記紀・万葉講座

「絵で読み解く古事記(神代編)」

古事記を語る講演会 第8回 生駒市

2014年2月15日(土) 13時30分~15時00分
会場・生駒市図書会館 市民ホール
講師・漫画家 『ぼおるぺん古事記』著者 こうの 史代氏
演題・「絵で読み解く古事記(神代編)」

パンフレットにリンク


 

講演の内容

古事記はすでに小学生のときから読んでいたが、25歳ぐらいのとき、地元の図書館のリサイクル本であった岩波文庫の『古事記』に出会い、人生が変わった。古事記は擬音語が多く、その短い擬音語が様々な情景を表現しており、ぜひ漫画にしたい、手っ取り早く古文に親しむためには漫画はいい手段だと思った。中でも神代編はいつの時代の話なのか明確ではなく、神様の話なので、時代考証よりわかりやすさを優先できる。神様の名前は難しいが、水の神様を少し水商売風にするなど、視覚に訴えることでわかりやすくすることが可能である。


 

 

ボールペンは0.4~1.6ミリなど種類が豊富で、描くものによって使い分けている。こうして描くことで、新しい発見もあった。1つは古事記の世界観や空間の捉え方。例えば、黄泉国に行ったイザナギがイザナミに追い掛けられるシーンに出てくるブドウは鍾乳洞(怪しげな地下世界)に、根の国の根は雷(スサノオは雷神の説あり)に似ている。また、渦潮は海の道(渦の終わりは鏡のようになるため最後は海の道がふさがれる)に見えたのではないか。そう考えるとこの世の森羅万象、いろいろなものが古事記の世界に描き込まれていて、しかも異世界への入り口があちらこちらにあると人々は考えていたのではないかと思う。
2つ目はキャラクターの行動。漫画は時間のかかる作業のため、個々の神様が本当はどう思っていたのか、思い巡らすようになった。
ただ、古事記にはたくさんの登場人物(神様)がいるが、特定の誰かを悪く書いたり、特に誰かが優れていたというのではなく、例えば優秀さも1つの個性でしかないという捉え方、そういう気遣いがあるように思う。


 

古事記が誕生した頃は文字も筆もほとんどなかったが、今はボールペンで誰でも絵も文字も書くことができる。
そういう時代になったことを古事記に、稗田阿礼や太安万侶、古事記に関わった、また登場する神々の子孫の人々に、伝えたいという気持ちだ。結局のところ、作品を描くというのはその対象との対話だと思う。

 


【講師プロフィール】
こうの 史代(こうの・ふみよ)/漫画家
1968年9月、広島市生まれ。1995年『街角花だより』でデビュー。主な著作は『夕凪の街 桜の国』(文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞、手塚治虫文化賞新生賞)、『この世界の片隅に』(文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞)、『長い道』『さんさん録』『平凡倶楽部』など。また、2013年2月に完結した『ぼおるぺん古事記』(全3巻)が12万部を越えるベストセラーになっている。奈良県主催の平成25年度「古事記出版大賞」において「稗田阿礼賞」を受賞。
好きな言葉は「私はいつも真の栄誉をかくし持つ人間を書きたいと思っている」(ジッド)。

●関連情報
「平成25年度 古事記出版大賞」