ゆる系古事記クロストーク
「新しい古事記の楽しみ方」
古代を感じるトーク&ライブ 桜井市
2019年3月2日(土)13時00分~15時30分
会場・桜井市立図書館研修室1
<トーク>
出演・「古事記ゆる神さま100図鑑」松尾たいこ 氏
「まんが古事記」ふわこういちろう 氏
「ラノベ古事記」小野寺優 氏
タイトル・ゆる系古事記クロストーク「新しい古事記の楽しみ方」
<ライブ>
出演・小山茉美 氏
タイトル・「日本神話 イザナミ語り」
概要
<トーク>
─まずは、皆様に古事記との出会いをお話いただけますでしょうか。
ふわ「僕は、小学校の学芸会でヤマタノオロチをやったのがきっかけでした。その劇では、8人の子供でヤマタノオロチを演じたんですが、僕はその中のヤマタノオロチ4でした(笑)」
松尾「私のきっかけは、5~6年前に伊勢神宮と出雲大社のイラストガイドブックを作らせていただきましたが、その時、神社にはたくさんの古事記の神様と物語があることを知りました。それで古事記を読んでみたら面白かったので、私みたいに古事記を知らない人も知れば面白いと感じてくれるんじゃないかと思って古事記の神様をイラストにしたいと提案しました。」
小野寺「私は歴史が好きな友人から『えっ古事記を知らないの!?』っていわれたので、読んでみたんですが、とても面白くてそこから一気にのめり込みました。」
─皆様の本の読者層は若い世代の方が中心だと思うのですが、彼らは古事記のどんなところに魅力を感じていると思いますか。
小野寺「今はスマホのゲームにも古事記の神様がキャラクターとして登場するので、そこから検索して古事記を知る人も多いみたいです。」
ふわ「そして、最近は神社ブームやスピリチュアルブームで神社に御朱印をもらう人も増えてますね。」
小野寺「御朱印をもらうために長蛇の列が出来ていますね。」
ふわ「二十歳の頃、御朱印集めがマイブームだったんですが、昔は年配の方しか御朱印をしていなかったので、『若いのにえらいね』とよく言われました。」
松尾「今はホントに増えて、出雲に向う飛行機が全員女性のときがあって、さすが出雲縁結び空港だとビックリしました。」
─皆さんはイラスト図鑑、漫画、ライトノベルと様々なジャンルで古事記を表現されていますが、こだわりや苦労などはございましたか。
松尾「ふわさんが一番大変そう(笑)」
ふわ「こだわったところは、神様が登場する毎にこの神様を祀る神社を紹介しました。神話と現在が繋がっている感覚を表現したかったんです。」
松尾「今、私たちがいる現在は、古事記の物語と繋がっているんだっていう思いはみんな共通していると思います。私が普段描くイラストは、この古事記100図鑑とタッチが違うんです。でも、古事記の神様たちを描くときに、親しみのあるものにしたいと思って初めて三頭身のキャラクターにチャレンジしました。」
小野寺「古事記は、最初にどんどん神様が登場するところで挫けてしまう人が多いので、エンターテインメント性の高い楽しめる古事記があったらいいなと思ってラノベ古事記を書きました。一番最初に登場する天御中主神を「一番偉いのに誰も名前を覚えてくれない」っていう空気のような性格付けをして、神様たちのキャラクター設定にこだわって若い人たちにも興味を持ってもらえるように書きました。」
松尾「ふわさんや小野寺さんの本を改めて読むと同じ神様でも表現の仕方が違って面白いですね。」
─ここで皆さんの作品中の神様を見比べてみたいと思います。まずは天照大御神です。
ふわ「天照大御神は太陽の神様なので、実はおでこについている額飾りは岡本太郎さんの太陽の塔をモチーフにしています。」
小野寺「今、気付きました!」
松尾「私は一番メインの神様なので、優しさと強さを込めて丁寧に描きました。」
小野寺「三人とも太陽をモチーフにした飾りをつけてますね。私の天照大御神は高校生くらいの設定です。原作の古事記も天照大御神はわがままなイメージがあったので高飛車な感じで描きました。」
─もう一つ見てみましょう。大物主神です。
松尾「私の大物主神だけ人間じゃなくて大きな蛇ですが、そのまま描いたらグロテスクなので、柄は50年代POPな感じにしました。」
ふわ「僕の大物主神は宇宙人っぽくしたかったんです。一番早く神社に祀られた神様なので、宇宙人をイメージしました。」
小野寺「私の大物主神は2パターンありまして、出雲神話で登場する大物主神はオジさんですが、第10代崇神天皇の時代に登場する大物主神はイケメン風に登場していたので、テイストを変えてみました。どんな姿にも変身できるイメージです。」
ふわ「古事記の上巻と中巻をまたいで登場する神様は少ないですよね。」
─次は皆さんの好きな古事記の登場人物のイラストを見比べてみたいと思います。
ふわ「僕は猿田彦大神です。この神様は天照大御神の孫の邇邇芸命が天孫降臨する際に道案内を務めた神様です。伊勢神宮の内宮近くに猿田彦神社があるんですが、イラストレーターになるときに猿田彦大神は道開きの神様だから参拝した方がいいと勧められて行ってきました。そして今こうして、恙なくイラストレーターとしてやらせていただいております(笑)」
松尾「猿田彦大神は男らしいけど女性に惚れっぽいところもあって…。なので私の描いた猿田彦大神は勝新太郎さんの座頭市っぽいイメージになっちゃいました。」
小野寺「私の中の猿田彦大神と奥さんのアメノウズメノミコトは美女と野獣っていう感じが強いです。」
松尾「私は好きな神様は、そのアメノウズメノミコトです。芸能や習い事の神様で私の守護神だと勝手に思っている憧れの神様です。古事記では半裸になって踊ったと書いてありましたので、イラストでもそこは再現しています(笑)」
小野寺「どこまで描くか問題ですね(笑)私のイラストは隠れてますけど(笑)」
ふわ「このアメノウズメノミコトの踊りをみて神様は喜んでいたそうで。」
小野寺「しかも天照大御神が隠れたっていう大変な時に宴会を始めてますからね。私の好きな神様はマニアックで申し訳ないですが…天児屋命です。その宴会というか天岩戸のときに祝詞をあげた神様で、うちの氏神様が春日神社なんです。天児屋命は藤原氏のご先祖の神様で、私の小野寺姓はその藤原氏の末裔のようなんです。なので、こんなに縁のある神様がいたんだと思って好きになって、バリトンボイスで祝詞をあげそうなダンディーなキャラクターにしました。もう少し出番があるとよかったんですけど(笑)」
松尾「でも、私達が選んだ神様は全員、天孫降臨の時に揃って登場しますね。」
─皆さんは神社へのお参りはたくさんされていますか。
小野寺「昨日も宇陀市の八咫烏神社や神武天皇ゆかりの場所に行ってきました。」
松尾「私は仕事で行くことの方が多いのですが、その中で好きな神社を見つけて個人的に行くようになりました。」
ふわ「僕も仕事や旅行先でお参りに行くんですけど、その道中に調べても出てこなかった神社を見つけると嬉しくなって、ご祭神や鳥居の形を見たりしています。神社は全国に8万社以上あると言われていて、とても回り切れないですよね。」
松尾「昨日も本当は8社くらい行きたかったんですけど、結局4社しか行けませんでした。」
小野寺「スケジュールを詰めても、ずっとそこに居たくなって結局、回れなくなるんですよね。」
松尾「そうそう。神社って行くと長く居たくなりますね。」
─皆さんは、奈良県には何度かお越しいただいているとは思いますが、奈良県の印象などをお話しいただけますか。
ふわ「神宮という名前がついた神社は、奈良県には石上神宮、橿原神宮、吉野神宮と3つもあって一番多いんです。僕はその中でも橿原神宮が好きです。社殿自体は明治時代で新しいんですけど、初代神武天皇が祀られていて、日本はここから始まったんだっていう思いでグッっときます。」
松尾「私は、東日本大震災の余震が続いていた4月に奈良に行ったとき、地元の方達がとても心配してくださいました。そして教えていただいた桜の古木がある名所と檜原神社に行ったんですけど、その時にすごくホッとしたんです。私にとって奈良は心を癒して守ってくれた場所なので、このような形で呼んでいただいたことは、とてもありがたいと思います。」
小野寺「私がラノベ古事記を書き始めるときは、ゆる系といわれる古事記はまだ世間に認められていなかったので、まずは、古事記編纂を発案された天武天皇の御陵に「格式高い古事記をゆるくしてごめんなさい!」と言いに行ってきました。そして、その帰り道にたまたま、太安万侶のお墓に行き当たったりして、これは許してもらえたのかなと思って勇気がもらえました。」
ふわ「天武天皇がラノベ古事記を読んだら多分ビックリするでしょうね(笑)」
─他の先生方への質問などはございますか。
松尾「私はこういうイベントは始めてなんですが、古事記は楽しいものだと同じように思っている方達と出会えて嬉しいです。また会いたいなって思います。」
小野寺「私もそう思います。」
ふわ「じゃあ、明日もやりますか!(笑)」
─古事記や日本書紀がこれから百年、千年と読み続けられていくにはどんなことが大事だと思いますか。
ふわ「同じ古事記を基にしても、こんな風に三者三様の作品になるので、きっと他の作家さんの数だけ違った古事記が生まれます。本だけじゃなく映像や音楽などの方面から作品が出て盛り上がっていけば、もっと楽しくなるのかなと思います。」
松尾「今回、改めて思ったのは、私たちは古事記をライトに書いていますが、みんな古事記が大好きで、作品に対して愛情と尊敬を感じるんですね。だから、今後もその時代に合った作品が、リスペククトをもって書かれていくことが大切だと思います。」
小野寺「私は古事記が常識になって欲しいという思いが根本にあって、古事記って面白いんだって感じてもらえる作品がもっと増えたらいいなと思います。」
─最後にお客様に一言ずつメッセージをお願いします。
松尾「今日、古事記に詳しい方がたくさん来てくださったので、いつになく緊張したのですが、暖かく聞いてくださってありがとうございました。」
ふわ「日本人の全員が古事記を知っているようになればいいと思います。これからも古事記普及のために頑張っていきたいと思います。ありがとうございました。」
小野寺「今日のような古事記が結んでくれた縁を大切にして、これからも古事記が広まればいいなと思います。ありがとうございました。」
トークの後には、大神神社神職による雅楽器の演奏で、小山氏による朗読ライブ「日本神話 イザナミ語り」が行われました。
【プロフィール】
松尾たいこ
著書:古事記ゆる神様100図鑑(監修:戸矢学)
出版社名:講談社
アーティスト/イラストレーター。 広島県呉市生まれ。1995年、11年間勤めた地元の自動車会社を辞め32歳で上京。セツ・モードセミナーに入学、1998年からイラストレーターに転身。第16回ザ・チョイス年度賞、鈴木成一賞受賞。これまで250冊以上の本の表紙イラストを担当。2013年5月には初エッセイ『東京おとな日和』(幻冬舎)を出し、ファッションやインテリア、そのライフスタイル全般にファンが多い。イラストエッセイ『出雲IZUMOで幸せ結び』『伊勢ISEで幸せ開き』(ともに小学館)を発表するなど、神社にまつわる仕事も多い。
【プロフィール】
ふわこういちろう
著書:愛と涙と勇気の神様ものがたり まんが古事記(監修:戸矢学)
出版社名:講談社
1977年、愛知県生まれ。イラストレーター。地元の芸大卒業後、上京し就職。28歳の時フリーのイラストレーターに転身。雑誌・書籍・テレビなど幅広く活動中。携わった本は100冊以上。桜井進『わくわく数の世界の大冒険』シリーズ(日本図書センター)は累計20万部突破。毎日小学生新聞連載、宝塚歌劇団・宙組「パラダイスプリンス」キャラクター制作など。2015年秋発表、ウルトラマンのアートライン 「私のウルトラマン。」イラストを担当。
【プロフィール】
小野寺優
著書:ラノベ古事記 日本の神様とはじまりの物語
出版社名:KADOKAWA
7月12日生まれ、東京都在住のWEBデザイナー。古事記が好きすぎて、2014年10月に古事記を現代的に口語訳したサイト『古事記を現代語訳っていうかラノベ風にしてみた』を立ち上げたところ、「わかり易くて面白い」との口コミが広まり、月間約50万VP(※)の人気サイトに。現在はTwitterやFacebookなどで古事記の豆知識を配信中。※Googleアナリティクス 2017年1月データ
【プロフィール】
声優:小山茉美
声優・ナレーター。 愛知県西尾市出身。劇団シアター・ウィークエンド第一期生。現・青二プロダクション所属タレント。 NHK少年ドラマ「キヨコは泣くもんか」(1973年制作)で女優としてデビュー。ラジオ局アニメ誌などの声優人気投票では1982年から3年連続各社グランプリを獲得。いわゆる声優ブームを築いた一人。 現在番組ナレーターとしても活躍中。 「Dr.スランプ・アラレちゃん」アラレ役、「ニルスの不思議な旅」ニルス役、「魔法のプリンセス・ミンキーモモ」モモ役、「機動戦士ガンダム」キシリア・ザビ役、「キテレツ大百科」初代コロ助役、「ブラック・ラグーン」バラライカ役、「名探偵コナン」ベルモット役、「ワンピース」ビッグマム役など数多くのアニメや洋画の吹き替え、ドキュメンタリーや報道番組などのナレーターとして活躍。 平成27年(2015)、日本神話を語り継ぐための「イザナミプロジェクト」を立ち上げる。