インタビュー記事

2020.01.24

木育インストラクター講師 福島計一に聞く、木育を通して伝えたいこと

2004年、北海道庁により発足した木育プロジェクトから提案され、2006年には「森林・林業基本計画」で閣議決定された『木育』。この言葉の誕生から16年が経ち、全国各地で指導者育成やワークショップ・イベントの開催、木のおもちゃの専門店や商業施設内での木育広場の開設など、取り組みは広がりつつあります。木育とは、幼児から高齢者まで生涯にわたり木に関する様々な体験を通して、豊かな感性を育みつつ、森林や環境問題に対する理解を促す活動です。今回はこの「木育」の具体的な取り組みやその意義、そして次の世代に繋げたい想いについて、岐阜県を拠点に木育の活動をされている福島計一さんにお話を伺いました。

インタビュー:ぎふ木育推進員・共育工房IPPO主宰 福島計一

――まず「木育インストラクター」とは何かお聞かせいただけますか?

そうですね。私は、木育インストラクター養成講座の講師をしていますが、岐阜県からの依頼で県内に木育を普及する「ぎふ木育推進員」であり、「共育工房IPPO」という個人事務所の代表でもあります。なので、厳密に言うと木育インストラクターだけではないと言うか。あらためて自分は何者か、木育インストラクターとは何かと問われると、私の場合「環境教育の指導者」ですね。

  • この日福島さんが管理番を務めていた“みの木工工房FUKUBE”

――福島さんが木育に関わるまでにはどんな経緯があったのでしょうか?

私は神奈川県大和市出身なのですが、子どもの頃から近くにある丹沢山塊によく登っていて、学校をサボったりしていた高校生の頃も、山だけは好きで登っていました(笑)。その後、大学のゼミで環境について調べる機会があり、丹沢山塊のことを調べると、林業の衰退で山が荒れていたり、登山道の過剰利用、酸性雨、ごみの不法投棄など、いろんな問題があることを知りました。私にはそれがとても衝撃で、自分を育んでくれた大好きな山に何か恩返しができないかと思い、地元の森林公園のボランティアを始めたのが環境教育を学ぶきっかけでした。それから、山梨県の自然学校でインタープリテーション(※1)を学び、岐阜県内の都市公園で環境教育の指導者として勤めた後、美濃市にある専修学校に通いました。その頃の岐阜県は、まだ木育に取り組んでおらず、ネイチャーゲームや外国のプログラムが導入されていたのですが、日本ならではの“環境教育”として木を使ったプログラムができないかと思い、恩師のもとでクラフト系のプログラムの開発に携わることになりました。在学中は、そういった教材の開発やワークショップの企画をしながら木工を学び、卒業のタイミングで岐阜県で木育の取り組みが始まったこともあって、そこから「ぎふ木育推進員」として木育に関わることになったんです。つまり木育をやりたくて活動を始めたというよりも、あくまで環境教育の中の一つとして“木”にスポットを当てて取り組んでいるというのが私自身の捉え方です。

※1インタープリテーション…自然公園やミュージアム、その他社会教育の現場で行われる、体験や地域性を重視した、楽しくて意義のある教育的なコミュニケーションのこと(一般社団法人 日本インタープリテーション協会より)

――そんな福島さんが考える「木育」とは?

木育って“伝えること”なのかなと。森の中で遊ぶこと、木でモノを作ること、木の歌を歌って表現遊びすることや読み聞かせも木育。「木」と関わるための入り口はいろいろあるけれど、大切なのは“伝える”という要素だと思います。私自身がインタープリターという伝える仕事がベースにあることもあり、木育インストラクターも一種の“伝え手”であると考えています。そして、活動における自分の中のキーワードは「身近な」と「当たり前」です。もともと「木育」という言葉は、私が子どもの頃にはありませんでした。

――「木育」は2004年に北海道で生まれた言葉ですよね。

そうです。私が子どもの頃は、野山で遊びまわったり、木登りをしたり、家にあった端材と父親の工具で木工をしたりと、今まさに「木育」として教えているようなことを、当たり前にしていました。でもその当たり前だったことがもう当たり前ではなくなってきていて、「木育」という言葉のもとでやらざるを得ない時代になった。そう考えると、その体験活動自体を「特別」なものとして伝えるのは違うかなと。本当に大切なことは日常をいかに楽しむか、豊かにするか。豊かというのはお金や物などの裕福さではなく、心の豊かさ。そういったことを伝えるためには特別感を出さないようにしないといけないなと思っています。だから、私がやるワークショップでは特別すごいものを作ろうとは思ってはいなくて、むしろシンプルだけど、作った後に家に持ち帰って長く使えたり、それを通して会話が生まれたり、いろんな広がりを感じられるような、そういう教材を使っています。

――そういったワークショップでは、何か目標を設定して企画されているのでしょうか?そこにはどのような想いが込められていますか。

木育は“頭の教育”ではなく“心の共育”とよく話していて、木育で育てたいのは「愛着」と「感謝」の心です。「愛着」は、人を好きになる時の「好きだから大事にしたい」という気持ちと同じように、木をきっかけに自然を好きになってもらいたい。ふるさとを、家族を、人を、命を大事にするという気持ちもその延長にあるのかなと。それから、私たちは誰も一人では生きていけないですよね。今はお金を払えば何でも買えるけど、それも誰かが作ってくれていて、生きていくために食べるという行為も”命をいただいている”ということ。そういうことに「ありがとう」という感謝の気持ちを持つには、その裏側を知らないといけない。汗をかきながら山に登ったり、森に入って木を切る体験をしたり、ちょっと木を削ってみたり、そういう経験からいろんなことが見えてきて、感謝の気持ちが芽生えてくるのかなと思っています。私の活動は保育園や幼稚園が中心で、対象もほとんどが子どもなので、木育を通して目には見えない部分にちゃんと気持ちや想いを馳せ、繋がりを大切にできる人、いろんなことを自分で考えられる人に育ってもらいたいですね。

  • <岐阜県関市(旧板取村)にある「株杉の森」で「生きている樹」を感じる>

――そういった心を育てるための教育において、木を通して学ぶことにはどのような利点があるのでしょうか?また、その中で感じて欲しいことを教えてください。

木は日本人にとって身近な素材であること、物を作るプロセスを実感しやすいということがメリットだと思います。木を切るところ、それを加工していくところを実際に見るのは難しいですが、丸太を触ってもらうとか、外に木があれば外に出て木に触れる、葉っぱの匂いをかぐ。そして、目の前にある鉛筆や箸も元は大きな木だったんだよ、誰かつくってくれた人がいるんだよ、木という生き物の命をいただいているんだよ、そういうメッセージを伝えるようにしています。木は生きていますから木を使うということは、食べ物と同じく命をいただくということ。何も考えずに木を使っていくといずれなくなってしまうし、木の文化も途絶えてしまいます。先人が感謝を忘れることなく木と共存し、我々にバトンタッチしてくれたのだから、それを絶やしてはいけない。木に限らず、日本人がそういう大事な部分を「伝える」ことをどこかでやめてしまった、忘れてしまったことで、今いろんな歪みが生まれているような気がします。

――伝え手として木育の活動をされる中で大切にされていることは?

一つは「この子たちにどんなことを伝えたいのか」という意識を持つこと。それを意識することによって、子どもたちへの一つひとつの言葉や伝え方が変わってくると思っています。わずか1~2時間のワークショップでも、些細な言葉が印象に残ることで、木を通した体験活動が日常生活に繋がっていくかもしれない。「楽しかったね」で終わるだけではなく何か想いを込めたメッセージを伝えることで“気づき”に繋がると思うので、一つひとつの声掛けから意識しています。親子参加の企画の時は、子どもに話しているようで、実はその後ろにいる大人にも伝えているんです。結局その子たちが家に帰った時に取り巻くのは身近な大人たちなので、その大人の意識がちょっとでも変われば子どもの意識も変わっていくんじゃないかと思っています。インストラクターだけでは限界があるので、あくまで自分はきっかけ。木育の対象は子どもだと思われがちですけど、むしろ、大人にこそ伝えていかないといけないんですよね。そして、もう一つは“寄り添う”ということも意識しているポイントです。私はいろんな活動をしている中で、以前は「こっちにおいでよ」という感覚で、自分の立場や視点から呼びかけていたんです。でも、木育に関心のない人やまだ興味を持っていない人は、それでは近づいて来てはくれない。生活環境も多様なので、それぞれに合った進め方や取り組み方で関心を持ってもらうこと、その人にとって身近なことから提案してあげることも今後木育を進めていく上で大事なことだと思っています。すでに知っている人や関心がある人はきっかけさえ掴めばあとは自分で情報を探してくれる。だから本当に伝えないといけないのは、今はまだ全く関心を持っていない層。そこに伝えていかないと多分これ以上広がらないのだと思います。

――近年、木育は日本各地で取り組まれていますが、地域による特色などはありますか?

木育にはカタチがないので、それぞれその土地に合った展開をしています。林業と木育の絡みだけではなくて、ポテンシャルとしてその地域らしいモノやコトと合わせて考えてみるとすごく面白いアイディアが出てくるかもしれない。また、森は人間だけでなくいろんな生き物たちも利用しているので、その生き物たちの視点も考えながら進めていけると良いのかな。その地のいろんな生き物たちと人間、産業や歴史、文化などを上手く絡められると、地域性や“らしさ”みたいなものも見えてきて、より身近に感じてもらえると思います。

  • 様々な樹種の木で作られたスプーン

――今、奈良県でも木育に取り組んでいますが、何かアドバイスをいただけますか。

奈良県はやっぱり歴史がありますよね。文化が深いというか、神社仏閣もあったりして。探すといろんなコトが出てくると思うので様々な分野の人に奈良の良さや面白さを掘り起こす調査をしてみるといいかもしれませんね。地元のおばちゃんやおじいちゃんといろいろ話してみると「おっ」っていう何気無いヒントが見つかるかも。有名なコトだけじゃなく、さらに一歩踏み込んで地域の人を探ったりして出てきたコトをピックアップして、木を通してあらためて奈良の人に知ってもらう。そんな掘り出し方もこれから木育を進めていく中でやっていくと面白いのかなって。あと、せっかく木の聖地である「吉野」という場所があるので、イベントなどで森に足を運んでもらう機会をつくっていけると良いのかなと思います。たとえ街中に住んでいる人であっても周囲に木が1本もないはずはなくて、街路樹や庭木、それから自分の家の中にある木製品など、身近なところに目を向けるきっかけ作りとして、吉野に足を運んでもらう。そうすることで、奈良の山や自然について知ってもらうきっかけにもなって、そこから自分たちが住んでいる場所への愛着にも繋がると思います。実は、隠れキーワードは「郷土愛」なんです。地元を好きになれるといいですよね。木育を通してふるさとを知って好きになってもらう。それを目指していけるといいのかな。

――ありがとうございます。最後に、今後の課題を聞かせてください。

この木育を通した想いを後世に繋いでいくためにも、活動を継続していく必要があると思っています。ところが、⽣業として後継者がいないんです。今の子どもたちは木育とか食育とか、いろんな体験や気づきを通して、今後こういうことを仕事にしたいという人も出てくると思うんです。だからきちんとその思いを伝えることが仕事になれば、次の世代が継いでくれるんじゃないかと思っています。種まきなんですよね。体験したことをきっかけにその人の心の中で「あっ、そういえば」って芽が出る。それは早いうちかもしれないし、その人が歳を取って40、50になってから気づくかもしれない。それでも良いんです。もしかすると私が生きている間には芽が出るのを見られないかもしれないけど、50年後、息子や次の世代が活躍している時代にそれが芽生えて、その芽が生えた一人一人の心の種が、世の中を良い方向に動かす原動力になってくれたら何よりかな。時間もかかるし手間もかかるけど、とにかく今後も変わらずそれをやっていこうと思っています。

取材・文:岩永茜
写真:鈴木誠一
協力:木のものづくり施設みの木工工房FUKUBE/東京おもちゃ美術館

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