キーワードで識る記紀・万葉

アクセサリー

1.黄泉からの脱出を助けた髪飾り

伊耶那岐命(いざなきのみこと)の妻の伊耶那美命(いざなみのみこと)は、火の神を生んだことが原因で死んでしまいました。妻を取り戻そうと、死の国・黄泉へ下った伊耶那岐命(いざなきのみこと)ですが、変わり果てた妻の姿に驚き、恐れおののいて逃げ帰ります。恥をかかされたと怒った伊耶那美命(いざなみのみこと)は、黄泉醜女(よもつしこめ・黄泉の国の醜い女)をつかわして夫を追いかけさせました。そこで、伊耶那岐命(いざなきのみこと)が追っ手に最初に投げつけたのが髪飾り髪飾りはブドウの実に変わり、黄泉醜女(よもつしこめ)を足止めします。

『古事記』上つ巻 「黄泉の国」より

2.海にまつわる神となった腕輪

黄泉の国から逃げ帰った伊耶那岐命(いざなきのみこと)は、穢れを払おうと禊(みそぎ、水で身を清めること)を行いました。そのとき衣類などとともに投げ捨てた腕輪が神になりました。左右の腕輪からそれぞれ三柱ずつ生まれたのは、水と海路に関わる神々とされています。

『古事記』上つ巻 「みそぎ」より

3.首飾りは統治者の証

伊耶那岐命(いざなきのみこと)の禊の最後に、天照大御神(あまてらすおおみかみ)、月読命(つくよみのみこと)、速須佐之男命(はやすさのおのみこと)の「三貴子」が生まれました。貴い神の誕生を喜んだ伊耶那岐命(いざなきのみこと)は、身につけていた首飾りを天照大御神(あまてらすおおみかみ)に授けました。これにより、高天原の統治者は天照大御神(あまてらすおおみかみ)へと引き継がれます。

『古事記』上つ巻 「三貴子の分治」より

4.正邪を占う天照大御神のアクセサリー

亡き母、(伊耶那美命(いざなみのみこと)とされる)を思い、悲しんでいた速須佐之男命(はやすさのおのみこと)は、姉の天照大御神(あまてらすおおみかみ)を訪れました。荒ぶる神と記される弟の「邪心はない」という言葉が本当かどうか判定するために、姉と弟はお互いの持ち物を取り替えて神を生む誓(うけ)いの儀式を行います。天照大御神(あまてらすおおみかみ)が速須佐之男命(はやすさのおのみこと)から受け取った十拳剣(とつかのつるぎ)からは女神が、速須佐之男命(はやすさのおのみこと)が受け取った天照大御神(あまてらすおおみかみ)の髪飾りや両腕の珠飾りからは男神が生まれました。速須佐之男命(はやすさのおのみこと)は、柔和な女神の誕生は誠実さの証だと主張しますが……。そして、舞台は天の石屋戸へと移っていきます。

『古事記』上つ巻 「うけい」より

5.運命の女性へと導いた玉飾り

火遠理命(ほおりのみこと、山幸彦・やまさちびこ)は、兄の火照命(ほでりのみこと、海幸彦・うみさちびこ)から借りた釣り針をなくしてしまい、海の底へと探しに出かけます。そこで、首にかけていた玉飾りをきっかけにして、海神の娘・豊玉毘売命(とよたまびめのみこと)と出会いました。火遠理命(ほおりのみこと)は、豊玉毘売命(とよたまびめのみこと)とその父の力を借りて、兄を従え、海と山の支配者になったと記されています。後に火遠理命(ほおりのみこと)と豊玉毘売命(とよたまびめのみこと)は夫婦になり、玉飾りがふたりを導いた物語となっています。

『古事記』上つ巻 「海神の国訪問」より

6.真心を伝える腕の玉の緒

伊久米伊理毘古伊佐知命(いくめいりびこいさちのみこと・垂仁天皇)の后、沙本毘売命(さほびめのみこと)は、反逆した兄と運命を共にしようと決意します。天皇が沙本毘古王(さほびこのみこ)の討伐を行った時、兄を思う情に引かれた沙本毘売命(さほびめのみこと)は、兄と一緒に立てこもります。沙本毘売命(さほびめのみこと)は、自分を救おうとする天皇の計画から逃れるため、腕に三重に巻いた玉の緒に細工します。わざと紐を腐らせておき、腕をつかまれてもちぎれるようにしたのです。こうして后は、天皇の真心に感謝しつつ、自ら命を絶ったといいます。

『古事記』中つ巻 「沙本毘古と沙本毘売」より

7.悲劇をもたらした死者の玉釧

大雀命(おおさざきのみこと・仁徳天皇)の弟、速総別王(はやぶさわけのみこ)と天皇の求愛をしりぞけて速総別王(はやぶさわけのみこ)の妻となった女鳥王(めどりのみこ)。天皇から謀反の罪で討伐を受け、ふたりは殺されました。大将の大楯連(おおたてのむらじ)は亡くなった女鳥王(めどりのみこ)の腕から玉釧(たまくしろ・腕輪)をこっそり抜き取り、妻に与えました。しかし、後に酒宴に妻が玉釧(たまくしろ・腕輪)をつけて出席したことから悪事が明らかになり、大楯連(おおたてのむらじ)はただちに処刑されたといいます。

『古事記』下つ巻 「速総別王と女鳥王」より