記紀・万葉講座

「古事記出版大賞 表彰式・記念シンポジウム」

記紀・万葉プロジェクト/古事記1300年フィナーレ・イベント

2012年12月23日
会場・奈良県新公会堂 能楽ホール

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プログラム
第1部 「古事記出版大賞」表彰式

主催者挨拶

二次審査員代表によるコメント
株式会社ジュンク堂書店 難波店店長 福嶋聡氏
表彰式
しまね古代出雲賞
受賞作品:「はじめての日本神話-『古事記』を読みとく」
宮崎ひむか賞
受賞作品:「古事記 神々の詩」
太安万侶賞
受賞作品:「日本を読もう わかる古事記」
稗田阿礼賞
受賞作品:「古事記 不思議な1300年史」
古事記出版大賞
受賞作品:「古事記(別冊太陽 日本のこころ194)」
受賞コメント(監修者 千田稔氏)
第2部 記念シンポジウム

株式会社平凡社「別冊太陽」編集長 湯原公浩氏
脚本・作詞家 (ARTマネジメント野住所属)村上ナッツ氏
佛教大学歴史学部教授 斎藤英喜氏
法政大学文学部教授 坂本勝氏
宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会副会長 湯川英男氏

本表彰式・記念シンポジウムは、記紀・万葉プロジェクトの一環として、古事記1300年を記念する年のフィナーレを飾るイベントとして開催された。

第1部 「古事記出版大賞」表彰式

主催者挨拶

主催者である荒井正吾奈良県知事が挨拶。「わが国最古の書物である『古事記』の縁の地である奈良県が、『古事記』の魅力をわかりやすく伝える優れた出版物を紹介することで、多くの日本人が『古事記』という書物がもつ奥深さ、内容の豊かさにふれていただくきっかけとしたい」と本事業のねらいを語った。

二次審査員代表によるコメント

「古事記出版大賞」受賞作の選考過程について紹介するとともに、二次審査にあたった3名の書店員を代表して、株式会社ジュンク堂書店難波店店長の福嶋聡氏が、「より多くの人たちを『古事記』の魅力ある世界へと誘ってくれる本を選んだ」と、受賞作品の選考のポイントを説明。また、「書籍の電子化が声高に叫ばれるいま、我々書店人にとって、日本最古の書物である『古事記』が、ますます魅力と生命力をもって次の世代へと読み継がれていくための賞の選考にたずさわった意義は大きい」と述べた。

表彰式

表彰式

しまね古代出雲賞

受賞作品:「はじめての日本神話―『古事記』を読みとく」
受賞者:法政大学教授 坂本勝氏
株式会社筑摩書房
著者の坂本勝氏が登壇。プレゼンターの島根県教育委員会教育長・今井康雄氏は、「『三種の神器』の一つであり『古事記』の重要な場面で登場する勾玉は島根県が全国一の産地であり、古代のロマンがあふれる神々の国・島根県からの記念品としてお納めいただければ」と、「勾玉のブレスレット」、表彰状及び賞金20万円を受賞者に贈呈した。

宮崎ひむか賞

受賞作品:「古事記 神々の詩」
受賞者:宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会副会長 湯川英男氏
有限会社鉱脈社
著者の湯川英男氏が登壇。プレゼンターの宮崎県総合政策部長・稲用博美氏は、「今、宮崎県の里々では、夜神楽をはじめ神楽が毎日のように舞われております。ご来場の皆様も一度宮崎県に神楽を見に来ていただきたい」と、「手彫の岩戸神楽面」、表彰状及び賞金20万円を受賞者に贈呈した。

太安万侶賞

受賞作品:「日本を読もう わかる古事記」
受賞者:脚本・作詞家 村上ナッツ氏
大阪府立大学教授 村田右富実氏
マンガ家 つだゆみ氏
株式会社西日本出版社
著者の村上ナッツ氏、監修者の村田右富美氏、漫画を担当したつだゆみ氏、出版社の西日本出版社代表取締役の内山正之氏が登壇。プレゼンターの久保田幸治奈良県観光局長は、「仮名文字もない時代、太安万侶さんは漢字で書物を著すことに大変苦労されたことが想像されます。太安万侶賞も、そのような観点からより多くの人にわかりやすく伝えようという作品に贈呈することになりました」と、太安万侶ゆかりの多神社の「絵馬とストラップ」、表彰状及び賞金30万円を受賞者に贈呈した。

稗田阿礼賞

受賞作品:「古事記 不思議な1300年史」
受賞者:佛教大学教授 斎藤英喜氏
株式会社新人物往来社
著者の斎藤英喜氏、出版社の新人物往来社「歴史読本」編集長の本多秀臣氏が登壇。稗田阿礼を御祭神として祀る賣太神社宮司の藤本保文氏は、「アマテラスオオミカミが岩屋に隠れられた時、巫女舞の元祖といわれる舞を舞われ、再びアマテラスをこの世にお招き申し上げたアメノウズメノミコトのことを”おたふく”といい、その土鈴をお贈りいたしました」と、「古事記土鈴とおたふく土鈴」、表彰状及び賞金30万円を受賞者に贈呈した。

古事記出版大賞

受賞作品:「古事記(別冊太陽 日本のこころ194)」
受賞者:株式会社平凡社「別冊太陽」編集長 湯原公浩氏
奈良県立図書情報館館長 千田稔氏
株式会社平凡社「別冊太陽」編集部 野澤好子氏
編集長の湯原公浩氏、監修者の千田稔氏、編集者の野澤好子氏が登壇。荒井正吾奈良県知事より、表彰状、賞金50万円が授与された。

続いて、受賞者を代表し千田稔氏が受賞のコメントを述べた。
【要旨】
「古事記(別冊太陽 日本のこころ194)」は、豊富なビジュアルとともに古事記の基本的なことを網羅しようという編集者の意欲が上手く表現された点が評価をいただいた一番ではないかと思っています。また、古事記は歴史の書物をつくろうという天武天皇の構想をもとに誕生した歴史書であり、その神話には天武天皇が考えたストーリーが組み込まれているなど、純粋な神話とは一線を画す”歴史書の神話”であるとの問題提起をもとにしました。さらに、次代の歴史書として編集された日本書紀が完成する前に、天武天皇と関係のあった稗田阿礼、太安万侶が、日本書紀ができれば古事記は葬られてしまうという危機感の中で完成したということも一つの眼目としました。そして、古事記と日本書紀に収められている古代の二大神話の違いを見ることによって、また新しい歴史が浮かび上がってくるのではとの夢を今回の受賞で抱くこととなりました」

第2部 記念シンポジウム

記念シンポジウム

第2部は、古事記出版大賞の各賞受賞者である株式会社平凡社「別冊太陽」編集長の湯原公浩氏、脚本・作詞家の村上ナッツ氏、佛教大学教授の斎藤英喜氏、法政大学教授の坂本勝氏、宮崎市神話・観光ガイドボランティア協議会副会長の湯川英男氏をパネリストに迎え、「古事記の魅力~古事記が未来に伝えること」というテーマでシンポジウムが行われ、受賞作品に対する各氏の思いをはじめ、古事記という書物の魅力が伝えられた。

受賞作について

湯川 「私は神話の語り部ガイドをしています。宮崎は神話のふるさとであることを全国にアピールして宮崎に来ていただきたいという願いをこめてつくりました。そしてこの本はアイデア商品であると思っています。一つは、写真や絵とともに大きな文字とふり仮名つきの紙芝居風としたことで、読み聞かせにぴったりの本です。さらに古事記の神話701編をすべて七五調四行詞にして、子どもから大人まで読んでもおもしろい工夫を凝らしました」
坂本 「古事記を若い世代に伝えたいとの思いからこの本は生まれました。第一部では古事記のあらすじを現代語で記し、”ああ、古事記というのはこういう話なのか”とわかることを意図し、第二部では古事記のいくつかの話について”一体この話はどんな意味があるんだろうか”ということを、”自然と人間”をテーマに紹介してみました。現代、我々は豊かな文明の中で生活を謳歌していますが、”人と自然との関係”というところから古事記の神話の意味を私なりに読み解いてみたかったのです」
斎藤 「これまでの古事記に関する出版物の多くは、古事記そのものを理解しようという内容でしたが、この本の一番のポイントは、古事記が編纂されてからの1300年の歴史について具体的に解き明かそうということをテーマとしました。江戸期に本居宣長によって”古事記伝”が書かれてから古事記は有名になりますが、それ以前、それ以後の時代に、古事記をどういう人がどんなふうにして読んできたのかということを正面から取り上げた本になると思います」
村上
「一冊で古事記の全文を読み通すことができて、しかも誰にも親しんでいただける本をつくりたいという出版社の熱意から誕生しました。漫画で楽しみ、文章で味わい、脚注で、深く知って頂き、コラムで妄想をふくらませつつ、付録の古事記の縁の地ガイドで旅行もできるという、1冊で5回楽しめる、そして読み通せる本です」
湯原
「別冊太陽はムックという形態の本で、書籍でもあり、雑誌でもある。イメージたっぷりの写真と、わかりやすい解説というのがテーマです。今回の古事記では、漢文の原文を記載し、古事記は漢字だけで書かれていたんだということを伝えながら、読み下し文、現代解説を付けて奥深さを出してみました。写真ですが、どこにイメージを持っていくか、それが読者に理解してもらえるかがポイントですが、今回好評を得られたのは、その写真の裏側までも読んでいただけたのではと思います」

読書を通した古事記の楽しみ方

湯原 「偉そうに言いますと、太安万侶はある意味で私と同業の編集者だと思いますが、そういった視点でみると、太安万侶も上からの指示に従って、ここは必要でここはいらないというように、ある意図に沿って編纂されたと思います。そういう意味から、物語は一貫性のある内容になっているわけで、一つひとつの場面だけでなく、最後まで通して読んでこそ古事記の醍醐味を感じていただけるのではと思います」
村上
「私は3人の子を持つ母親ですが、子どもが小さい頃には近くの図書館にみんなで行って、一人5冊ずつ20冊を借りて帰って、夜は、子供が眠ってしまうまで、リクエストに応じて次々と本を読み続ける毎日でした。また、図書館のホールや中庭の読み聞かせの会に参加したりした体験が子供たちが本の世界に親しむきっかけになったと思います。古事記の世界を、子供たちの参加型のリーディング劇にしたり、朗読したり、身体を通して味わうことで、より身近に感じることができるのではないでしょうか。」
斎藤 「古事記の研究者として一番有名なのは江戸時代の本居宣長。そして意外と知られていないのが水戸黄門で、黄門さんは古事記の研究者なんです。宣長の研究の前提は黄門さんがつくっていて、その宣長の読み方は明治以降、チェンバレンという外国人が英訳し、それを読んだラフカディオ・ハーンは出雲の国に憧れて島根県に先生として赴任するわけです。古事記はリレーの如く時代を超えて受け継がれ1300年を迎えたわけで、そういうリレーの結果、今こういうふうに古事記が読まれているんだということを味わう楽しみ方があるなと思います」
坂本 「古事記は書物で、今は活字を通して読みますが、元々は声と共に伝えられていたはずで、古事記ができた時代には言葉は声と強く繋がっていた。だから、古事記の楽しみ方の一つの提案は、声に出して読むということです。漢字だけの原文はたぶんお手上げだと思うので、読み下し文が付いているもので、ゆっくり声に出して読む。”言葉は確実に声と共にあった”ということを感じていただきたい思います」
湯川 「私は神話の観光ガイドですが、同時に神話の語り部もやっています。ですから読書というよりは、声で伝える語りや読み聞かせに関心があります。そもそも古事記ができたころは稗田阿礼のような語り部がいました。語りや読み聞かせといった読み方で、全国で古事記のファンが増えてくれたらと思います」

古事記のゆかりの地での楽しみ方

湯川 「宮崎の阿波岐原町(あわきがはらちょう)にあるみそぎ池で観光に来た方に、私たちガイドは、ここでイザナギがみそぎをされたのですと話し、古事記の冒頭にある、イザナギがなぜここでみそぎをしたかの話をします。続いて神主さんが唱えられる祓詞(はらえことば)を、今お話した神話と重ね合わせてお聞きくださいとご紹介します。このようなガイドを実際のゆかりの場所でしますと、それまでのただの池は、急に厳かなみそぎ池に変身するわけです。こういうことが本当の縁の地での楽しみ方ではないでしょうか」
坂本 「日本各地に古事記ゆかりの地がありますが、中でも印象深いのは奈良の飛鳥です。今でも学生を連れてよく飛鳥に行きますが、何の知識もない学生は田んぼと畑と川と山しかない飛鳥に最初は呆然とします。しかし、そういうありのままの飛鳥の姿を、まずはそのまま見て感じることが一番だと思います。この地が1300年以上前、日本の政治や文化や社会の中心だということを想像しながら、心の中でその1300年前を復元し、思い描いてみるという楽しみ方もあると思います」
斎藤 「私の好きな古事記の縁の地といえばやはり奈良県で、稗田阿礼をお祀りしている賣太神社や太安万侶の多神社など、古事記にまつわる場所がたくさんあります。また出雲大社や日御碕神社、鰐淵寺などが集まる出雲や、少年の姿に変身したアマテラスを彷彿させる雨宝童子という神像を拝むことができる長谷寺、宣長のふるさとであるこの伊勢の松阪など、いずれも古事記の1300年間の歴史を実感できると思います」
村上 「私は小学校時代に愛媛県の松山で過ごし、道後温泉には毎日通っていました。道後ではオオクニヌシノミコトが、スクナヒコナノミコトをお湯につけると、病が治り石を踏んで立ち上がったという話が伝えられていて、松山ではその神様たちは今も愛されています。島根の益田市は今でも石見神楽が熱狂的に演じられていて、ここではスサノオノミコトのほうがウルトラマンよりもヒーローなんです。このように身近なところにも古事記ゆかりの地があるという発見をして楽しんでほしいと思います」
湯原 「日本のあちこちで御神楽というのをやっていまして、私はやはりその地に行って御神楽を見てほしいなと。誌面では高千穂の夜神楽を取り上げていますが、夜神楽は夜通し演っていて体力も必要で見ることが大変ですが、熱いお酒などを飲みながら夜神楽を見るというのは、神様と人間とが、今も、これからも、共生というか一緒にこの世界にいるということが実感できるような感じがします」

古事記への思い

斎藤 「古事記1300年の歴史を振り返る中でわかったことは、太安万侶と稗田阿礼がつくったという意味です。太安万侶は中国の文化に精通したグローバル感覚溢れる知識人。それに対し日本語の古い言葉、語りを伝えようというローカルな面を持っていた稗田阿礼。古事記は、グローバルとローカルの合体、言うなれば”グローカル”により生まれたのです。インドに発祥した中世のグローバルな思想である仏教を通して読んだ古事記や、西洋の知識を得た宣長が読み解いた古事記など、古事記は”グローカル”な視点で生まれ、読まれてきたことを知ることが重要であるとともに、次の1400年目に向けて、我われが次代にバトンタッチする重要な視点でもあると思います」
村上 「”夢の水路よ、開け”。これは私が太安万侶に習って今回賞をいただいた本の冒頭にメッセージとして書いた文章です。夢の水路とは、この1300年のさらに前からずっとつながる、そして未来につながる水路のことで、古事記という本を通して、人々は人間の力を超えるものと共存しながら、時には打ち負かされながらも、くじけず明るい心で立ち直り歴史を今につないでくれたという意味を感じていただければと思います」
坂本 「私が学生の頃から、古事記は天皇が国家を支配することの正統性を神話的に語ったもので、極めて政治的な意味合いが強いといわれていました。もし本当にそれだけの本だったら当然読んでおもしろいはずがないと読みはじめたところ、例えば出雲神話などは俄然おもしろい。古事記は、時代的には東アジアの辺境にあった大和が、中国を中心とした世界標準の文化と出会っていく中で、大和言葉を通して自分たちの歴史とは何なのかを考えた時代ですから、国家や政治の問題が強くあることは事実ですが、同時に、その背後に古代人の生活の歴史が流れこんでいますから、そういうところを読み起こすようにして、今後もこつこつ、だらだらと古事記をまじめに考えていきたいと。そういう仕事に関わる方が1人でも増えればと思っています」
湯原 「古事記を最初に読んだとき、神様がどんな顔をして、どんな形をしてとか、とても視覚的な想像力が働きました。おそらく作り手側も視覚的に想像しながらつくったのではないかなと。また、想像できないものがあると、それは古代人と現代人の想像力の違いで、おそらく現代人のほうが劣っているのではないかとも感じました。また、本書の企画中に東日本大震災が起きて自然の脅威を目の当たりにし、自分たちはどこから来たのか、いま生きている世界にも終わりがあるのかといったことを考えることとなり、古事記への思いが募りました」
湯川 「宮崎県のほとんどの観光地は神話縁の地です。古事記の上巻の神話は、本当は高天原神話、出雲神話、日向神話の3つがあり、宮崎県は日向神話の部分ですが、他にも高天原神話や天地創造、天孫降臨の舞台、ニニギとコノハナの西都原古墳群、海幸・山幸の物語ゆかりの青島、ウガヤ誕生の場所・鵜戸神宮、神武東征の際に議論したという宮崎神宮など、宮崎県は古事記=神話=観光地ということで、ぜひ宮崎にお越しいただき、古事記の魅力を堪能していただきたいとの思いです」