「布留遺跡の調査成果から見た物部氏」
記紀・万葉リレートーク 第12回 天理市
2013年3月9日(土) 9:30~
会場・天理市文化センター文化ホール
講師・天理大学附属 天理参考館学芸員 日野 宏(ひの・ひろし)氏
演題・「布留遺跡の調査成果から見た物部氏」
チラシにリンク
概況
平成25年3月9日に天理市文化センター文化ホールにて、第12回目の「記紀・万葉リレートーク」を開催しました。
9時30分から開演し、天理市長の挨拶の後、「 布留遺跡の調査成果から見た物部氏」と題し、天理大学附属 天理参考館学芸員 日野 宏氏にお話しいただきました。午後からは天理観光協会による歴史講座&ウォーク「聞き見て感じる!【大和の中の大和】」も実施され、日野先生も参加されました。
講演の概要
「布留遺跡は天理市に所在する旧石器時代から現代まで連綿と続く複合遺跡である。この布留遺跡の東縁には石上神宮が鎮座する。日本書紀によれば、古くから物部氏が石上神宮を祭ってきたとされる。この石上神宮は神剣フツノミタマを祭神とし、大量の武器がおさめられていて、王権の武器庫としての役割も担っていた。国宝の七支刀が石上神宮に伝世するのも石上神宮のこうした性格によっている。物部氏は祭祀を司るとともに、軍事氏族としての一面も有していたのである。布留遺跡は、この物部氏が本拠を置いた集落遺跡である。これまでの発掘調査では、多数の祭りに関わる遺物や刀剣装具などの武器類が出土している。特に布留川北部からは5世紀代の祭りの場を囲っていたとみられる多数の円筒埴輪や朝顔形埴輪が出土した。こうした埴輪の使い方は他に例を見ないものである。また、付近からは河原石を敷いた祭場が発見され、多数の土器と共に総数が4000点以上に及ぶ滑石製の玉類が出土している。これは全国的に見ても屈指の祭場といえるであろう。また、三島(里中)地区からは物部氏の武人集団としての性格を窺わせるような、全国最多の木製の刀剣の把や鞘などが出土している。
布留遺跡ではこの物部氏の抬頭を思わせる5世紀の建物跡や人口の大溝が布留川南岸地域で発見されている。豪族の居館跡とみられる石敷遺構や全国でも最大規模の倉庫跡などである。また、大溝は履中紀の「石上溝」ではないかとされるもので、ここに居住した豪族の勢力の大きさを物語っている。
これまでの調査で、この物部氏は玉作り工人や鉄器生産に携わった鍛冶集団を従えていたことも明らかとなっている。出土遺物には朝鮮半島南部の伽耶地域や百済からもたらされた土器もあり、鉄器生産に最新の技術を携えた渡来人が関わっていたことを示すものとして注目される。
5~6世紀に大きな勢力を誇っていた物部氏は7世紀には石上氏となって、その勢力を保ち続けていた。この時期の首長墓には明日香の石舞台古墳に匹敵する塚穴山古墳や峯塚古墳があり、奈良時代には舶載の海獣葡萄鏡を出土した杣之内火葬墓がある。その被葬者については大納言の石上宅嗣ではないかとする説もあり、遺跡や古墳などのそのすぐれた内容から、改めて天理の歴史は見直されるべきことを痛感する。」
【講師プロフィール】
日野 宏(ひの・ひろし)/天理大学付属天理参考館学芸員
天理大学付属天理参考館考古美術室学芸員。
1957年奈良県生まれ。天理大学文学部卒。
1980年天理大学付属天理参考館入職。
現在に至る。