「いま蘇我氏を問いなおす」
記紀・万葉リレートーク 第6回 御所市
2013年1月19日(土) 13:30~
会場・御所市文化ホール
講師・学習院大学講師 遠山 美都男(とおやま・みつお)氏
演題・「いま蘇我氏を問いなおす」
チラシにリンク
概況
平成25年1月19日に、御所市文化ホールにて、第6回目の「記紀・万葉リレートーク」を開催しました。
13時30分から開演し、御所市長の挨拶の後、「いま蘇我氏を問いなおす」と題して、学習院大学講師 遠山美都男氏にお話しいただきました。
蘇我氏は真に悪者だったのかの問いかけと、新しい解釈を交えながらの内容に聴講者は熱心に聴きいっていました。また、質疑応答の時間が設けられ、興味深い質問も寄せられました。
記紀・万葉に精通した受講者が多いことがうかがわれました。
講演の概要
「蘇我氏は天皇家に取って代わろうとしたというのは、日本書紀がつくったフィクションである。蘇我氏は支配階級内部の権力闘争に敗れて去ったにすぎない。しかし、6世紀前半にあらわれた稲目を皮切りに、馬子・蝦夷・入鹿と4代にわたり宮廷内で大きな力を保つことができたのはなぜか。これについては、大巨(おおまえつきみ)という今日の総理大臣のような要職を世襲したことと、天皇に娘を嫁がせ、天皇家の外戚となったことが考えられる。これらはいずれも蘇我氏が最大最強の豪族連合筆頭の座にあった葛城氏を継承したことにより可能になったが、蘇我氏発展の理由はこれ以外にもあった。
欽明天皇の時代に朝鮮半島の百済から仏教が伝えられると、天皇は稲目に仏法の管理・主宰=蕃神(外来の神)の祭祀を委ねた。それにともない仏法に付随する外来の文化・技術も蘇我氏が管理することになり、このような文化・技術を身につけ伝習する渡来人集団も蘇我氏の指揮・統率のもとに入るようになった。
馬子は渡来人集団の力を結集して我が国最初の寺院・飛鳥寺を創建する。その意義は、仏=蕃神の測り知れない力を国家がコントロールできるようにすること、中国で誕生した強大な帝国の脅威に対抗しつつ、巨大な公共建造物を造って自国の権益を確保することである。蘇我氏はこのような国家が必要とした公共事業を主宰することで、宮廷内で揺るぎない地位を築くことになる。
だが、結局、孝徳天皇を中心とした天皇家が仏法の管理・主宰権を蘇我氏から取り上げ、公共事業を直接管掌しようとしたために、蘇我氏は乙巳の変とよばれる政変により滅ぼされることになったのである。」
【講師プロフィール】
遠山 美都男(とおやま・みつお)/学習院大学講師
1957年東京都生まれ。81年学習院大学文学部史学科卒業。同大学院入学、学習院大学文学部助手を経て、現在、同非常勤講師。97年学習院大学より博士(史学)の学位を授与される。
著書に『大化改新』『壬申の乱』『天皇誕生』『天平の三姉妹』(以上、中公新書)、『白村江』『天皇と日本の起源』(以上、講談社現代新書)、『古代日本の女帝とキサキ』(角川書店)、『蘇我氏四代』(ミネルヴァ書房)、『古代の皇位継承』(吉川弘文館)、『天智と持統』(講談社現代新書)、『改訂新版 卑弥呼誕生』(洋泉社歴史新書)など多数。