インタビュー記事

2021.05.14

「奈良らしさ」をエッセンスに、吉野スギの香り立つクラフトビール『NEVERLAND』ができるまで

クリアに透き通った黄金色のビール。ひと口ごくん、と飲めばほどよい苦味と爽快感。飲みやすくて、またひと口。すると後から、生き生きとした吉野スギの香りが湧き上がってくる。フレッシュだけれど、なんだか心が落ちつく香り。またひと口飲めば、先程感じた吉野スギの香りは、いっそう濃く感じる。飲めば飲むほど吉野スギの香りが口いっぱいに広がり、しっかりと深みを感じられるようになる。

そのクラフトビールの名前は『NEVERLAND』。このビールは、奈良市の奈良醸造株式会社(以下、奈良醸造)と奈良を拠点に活動するバンド・LOSTAGE、東京のCRAFTROCK BREWINGのトリプルコラボで開発されました。

今回は奈良醸造・浪岡 安則さん、LOSTAGE・五味 岳久さん、CRAFTROCK BREWING・鈴木 諒さんにお話を伺いました。この三者はどのように出会い、なぜ吉野スギを用いてビールを作ることになったのでしょうか。また、このビールが持つ、たくさんの奈良にまつわるエピソードとは。

インタビュー:浪岡 安則(奈良醸造)、五味 岳久(LOSTAGE)、鈴木 諒(CRAFTROCK BREWING)

  • 左:浪岡 安則(奈良醸造) 右:五味 岳久(LOSTAGE)
    ※鈴木 諒(CRAFTROCK BREWING)さんはリモート参加

『NEVERLAND』ができるまで

━━コラボレーションをすることになった、きっかけを教えて下さい。

鈴木 諒(以下、鈴木)  うちの醸造所はCRAFTROCK BREWINGという名前の通り、音楽と密接な関係がある醸造所なんです。毎年、自社で音楽フェス<CRAFTROCK CIRCUIT>を主催しているのですが、そこに何度もLOSTAGEに出演してもらっています。

五味 岳久(以下、五味)  イベントに出演した際にCRAFTROCK BREWINGのビールをいつも飲んでいて。そこで鈴木さんから「一緒にビールを作らない?」と、話があったんです。海外ではバンドと醸造所がコラボしてビールを作るカルチャーがあるそうで。僕を含め、バンドのメンバーもお酒が好きで、飲食店をやっているメンバーもいるので、「やりたいね」という話になりました。そこで、「LOSTAGEは奈良を拠点にしているし、奈良で作るのはどうか?」と鈴木さんに提案いただいて、奈良醸造を紹介してもらったんです。

━━醸造所同士のコラボレーションだけでなく、バンドとのトリプルコラボ。声をかけられた時、浪岡さんはどう思われましたか?

浪岡 安則(以下、浪岡) まず、「うちでいいのかな」と思いました。CRAFTROCK BREWINGとのコラボレーションというだけで、すごくプレッシャーを感じたのですが、さらにLOSTAGEの20周年を記念するものでもあるとお聞きしたので、これは失敗できないなと(笑)。

━━ビールづくりは、どのようにして進んだのでしょうか?

鈴木 五味さんとは「ライブを観ながら、ごくごく飲めるものがいいよね」っていう話はしていたんです。その上でせっかく奈良醸造とコラボするなら、奈良らしいものを素材として使いたいなと考えていて。吉野スギは、木樽の原料であることを知っていたので、ぜひ使ってみたいと思いました。もともと日本酒やウイスキーづくりで木樽が使われるなど、木はお酒と相性が良いんです。ビールにも木樽で熟成させる手法はありますが、今回はあえて、杉をビールに直接漬け込む形に挑戦してみようと。それに、五味さんが木と関わりが強いというお話も聞いていたので、吉野スギはピッタリじゃないかなと思ったんです。

五味 実家が奈良県桜井市にある材木屋だったんです。工場の敷地内に住んでいたので、幼少期は木に囲まれて育ちました。だから木の香りがすると、幼少期を思い出すのか、心が休まるんです。20周年は「自分のルーツを辿る」というテーマもあったので、ちょうどハマるかなと。

  • 鈴木 諒(CRAFTROCK BREWING)

━━ビールのレシピは、どのように決めたのですか?

鈴木 ビールには様々なスタイルがありますが、今回はドイツのケルン地方で伝統的につくられている「ケルシュ」を選びました。酵母の香りが高い「セゾン」と迷ったのですが、「ライブハウスでごくごく飲んでもらう」という前提があったので、すっきりした味わいで飲みやすいケルシュに決めました。

浪岡 初顔合わせのときに、CRAFTROCK BREWINGのケルシュを飲ませてもらって、いいなぁと感じたんです。技術を伝え合えるのも、醸造所同士のコラボの醍醐味でもあると思っているので、今回はうちではあまり作ることのないケルシュに挑戦しました。

━━『NEVERLAND』というビールの名前には、どういった意味が込められているのでしょうか?

五味 『NEVERLAND』は、僕らが20年間出演し続けている奈良のライブハウスの名前で、地元でミュージックビデオを撮った曲のタイトルでもあるんです。缶のデザインにもライブハウスの建物の色である、青と黄色を取り入れました。

━━缶に描かれた楽器のイラストは、五味さんが手掛けていらっしゃるんですよね。

五味 はい。楽器と音楽があるというのが僕らの日常なので、それを感じ取れるイラストにしました。(イラストの背景は)もともとベタ塗りの黄色だったんですけど、デザイナーの久保さんが一緒に樽丸職人さんのところに行ったときに、杉の木目を入れたら味のイメージを出せるかなと、変更になったんです。

杉の木の木目があって、僕らの楽器があって、奈良醸造のマークがあって。ネバーランドのライブハウスが青と黄色を基調としているのでそのカラーをデザインに入れ込んでもらって。奈良、木、音楽の要素が入っています。

コロナ禍でライブハウスになかなか足を運びにくいので、足を運ぶきっかけになれば良いなという思いも込められています。

  • 『NEVERLAND』のパッケージデザイン

吉野スギをビールに活かすために

━━吉野スギを素材に使う点で、気をつけたことはありますか?

鈴木 吉野スギは香りが強いので、ほんの少し入れただけでもいわゆる“新築のような香り”がするんです。その香りに支配されてしまうと、ケルシュ本来のフルーティーな香りが分かりにくくなってしまう。入れる量やタイミングなど、浪岡さんは大変だったんじゃないかな。

浪岡 大変でしたよ(笑)! 本来、吉野スギは酒樽としてよく使われるのですが、その時はお湯を通して殺菌します。今回使用したのはカンナがけをしたときに出る「かんなくず」だったので、お湯を通すと香りが失われてしまう可能性があって。いかに香りを保ちつつ、渋みを出さずに仕上げるかということに神経を使いましたね。

━━吉野スギはどのように入手したのですか?

浪岡 奈良県・吉野地方に、酒樽に使う材料である樽丸(たるまる)を製作する技術が伝承されていて、その過程で「かんなくず」が出るんです。そこで吉野の木材会社の方に樽丸職人さんを紹介していただき、「かんなくず」をいただくことができました。

五味 僕も一緒に職人さんのところへ伺ったのですが、すごかったです。樽をばらしながら、仕組みを職人さんが直々に説明してくれて、職人の技術の凄さを感じました。奈良の林業は酒樽を作ることで栄えてきたという話をお聞きして、やはりお酒の力というのはすごいなと改めて思いましたね。吉野の林業がもつ歴史の深さを感じたし、自分たちが作ったビールにも、そのバックグラウンドが少しでもにじみ出ていたらすごくいいことだなと。

  • 酒樽にも使われていた樹齢100年近い吉野スギのかんなくずを利用した
  • (写真 左から順に)吉野中央木材株式会社・石橋さん、樽丸くりやま・大口さん、五味さん、浪岡さん

━━完成したビールを飲んだ時は、いかがでしたか?

五味 飲み初めはほんのりと感じる吉野スギの風味が、後味にはしっかりと残って、すごく良い出来で。樽丸職人さんとの出会いや、みんなで打ち合わせしたことなど、これまでの経てきた時間を思うと、感慨深かったですね。

鈴木 完璧だと思いました!吉野スギの香りも、ケルシュの味わいもいい具合に残っていて、完成度の高いビールだと思います。ビールのつくり手として、浪岡さんのクオリティがとても高いので、僕らは要望を言っておけば、いいものをつくってくれるだろうと安心していましたけどね(笑)。

浪岡 ケルシュというスタイルに吉野スギの香りをのせる面白さもありながら、気軽にライブでごくごくと飲んでいただける。クラフトビールファンにも、音楽ファンにも両方に響くものがつくれたのかなと、ホッとしています。鈴木さんからの期待、LOSTAGEの20周年記念、約100年以上の樹齢の木を扱うこともあり、どんどんプレッシャーが積み重なっていきましたが…(笑)。

━━今回、吉野スギを使ってみて、どのような印象を受けたか教えていただけますか?

浪岡 今回ビールに使うにあたって、植林の仕方年輪の幅が密なので水が漏れにくいなど、吉野スギの歴史や魅力についてお聞きしたんですが、奈良県にいながら、知らないことばかりでした。吉野町界隈の方はとても協力的で、「もっと吉野スギを知ってもらいたい」という強い思いもお聞きしたので、今後も活かしていけたら良いなと思います。

鈴木 吉野スギの香りがすごく良かったです。今回はすごくシンプルなビールにほんのり吉野スギの香りを付け足したレシピでしたが、今度は香りをもう少し強く残して使ってみたいですね。例えば、IPA(ビールの種類の一種)の香りづけに吉野スギを使うのも良さそう。同じビールにしても、もっと相性のいいホップがあると思うので、今後も吉野スギをつかって色々やってみたいですね。吉野スギには、まだまだ可能性があると思いますね。

  • 醸造に利用した吉野スギのかんなくず

進化をとめない 奈良醸造独自のスタイル

最後に、奈良醸造の醸造所内を浪岡さんに案内していただきました。
この場所で『NEVERLAND』をはじめとする、数々のビールが作られています。

県内では一番規模の大きい醸造所で、一回の仕込みは、2,000L
熟成期間はビールによって様々で、短いもので6週間、長いもので半年間熟成させるものも。さらに奈良醸造は無濾過、非加熱処理で仕上げており、素材の本来の風味と香りを楽しむことができます。

『NEVERLAND』では、発酵が終わった後に吉野スギのかんなくずをさらに細かく刻んだ状態で加えているそう。行程の最後に加えることで、吉野スギのフレッシュな香りを味わうことができるんですね

 

奈良醸造では『NEVERLAND』以外にも、大和橘を使用したビールなど、個性的なビールを沢山生み出しています。最後に、浪岡さんにどのようにおいしいビールをつくり続けているのかをお聞きしました。

浪岡 うちではまだ1種類しか定番商品をつくっていません。機材にもクセがあって、そのクセを掴む中でこの機材に向いているビールを探して行きたいと考えています。それと、奈良県はビールの消費量は全国最下位なんです。だからコロナ前は、2週間に1度、新商品を出すようにしていたんです。いつも違うものがあれば、奈良で飲む動機づけにもなるかなと思って。「次は何を出してくるのかな?」と楽しみに、通い続けてもらいたいな。

━━進化をとめないこと。それがおいしさの秘密なんですね。

浪岡 特にクラフトビールは変化が激しいので、使用するホップや麦芽にも流行り廃りがあります。それが定番を作ることの怖さである。五味さんと話していて、それは音楽とも通ずることかなと。究極の型を持たずに、自分の感性をアップデートして進化し続ける。ビールづくりもそうでありたいなと思うんです。僕は音楽をやっているわけではないですが、新曲を書くように新しいレシピを生み出していきたいですね。

 

音楽 × 吉野スギ × クラフトビールという、3つの要素が混じり合ったコラボレーション。そんな新しい試みが、奈良で生まれています。地元を慈しむ思いが、吉野スギのフレーバーとしてクラフトビールを彩る『NEVERLAND』。今後はどんなコラボレーションが生まれるのでしょうか。

Text by 三上 由香利
Photo by 山下 陸

NEVERLAND

奈良を拠点に20年もの活動を続けるロックバンドLOSTAGE、そして、東京のCRAFTROCK BREWINGとの三者コラボビールとなります。 ベースとなるビアスタイルのケルシュに、奈良産の吉野杉を漬け込みました。 軽めの麦芽の風味に、心地よい苦味、そしてアルコール度数は5.0%と、ドリンカブルな仕上がりです。ビールが喉を通った後に、ほのかに鼻腔に杉の香りが立ち上ってきます。 スッキリとした、どんな料理とも合わせていただきやすいビールとなっています。(引用:奈良醸造HP)
※販売は終了しています
詳細はこちら

INFORMATION
Nara Brewing Co./奈良醸造株式会社
住所 〒630-8452 奈良市北之庄西町1丁目8-14
電話番号 0742-64-0108
URL https://narabrewing.com/
MAP
CRAFTROCK BREWPUB&LIVE
住所 〒103-0022 東京都中央区日本橋室町3丁目2−1 COREDO室町テラス 1F
電話番号 03-5542-1069
URL https://craftrock.jp/brewpub/
Instagram https://www.instagram.com/craftrock_brewing/
MAP
LOSTAGE

2001年結成、地元奈良を拠点に活動を続ける3ピースロックバンド

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