や、さまざまな展示会等に出掛けて、安心・安全を基本とし、作り手の思いや物語が伝わるものを選んでいます。

――吉村さんが思う、木のおもちゃの素晴らしさとは何でしょうか?また「木育」は普及してきていると感じますか?

(木のおもちゃを使うという観点の)木育に関してはすごい勢いで広がっているというよりは、少しづつ、でも、確実に広がっているという感じではないでしょうか。
クレヨンハウスではご自身が子ども時代に木のおもちゃで遊ばれていて、それを今度は子どもさんへ贈る方も多く、親子代々で楽しんでいただいております。
そういったことも踏まえ木のおもちゃの素晴らしさは、何より木の温かさですね。そして、絵本と同じで、世代を超えて愛されているということです。時間が経っても色合いや風合いが変化していく美しさや、作り手が見えるのも魅力です。

木のおもちゃや絵本を通じて、五感で自然と触れ合うことの素晴らしさ、木の良さや面白さを伝えている落合さん。その意識は私たちが生きている“今”だけでなく、遠い“過去”の先祖から何世代も先の“未来”の子どもたちにも向けられていました。色々な遊び方ができるからこそ、子どもも大人も世代を越えて楽しめて、受け継がれていくところも木のおもちゃのいいところかもしれません。遊びの楽しさや木に触れるぬくもりの中で、100年200年と、人と比べれば長い年月を生きる木に親しむ気持ちの種が育っていけばいいなと思います。

森林や山を守り、これからも人間と木が共存していける素晴らしい環境作りをしていけるよう、私たちができることは何か……小さなことからでも、一人一人が考えて行動していけると良いですね。

INFORMATION 表参道店のビル老朽化による建て直しのため、2022年12月17日(予定)より、吉祥寺に移転します。コンセプトは同じ。木のおもちゃもそろっています。 クレヨンハウス
新住所 〒180-0004 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-15-6
電話 0422-27-2114
営業
時間
11:00 ~ 20:00 (年中無休)
URL https://www.crayonhouse.co.jp/shop/default.aspx
大阪店 〒564-0062 大阪府吹田市垂水町3-34-24

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