「日本神話とギリシャ神話」
記紀・万葉リレートーク 第15回 橿原市
2013年3月20日(水・祝) 13:30~
会場・奈良県橿原文化会館
講師・作家 阿刀田 高氏(あとうだ・たかし)氏
演題・「日本神話とギリシャ神話」
チラシにリンク
概況
平成25年3月20日に奈良県橿原文化会館にて、第15回目の「記紀・万葉リレートーク」を開催しました。
13時30分から開演し、奈良県観光局長、続いて開催地の橿原市長の挨拶の後、「 日本神話とギリシャ神話」と題し、作家 阿刀田 高氏にお話しいただきました。
講演資料はなく、先生のお話しのみというシンプルな講演会となりましたが、古事記が時代とともに、日本史の中でどのように解釈されていったのか、またギリシャ神話の話しも織り交ぜながら、軽妙な語り口で、来場者を魅了していました。
ホワイエでは、本の販売も行われ、30名限定のサイン会も実施されました。
講演の概要
「古事記は王権神授説の手法で大和朝廷の権威を天下に示す意図をもってつくられたものであるが、同時に日本
人の心、歴史、アイデンティティを伝えるために、漢文以外の表現手法も盛り込んだ古典でもある。しかし、712年の古事記編纂の8年後に日本書記も発表され、日本書記が、海外、とくに中国に対して国力誇示の色彩が強かったため、古事記は2番手の運命を背負ってしまう。この古事記の価値を見出したのは、江戸時代の本居宣長である。その後、明治以降の日本の国体論によって古事記は聖なる書物として崇められ、昭和20年に日本が敗戦すると、今度は進駐軍により禁止の書物になってしまう。ここ10年ぐらいはやっと正当な評価がなされるようになってきたが、古事記はこうした数奇な運命をたどってきた。
小泉八雲(ラフカディオ・ハーン。母はギリシャ人)は、生涯キリスト教を好まず、ギリシャや日本の多神教文化に興味をもったという。古代ギリシャ文化は、例えば哲学は今でも世界の大学で教えられており、演劇、政治(民主主義を最初に実践)もそのまま21世紀に通用するものばかりである。古代ローマもこうした独創性と人間性に富んだギリシャ文化を原点に持っているが、キリスト教の登場が人間を抑圧する方向に進みすぎてしまう。その後、ルネサンス運動が起こり、ヨーロッパは古代ギリシャ的な思想の回帰をめざすことになる。
神話は誕生前にそれ以前の300年、500年という歴史の中の体験から感じているものを比喩的に寓話として語っているものである。パンドラの箱の神話のように、ギリシャ神話は非常に寓意性に富んでいるが、日本も多神教なので、もっとおもしろい要素のものがあったと思う。古事記を編纂するときに、大和朝廷が王権を握っていく上で、都合のいいように変えて残した可能性もある(例えばヤマタノオロチの話は当時相当な文化をもっていた出雲神話が元ではないか)。古代人が残しえなかったものを見ていくことも、そういう想像力をはたらかせることも大事ではないか。この土地に生まれ、この土地に住む皆さんが、この土地を愛して、日本の古代文化に思いをはせてくれることを祈ってやまない」。
【講師プロフィール】
阿刀田 高(あとうだ・たかし)/作家
小説家。早稲田大学文学部仏文科卒業後、一時国立国会図書館に勤務。その後軽妙なコ
ラムニストとして活躍したが、昭和40年代の終わり頃から” 奇妙な味” の短篇小説を書
き始め、昭和54年『来訪者』で日本推理作家協会賞、短篇集『ナポレオン狂』で直木賞を
受賞。
日本ペンクラブ会長を歴任。現在、直木賞選考委員、文字・活字文化推進機構副会長。