記紀・万葉講座

「古事記 人と自然の命をつなぐ」

古事記を語る講演会 第7回 田原本町

2014年2月11日(火・祝) 13時30分~15時00分
会場・田原本町 町民ホール
講師・法政大学 教授 坂本 勝氏
演題・「古事記 人と自然の命をつなぐ」

パンフレットにリンク


 

講演の内容

日本書記には、辛酉の年の正月(太陽暦の2月11日)に、初代天皇である神武天皇が橿原宮で即位したと書かれている。日本人は中国人の新しい時間観念の影響を受け、ある時期から年を1年刻みで認識していこうとした。その手立てが十干十二支の採用であった。これに対して古事記は十干十二支が入ってくる以前の、月や日を観察しながら時間の経過を認識していた時代に書かれたものであり、文字がない声の言葉、語られていた言葉を多数残しているところにおもしろさがある。

古事記の中に、イザナキが死者の国の穢れを払うために禊をしたら、天照、月読、須佐之男の三貴子が誕生する場面がある。末っ子の須佐之男は、青々とした山がすっかり枯れるように、すさまじく泣きわめくので、イザナキから追放され、天照のいる高天原に昇ろうとしたとき、山川はとどろき大地は震えるため、そのけたたましい雰囲気を察知した天照は須佐之男が自分の国を奪いにきたと思う。その後、須佐之男が起こした事件が原因で天照が天の岩屋戸にこもるが、このストーリーのポイントは、須佐之男が荒々しい自然を象徴していることである。そして、高天原を追放された須佐之男は出雲の八俣遠呂智を退治。代を重ね5代目の子孫として誕生するのが大国主である。


 

 

大国主(元の名は大穴牟遅)は兄に執拗にいじめられ、それを案じた母の手引きで根の国に行く。そこで須勢理毘売(須佐之男の娘)に出会い恋に落ち、父である須佐之男は大穴牟遅を葦原の醜男(葦は勢いのある植物でその葦原と格闘した筋肉隆々の男の意味)と呼び、なぜか無理難題を押し付ける。

しかし須勢理毘売の助けもありなんとか乗り越え、最後は一緒に逃げ出す。その際に須佐之男が大国主と名付けたという。このストーリーはいじめられっ子が立派な大人になるために女性の力が大きく影響していることを物語っている。須勢理毘売は根の国の女性、いわば根源の土地の女性である。男も女も自然であり文化であるが、ある時代、男の方が文明や文化を引っ張らないといけない時代があった。自然と人間との関係が対立したとき、女性はもとの自然により近いところにいる。古事記はこういう考え方で神話の形を整えていったのだと思う。


 

 


【講師プロフィール】
坂本 勝(さかもと・まさる)/法政大学教授
神奈川県鎌倉市生まれ。法政大学文学部卒業。専修大学大学院を経て、現在法政大学教授。専攻は上代文学。
著書に『古事記の読み方』(岩波新書)、『図説地図とあらすじでわかる!古事記と日本書記』(監修、青春出版社)、「近江荒都歌」(『柿本人麻呂<全>』橋本達雄編、笠間書院)、『図説地図とあらすじでわかる万葉集』(監修、青春出版社)等がある。
『はじめての日本神話ー「古事記」を読みとく』(ちくまブリマー新書)は、奈良県主催の平成24年度「古事記出版大賞」において「しまね古代出雲賞」を受賞。

●関連情報
「平成24年度 古事記出版大賞」