インタビュー記事

2020.07.07

中川政七商店と吉野の木のものづくり。技術とアイデアを掛け合わせて紡ぐ、暮らしに寄り添うプロダクト。

享保元年に奈良の地で創業し「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる、中川政七商店。全国各地の工芸技術を活かし、日常に心地よく寄り添うプロダクトの数々を提案、商品の開発から販売まで行っています。さらにはコンサルティング事業なども展開し、国内の工芸品産業および産地の活性化にも貢献する、創業300年余りを数える企業です。

日本の工芸をベースにした暮らしの道具を生み出すなか、ホームである奈良の木を使った商品も多数展開。「吉野杉のトレイ」や「吉野ヒノキの芳香チップ」など、美しい木目や豊かな香りといった吉野スギ・吉野ヒノキの特徴を存分に活かしたプロダクトもつくられています。今回は、同ブランドのデザイナー・岩井美奈さんと村垣利枝さんに、製品デザインを通じて感じた吉野スギ、吉野ヒノキの魅力や木製品が生活にもたらしてくれる豊かさについてお伺いしました。

インタビュー:中川政七商店デザイナー 岩井美奈、村垣利枝

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    左:岩井美奈 右:村垣利枝

――はじめに、中川政七商店が吉野スギや吉野ヒノキを使った木製品を扱うようになった経緯を教えていただけますか?

岩井美奈(以下、岩井)吉野の木を使った木製品を大きく展開し始めたのは中川政七商店ブランドが立ち上がってすぐなので、もう10年ほど経ちます。ブランドの立ち上げ当初から『暮らしの道具』というコンセプトがありましたが、弊社は麻を中心に扱う会社でもあるので、当時は布小物が多く、もう少し異なるカテゴリーで道具らしいものを作りたいと考えていました。そして奈良にルーツがあるものはないかと探す中、出会ったのが吉野の木でした。ヒノキやスギではなく、吉野ヒノキ・吉野スギと産地の冠がつく名称で認知されていることがすごいことなんじゃないかと。そこから興味を持ち、実際に現地を訪れたことが吉野の木を使った製品づくりのキッカケになりました。

村垣利枝(以下、村垣)そういった経緯もあり、吉野スギや吉野ヒノキを使った製品を企画するに際して、吉野が距離的にも近いので、作り手さんのところに直接足を運んで何ができるのか、知恵を借りながら進めることができたという点も大きいと感じています。

岩井 現地にお伺いした時に、職人さんから吉野の林業の歴史や間伐材についてのお話も伺って、素材自体がすごく良質であることを学びました。端材の処分を惜しみ、最後まで余すことなく活用してうまれる割箸。かたちを変えながら、最後まで使いきる素材との向き合い方が、私たちのものづくりの視点に近いものがあるんじゃないかと感じましたし、魅力的だなと思いました。

――実際に、お2人が手掛けられたプロダクトのうち、現地での知見が製品アイデアにつながったものもあるそうですね。

村垣 はい。ヒノキの精油を企画していた時に、訪問させていただいた取引先さんで木材の加工や精油の作り方を見せていただきました。その中で、木のブロックやボールのように磨き上げられた製品は香りの持続性が低いことを知りました。

そこで、より木の香りが活きる素材として出会ったのがウッドチップです。削りたてのウッドチップは香りが強いことを知り「吉野ヒノキの芳香チップ」が生まれました。生の木をスライスして時間を置かずにパッケージしているので、開封すると少し湿っていて生々しい木の香りがふわっと広がります。職人さんが作っていらっしゃるものや工房を見せていただきながら、素材を活かせそうなアイデアを見つけていくというのは、吉野が近いからこそ出来ることだなと思います。

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    吉野ヒノキの芳香チップ

岩井 私が何よりも惹かれたのが、吉野スギの木目の美しさでした。「こんなに均一な木目があるんだ」というのが最初の印象で。そういった素材の良さと美しさが活かされたものを目指して企画したのが「吉野杉のトレイ」です。素材をヘリンボーン状に組むことで美しさの中に強度を共存させることができました。

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    吉野杉のトレイ

「吉野桧の鍋しき」のように、素材そのままの魅力や職人さんの技を極力シンプルに活かした製品もあります。木目を見ていると吉野に訪れた時の香りや、まっすぐに伸びた木が並んでいる景色を思い出すんです。そうした景色までも感じられるようなものがお届け出来たらステキだなと思います。

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    吉野桧の鍋しき

――産地の生きた知恵や技術がプロダクトに落とし込まれているんですね。香りや木目の美しさを味わえる製品の他、吉野スギの調湿効果を活かした「ごはん粒のつきにくい弁当箱 木蓋」も人気だそうですね。

村垣 もともと「ごはん粒のつきにくい弁当箱」という商品がありまして、蓋の密閉性が高いので汁もれしにくく、レンジにも対応できる便利さから人気があります。「この商品の便利さにプラスできる、もっとご飯をおいしく食べられる機能を追加することができないか」と考え、樹脂製の蓋を吉野スギの木蓋に変更することにしました。

木にはご飯の余計な水分を吸ってくれる調湿効果があり、ご飯が乾いたりベチャベチャになったりしにくいです。特にスギは調湿効果が高く、さらに吉野スギは他の木と比べても香りが優しいため、ご飯に木の香りが移り過ぎないことも相性がいいと思いました。

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    ごはん粒のつきにくい弁当箱
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    ごはん粒のつきにくい弁当箱 木蓋の試作品。木は収縮・膨張するため、サイズ調整を何度も繰り返した。

――美しさはもちろん、強度や実用性、そして使い心地の良さなど、長く愛される道具にはさまざまな理由が備わっているのだとお話から感じています。

岩井 ぜひ、ドンドン使っていただきたいですね。そうすることによって吉野の山も循環していくと思いますし、長く大事に使って育てていくものと、割箸のように普段使いで使いまわしていけるものを両軸で作っていけるといいなと思っています。

――では、お2人がデザイナー視点で感じている「奈良の木の良さ」、そして「木製品のある生活の魅力」とは、どういったところでしょう?

村垣 日本の植物でできた精油を企画している際に、他産地や種類の異なる木材の香りを嗅いでみて、それぞれの木材の香りの成分や特徴を知る中で、吉野ヒノキは日本人がすごくホッと癒される香り成分が多く含まれていると聞きました。どこに置いても暮らしに馴染むような安心する香りですよね。それぞれの素材に個性や良いところがあり尊敬しているんですけれど、吉野のヒノキが昔から人々を癒してきたということは、すごく誇らしいなと思います。

岩井 全ての木製品に思うことですけれど、五感を刺激されている感じがすごくするという点が一番ですね。娘がいるんですが、匂いを嗅いだり噛んでみたり、そういうことをしたくなる素材の力があるんですよね。普段の使い方を超えて、感じることを与えてくれる、用途以上のプラスαがあるのが魅力だなと感じています。それと以前、吉野の職人さんに木のバインダーをいただいたのですが、使っているうちに色味が濃くなったりツヤが出てきたり、どんどん育っていく感じがしていて。そういった経年変化も木製品の魅力だなと感じています。

村垣 もちろんプラスチック製品も便利でいいんですけれど、木製品はぬくもりを感じられたり香りを嗅いだり、感受性に触れられるようなものだと思います。

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    2019年11月に中川政七商店 渋谷店で実施された、ものづくりを解剖した企画展。吉野杉の両口菜箸も展示された。

――今後、奈良の木で作りたいと考えていらっしゃるプロダクトはありますか?

村垣(中川政七商店の)大きな店舗も増えてきたので、椅子とか机とか棚のように部屋にドンと置けて、木目の美しさが活きるインテリアを作ってみたいなという気持ちはありますね。

岩井 先ほどお弁当の蓋のお話で出てきた調湿力のように、自然由来の抗菌力といった素材の持つ力でもう少しなにか出来るのではないかという視点があります。以前、吉野の職人さんから「パンを吉野スギの箱に入れて保管すると、カビにくい」というお話を聞いてすごく興味があったので、いただいた吉野スギの板を食パンと一緒に袋に入れて、1ヶ月ほど放置してみたんですね。

そうしたら、板といっしょに入れた食パンは本当に、ほとんどカビが生えていなかったんです。とても衝撃的でしたし、吉野スギにはものすごい力があるんだなと感じました。この経験を新しい暮らしの道具にうまく結びつけることができればいいなと思います。

――中川政七商店さんと吉野の林業がそれぞれ歴史の中で培ってきた技術やノウハウが掛け合わさり、あらゆるカタチで暮らしに溶け込んでいくのはとてもロマンチックだなと感じます。

岩井 長い歴史を越えて今も残る吉野スギ・吉野ヒノキといった素材は、ずっと残したいものづくりのひとつです。今の暮らしに使われる道具に変えることで、受け継いでいくことに少しでも関わることができればいいですね。また中川政七商店の商品を通じて吉野の木、また奈良の魅力に触れるきっかけがつくれると嬉しいなと思っています。

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取材・文:野中ミサキ(NaNo.works)

INFORMATION
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享保元年(1716年)に奈良で創業。時代の変化とともに麻生地を中心とした雑貨の企画製造・販売を始め、工芸業界初のSPA(製造小売り)業態を確立。"日本の工芸を元気にする!"というビジョンを掲げ、「中川政七商店」「遊 中川」「日本市」などのブランドで、全国に50を超える直営店を展開しています。

 

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