インタビュー記事

2020.02.14

『Hamidashimono(はみだしもの)』を価値ある物へ。端材から作る割り箸に込めた想い。

日本人にとって最も身近な木製品は? と聞かれて、真っ先に割り箸をイメージする人は少なくないでしょう。毎日の食卓に欠かせない箸、特に割り箸は90%以上が海外からの輸入品ですが、国内にも製箸所が存在しています。割り箸は、使い捨てでもったいない、森林環境に良くないというイメージを持つ人もいるかもしれませんが、実際のところ、国産材の割り箸は真逆の役割を果たしているのです。本来、捨てるだけの端材や森林整備で生じた使い道のない間伐材を、有効に活用して作られるため、森林環境の保全を支える重要なアイテムの一つなのです。

そんな割り箸の製造過程で、最後に残った端材を更にアップサイクルするプロジェクトが2019年11月にスタートしました。それが『Hamidashimono(はみだしもの)』。奈良県吉野町の製箸所で生まれた端材を、さらに自らの手で削ることで、自分だけのオリジナル割り箸を作るキットを製作・販売しています。

『Hamidashimono』プロジェクトのアイデアを実現させたのは、日本に拠点を置くデザイナー Jan Chipchaseさん、James Gibsonさん、Eko Hayashiさんの3人。このプロジェクトを立ち上げた経緯や込めた想いについて、Eko Hayashiさんにお話をうかがいました。

インタビュー:デザイナー Eko Hayashi(林 絵子)

――はじめに、そもそも吉野の林業や箸工場に興味を持ったきっかけについて教えてください。

以前、メンバーの一人が別のリサーチプロジェクトで、吉野を訪れた際に製箸所を見学したことが始まりでした。日常の中に当たり前のようにある箸が作られていく過程、音や香り、吉野の人たちとの触れ合いに感銘を受けて、箸工場に夢中になったんです。そして割り箸にカットされる最後の工程で端材が生まれて捨てられてしまうと知り、その端材にまた新しい価値を生み出せないかと考え『Hamidashimono』が生まれました。

――どのようなコンセプトで、このプロジェクトは始まったのでしょうか?

自分たちの日常にあるものがどういう所から運ばれてきて、どういうプロセスを経て手元に届いているのかを、吉野で生まれたこの端材を通して知ってほしいという想いから始まりました。不要なものに新しいアイデアを加えて、価値のあるものへと生まれ変わらせることをアップサイクルと言いますが、『Hamidashimono』も割り箸の製造過程で生まれた端材をキットにすることで、アップサイクルしています。今は使い捨ての文化が根付いていますが、そうではなく持続可能な社会にするためのきっかけづくりとして、この商品が様々な人の手に届けばいいなと思っています。

――プロジェクトを進めるにあたって、どんなリサーチをされましたか?

JanとJamesはイギリス人なので、箸の文化がどのような歴史を辿って日本に根付いてきたのか、あまり知りませんでした。まずはそういったルーツから共有する必要があると考えて、私自身、箸の歴史について入念に調べました。最古のお箸は竹で出来たもので、その後、木材を使ったお箸が中国で作られたそうです。日本では、聖徳太子によって送られた遣隋使が箸の文化を持ち帰ったことから広まり、割り箸は江戸時代から使われ始めたという歴史があることを知りました。他にも「箸」という漢字の「たけかんむり」は竹のルーツから来ているんじゃないか、「膳」という漢字の「にくづき」は人の体に使われる部首だから体と強く結びついていると考えられているんじゃないかなど漢字の成り立ち等も調べました。古来より箸は神事に使われてきたので、神道から来る日本人の“物を大事にする”精神とも結びつきが深いなど、いろいろな側面から「箸の文化」についてシェアしていきました。

  • 歴史や漢字の成り立ちといった箸のルーツをまとめた資料

――どのような想いから『Hamidashimono(はみだしもの)』と名付けたのですか?

Janが箸工場を見学していた時に、最後の端材を見て「この切れ端はどうするんですか?」と聞いたら、「これは……特に何にもなりません。ただの“はみだしもの”です」という答えが返ってきたそうです。その「はみだしもの」という言葉の響きと意味が気に入り、プロジェクトの名前にしたのです。

――『Hamidashimono』のキットの内容について、詳しく教えていただけますか?

まず、吉野スギの容器に、箸工場から出た吉野ヒノキの端材が50本入っています。最後に残った端材なので、形はバラバラですが、削ってもらうと25膳の箸ができます。それと、吉野の和紙工房・植和紙工房で作ってもらっている箸帯が25枚。箸帯で2本を留めることで、割り箸を割る潔い感覚を伝えることができ、割り箸であることの意味が出てくると考え、箸帯を入れることにこだわりました。

――箸を削るための道具にもこだわりがありそうですね。

キットの中には、紙やすり10枚と肥後守(ひごのかみ)が入っています。肥後守は日本で古くから使われているナイフで、漢字が刻印されたデザインと優れた機能性から、海外でも人気があるんです。昔は鉛筆を削ったりするのに、日常的に使われていたようですね。

  • 紙やすりと箸帯
  • 肥後守

――ラッピングに使われている藍染めの手ぬぐいにも風情があります。

手ぬぐいはキットを包むだけでなく、木を削る時にテーブルに敷いてもらう用途もあります。削りカスをまとめたり、出来上がった箸を拭いたり、何かと万能に使えるんじゃないかなと思います。手ぬぐいの模様も、木の削りカスの形をパターンにしました。初めは気づかないかもしれませんが、キットを使った時に気づく、驚きの瞬間をつくれたらと思いデザインしました。

  • 手ぬぐいとデザインの基となった木の削りカスのスケッチ

――箸を自らの手で削る、という工程をあえて残したのはなぜでしょうか?

自分のために削って使うというよりも、家族で食卓を囲んだり、家に友達を招いてパーティーをしたりする時に、誰かのためを想って作るという気持ちを大事にしてほしいと考えたからです。かつて、千利休も吉野の木材を削って箸を作り、客人をもてなしたそうです。箸を自らの手で削る、という行為は、そういった「おもてなし」の精神にも繋がります。人と人との関係性からアップサイクルについて話し合ってもらうきっかけにもなると思うので、削るというプロセスは大事にしています。

――デザイン面では、どういった所にこだわりましたか?

イメージは、箱に入った木の束がキッチンテーブルに置いてあって、使いたい時に取り出してすぐに削れるような、日常の中に溶け込んでくれる感じ。削りカスをモチーフにすることで、親しみやすさとユニークさを表現しました。それと、お箸の端材はもちろん、木の容器や和紙など、できるだけ吉野でつくられた素材を取り入れています。あとは、プラスチックを一切使わないという点ですね。

――『Hamidashimono』は、どのような方に使われていますか?

メインは海外の方々です。もともとギフト用として使って欲しいと考えていたため、第一弾を2019年のクリスマス前に販売開始しました。モノ作りが好きな人には特に好評で、家族みんなで作ってくれたりしているようですね。ナイフを使うので大人の注意は必要ですが、お子さんがモノ作りに興味を持つきっかけになってくれればいいなと思います。あとは、キャンプに出かけた時に持って行くのもいいですね。

――Eko Hayashiさんは、『Hamidashimono』が完成した後に吉野を訪れたそうですが、吉野の印象はどうでしたか?

駅に降り立った瞬間から空気の感覚が全然違って、香りも素晴らしくて感動しました。歩いていると木材が山積みになった工場がたくさんあって、私も箸工場を見学させてもらいました。割り箸が端材から作られていることは知っていましたが、実際に作られていく過程を見ることで、普段何気なく使っているものがこうやって作られているんだなって実感しました。

――実際に見た割り箸作りの工程は、どのようなものでしたか?

割り箸を作る工程も、すごくたくさんのプロセスがあるんですよね。木を柔らかくして、カットして、また乾燥させて……。そこで使われている機械もすごく古いもので年季が入っていて、昔から受け継がれてきた仕事なんだということがよく分かりました。そういった仕事が私たちの生活を支えているんだなと感じました。

――『Hamidashimono』のプロジェクトは、どのように吉野と関わっているのですか?

これらの端材は、私達が見学させてもらった北村製箸所から仕入れているもので、利益の三分の一を箸工場に分配しています。そうすることで、吉野の林業や伝統産業を支援したいと考えています。

  • 吉野の和紙で作られたギフト用のラッピング

――木の魅力について、どのように考えていますか?

木は生き物だから温かみや安心感がありますよね。自然に還っていくというのも無駄がなくて本質的だなと思います。また、使っていくことで味が出てくるのも良いですし、人の生活に馴染む一番の素材じゃないでしょうか。デザイナーとしてもゴミにならないというのは大事ですね。モノを作るという行為は、どうしてもゴミが出て捨てるものが増えてしまいます。デザインする上で、なるべく環境に良い素材を使っていきたいと考えているので、木材は最適の素材だと思います。

――『Hamidashimono』の今後について、教えてください。

はじめは『Hamidashimono #1』として200セット作ったんですが、これからはもっと生産していきたいと考えています。あとは、手ぬぐい単体での販売だったり、色を変えたものを作ったり少しずつバリエーションを増やしていきたいです。今は国内だけでなく海外への通信販売も行っています。今後は卸して売ったり、ワークショップを開いたりするのもいいんじゃないかと話しています。見るだけでは分からないことも多いので、実際に手に触れて体験する中で、吉野のことや割り箸のこと、アップサイクルについて知ってもらえると良いですね。

最後に、このプロジェクトに込めた想いと、今後の挑戦について、『Hamidashimono』のメンバーであるJan ChipchaseさんとJames Gibsonさんにもコメントをいただきました。

――『Hamidashimono』プロジェクトに込めた想いは?

Jan 私たちが普段使用する物がどこから来たのかを理解し、サスティナブルなデザインについて考えてもらうために作りました。

――どのような人に『Hamidashimono』を使って欲しいですか?

Jan 割り箸を使う人なら誰にでも使ってほしいです。それと木工を楽しんでくれる人たち。自分の手で作るというプロセスを楽しんでくれる人たちにぜひ使って欲しいです。

――このプロジェクトで、今後どのような挑戦をしたいですか?

James この大きなチャレンジを通じて、「箸」という工芸を日本で生かし続けたいと考えています。もし、僕たちのプロジェクトが少しでも存続の手助けになっていけば最高ですね。

INFORMATION

Hamidashimono #1

内容 Hamidashimono 50本 (吉野の箸工場より)
吉野杉の容器
肥後守ナイフ
紙やすり#240 10枚
箸帯 25枚 (吉野の和紙工房・植和紙工房より)
藍染め手ぬぐい
価格 約10,450円($95.00)
+ ギフトラッピング 約 2,200円($20.00)
※ 110円/$で換算しています。
販売価格はドル価格を基準としています。
HP https://hamidashimono.com/
Instagram https://www.instagram.com/hamidashimono_/

取材・文:青山晃大
写真:小笠原孝一

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