インタビュー記事

2020.11.13

MIND TRAILプロデューサー齋藤精一×建築家/美術家 佐野文彦が思う、芸術祭で感じた“奈良の木”のストーリー

世界遺産「大峯奥駈道」を始め、美しい自然が広がる奈良県・吉野町、天川村、曽爾村の3ヶ所で開催された芸術祭<MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館>。森林面積が多くを占めるこれらのエリアを、歩きながら、アートを通して身体と自然を感じて欲しい、というコンセプトで開催された芸術祭には、建築家・佐野文彦氏の作品を始め、奈良の木にフォーカスしたアート作品がアーティスト達によって生み出されました。

今回は、芸術祭のプロデューサーであるパノラマティクス(旧ライゾマティクス・アーキテクチャー)主宰の齋藤精一さんと、参加アーティストの一人、建築家/美術家の佐野文彦さんに、アート作品としての奈良の木の可能性について、お話を伺いました。

インタビュー:MIND TRAILプロデューサー 齋藤精一、建築家/美術家 佐藤文彦

――お二人は、以前から奈良との関わりを持っておられますが、まずは、今回の芸術祭の作品の中で使われている“奈良の木”について、どんな印象をお持ちでしょうか?

齋藤:吉野ヒノキ、吉野スギに関しては、神社仏閣との関りが深いことと、吉野山に関しては下千本から上千本(※1)の美しい桜の木も、宗教や信仰と密接にかかわっています。また、奈良の木は人の手で大切に育てられてきた歴史があることを知り、とても神聖なイメージがあります。また、新築の建材を見ればわかるのですが、最近国内では日本の木を使わなくなってきたのではないでしょうか。吉野ヒノキやスギともなると、価格も張るのでなかなか手が出づらいということもあると思うのですが、僕は、それは矛盾していると思っています。日本人が「杉」と聞くと、真っ先に思い浮かぶのがきっと吉野スギ。良いものだとわかっていても使わない。それは、きっとその良さを体感していないからではないかと思います。というのも、今回の芸術祭に参加していただいたアーティストの方々に聞いてみると、吉野スギやヒノキを一度使えば離れられない、これからも使っていきたいという声が挙がっていたんです。

  • 吉野エリア 撮影:西岡潔

齋藤:いま、日本の林業はどこも疲弊していると思うんです。吉野スギや吉野ヒノキを筆頭とした木は日本の誇れるブランドの一つですよね。だからこそ奈良の木が、この芸術祭がひとつの糸口になって、建材だけでなく新しい使い方のヒントになればと思います。

※1下千本から上千本…吉野山の区域の名称。吉野山は標高順に「下千本」「中千本」「上千本」「奥千本」と言う区域に分かれていて、下千本には吉野山のシンボル世界遺産・金峯山寺蔵王堂を始め、日本最古のロープウェイや大橋、桜風景で有名な七曲り坂などもあり、桜の時期は下千本から桜が咲いていく。

佐野:齋藤さんの言うことは確かで、今回、僕は吉野林業に関わる皆さんと一緒に作品を制作しました。普段は製材や家具などの製造に関わる方々ですが、作業をした時に作品の前の地面が足跡で踏み鳴らされていることが気になったのか、その場所に杉の落ち葉や枝を拾ってきて置いてくれたんですよね。それは作品のことを考えているからこそのことで、いつも生業として奈良の木に関わる方々が、こういうことに気づき行動できるのは、すごいことだと感じました。

  • 作業風景(天川村)撮影: 増田女史

齋藤:奈良の木をアーティストが素材にすることで、林業や製材に関わる方々も、さまざま影響を受ける機会になったのかもしれませんね。木のことを熟知している方との作業は、なかなか面白い時間だったのではないでしょうか。

佐野:お手伝いいただいた方々は、いつもは吉野町で作業をされている方々で、天川村にはあまり来る機会がなかったそうです。だからこそ新鮮だったのか、今回の作品作りを通して、天川村がすばらしいと言っていました。こういった“気づき”は、僕自身にとっても、いつもお世話になっている林業の方々にとっても良い体験になったのではないかと思っています。

――アート作品としての奈良の木の魅力についてはいかがでしょうか?

佐野:僕は、大工から建築家になって、こういった美術家としても活動をしていますが、何かをデザインする時に「どうしてこの形でないといけないのか」ということを、大工の時からずっと考えてきた人間です。何か形を作るというのは恣意性、つまり何かしらの意味があるはずじゃないですか。自分で形を決めて、その形に切って、その形を作っていく。例えば鉄の素材が欲しい時なら、鉄の塊の状態では手に入らなくて、だいたい鉄板に加工されていたりしますよね。その物体が生まれるまでには何かしらのストーリーがあるはずなのに、加工物にそれは見えてこないんですよね。だけど、木材とか石とか自然物は、そもそも一個ずつ全部違うし木目も含め育ってきた場所によって違う。吉野町と天川村の木も違うだろうし。そのもの自体が持つストーリーが見えてくるんですよね。自分自身が全てを決めなくても、そのもの自体がちゃんと形、個性を持っている。奈良の木は、それらが持っている個性を取り込んでいくスタイルの作品作りができると思っています。奈良の木自体が物語ってくれるみたいなところがあるということですね。

  • 撮影: 増田女史

佐野:今回の作品は、あの場所に作るということだけで、周りの環境そのもので作品になり得ていたと思っています。たまたまポコッと空いている場所があって、そこへ歩いていくアプローチも含めて作品をつくりたいと思いましたし、僕が作った作品を通してみんながその場所を見てくれる。そういう場所全体を含めて作品にできたのかなと思っています。

  • 佐野文彦『関係-気配』 撮影: 増田女史

齋藤:そうですね、あと今回、奈良の木を使う作品を通して、人とつながるということもありました。吉野エリアでアーティストの木村充伯さんが『鹿が見てる』という鹿をモチーフにした作品を吉野ヒノキで制作されたんですね。木村さんが吉野町の下千本の駐車場の前でテントを張って、チェーンソーで朝から晩まで木を切って作業していると、通りがかりの人が「何してるの?」と話しかけてくれたりして、地元の方々との関わりができていったそうです。そうすると会話の中から吉野町のことも少しずつわかってくる。だんだんネットワークもできて、僕たち運営チームや奈良県の職員の皆さんだけでは届けられない、周辺住民の方々にもアーティストのメッセージが自然に届いていったと思っています。これは、大きなことですよね。

  • 木村充伯『鹿が見てる』 撮影: 都甲ユウタ

――改めて今回の芸術祭<MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館>についてお願いします。

齋藤:今回は、最初にアーティストのみなさんにお話ししたことがあります。自然に勝とうとせず、自然を追うことをせず自然の美しさ、生命の尊さや怖さなどさまざまな感情を、創りだす作品というレンズを通して、来場者の皆さんに観てもらえるように新たに生み出す感覚で作品を考え、自然の中に慎重に置いてほしいと。吉野町、曽爾村、天川村を歩いて作品をめぐると、段々どれが作品かわからなくなるほどの一体化が面白いと思います。例えば、間伐している空間や森を守るための倒木も作品に見えてきたり、小さなきのこですら作品に見えてきたり。そういったところも楽しんでほしい芸術祭です。

  • 天川エリア 撮影:西岡潔
  • 曽爾エリア 撮影:西岡潔
  • 吉野エリア 撮影:西岡潔

齋藤:多くの芸術祭はコロナの影響で中止になったり、延期になったりしています。芸術祭や美術館はそこに行かなければ体験することができませんが、こんなコロナ渦の状況であるからこそ、自分がいる場所=心の中に美術館を作ることができるのではないかというコンセプトを基にこの芸術祭を企画しました。自粛期間に貯めたアーティストたちのエネルギーを、奥大和の自然や大地と共に展示できたことをとても嬉しく思っています。奥大和の自然から、また、この土地に住む人々から、芸術祭を訪れた皆さんが、多くのことに気づいていただけるといいなと思っています。

佐野:普段触れることのないものが目の前にある。その物事を知っているか知っていないかではなく、単純に感動を呼ぶものがそこにある凄さ。ご覧になる方々が、自分の中の違和感、そこから生まれる強く残る印象に気づき、自分の心の中の美術館のひとつにしていただけたらいいなと思います。

INFORMATION

MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館

期間 2020年10月3日(土)〜11月15日(日)
会場 奈良県・吉野町、天川村、曽爾村
入場料 無料
主催 奥大和地域誘客促進事業実行委員会、奈良県
協力 株式会社ヤマップ
プロデューサー 齋藤精一(パノラマティクス主宰)
キュレーター 林曉甫(特定非営利活動法人 インビジブル理事長)
参加アーティスト 井口皓太、上野千蔵、oblaat、菊池宏子+林敬庸、木村充伯、毛原大樹、齋藤精一、佐野文彦、力石咲、中﨑透、ニシジマ・アツシ、細井美裕
[NARA *奈良在住アーティスト]
北浦和也、小松原智史、坂本和之、武田晋一、西岡潔
[NARA program *奈良在住アーティストによる特別展示等]
飯田華那、逢香、タカホリイ、松田大児
URL https://mindtrail.okuyamato.jp/
Profile
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齋藤精一
パノラマティクス(旧ライゾマティクス・アーキテクチャー)主宰

1975年神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。03年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのを機に帰国。フリーランスとして活動後、06年株式会社ライゾマティクスを設立。16年社内に設立された3部門の中のひとつ、「アーキテクチャー部門」を率いる。2020年ドバイ万博日本館クリエイティブアドバイザー。2025年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター。

https://panoramatiks.com/
Profile
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佐野文彦
建築家/美術家

1981年奈良県生まれ。京都、中村外二工務店に数寄屋大工として弟子入り。年季明け後、設計事務所を経て、2011年に独立。現場の経験から得た工法や素材、寸法感覚を活かし、コンセプトから現代における日本の文化とは何かを掘り下げ、作品を製作している。2016年には世界16か国を歴訪し、各地でおもてなしの場としての茶室を作るプロジェクトを敢行。さまざまな地域の持つ文化の新しい価値を作ることを目指し、建築、インテリア、プロダクト、アートワークなど、国内外で領域横断的な活動を続けている。


EDIDA 2014 ELLE DECO Young Japanese Design Talent、IF DESIGN AWARD 2020受賞、2016年度文化庁文化交流使、Dezeen Awards shortlists、FRAME AWARD nominate、IDEA-TOPs nominateなど。

http://fumihikosano.jp/

取材・文:土井淑子
写真:増田女史 / 都甲ユウタ / 西岡潔
写真提供:MIND TRAIL

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