人生相談編/『古事記』に教わる「生き方相談」
「古事記」にはたくさんの神様や古代の天皇とその周辺の人々が登場します。神様なのに失敗したり、悩んだり、天皇一族なのに思い通りに行かなかったり…そこが「古事記」の魅力のひとつだという人もいるぐらいです。そこで、カウンセリング仕立てで、「古事記」のエピソードを紹介してみましょう。もしかしたら現代を生きる私達に役立つヒントも見つかるかもしれません。
- 私には弟がふたりいますが、そのうちのひとり須佐之男命がわがままで困っています。父が海を治めるよういってもきかず、長いヒゲがみぞおちのあたりまで届くほどの大人になっても泣きわめいて、山は枯れ、海川は涸れてしまったほどです。おまけに「お母さんがいる根の堅州国に行きたい」などとダダをこねます。もうひとりの弟の月読命は、いつもいるのかいないのかわから
ないほど、おとなしい弟なのですが…
[相談者・天照大御神さん]
- いつまでも子どものようなところがある弟さんには困りましたね。山を枯らし、海川を涸らしてしま
うほどの凄まじいパワーも使い方を間違うと大変です。これ以上乱暴を働くようなら、あなたはどこ
か安全な場所にこもるのもよいかもしれませんね。
あなたは光をつかさどる神様なので、世の中は真っ暗闇になってしまうでしょうが、この際、弟さん
にも周りのみなさんにも、あなたの力をしっかりわかってもらうのも手かもしれませんよ。
[回答者・思金神さん]
高天原をおさめる天照大御神のもとへ弟の須佐之男命がやってきたとき、須佐之男命は田の畔を荒らしたり、大嘗をなさる御殿に糞をまき散らしたり、散々なふるまいをします。
ついに服を織っている部屋の天井から、皮をはいだ馬を落とし入れ、驚いた服織女が死んでしまうという事件が起こります。それを見た天照大御神は弟の力を恐れ、天の石屋にこもってしまいました。高天原も葦原中国もすっかり暗くなり、あらゆる災いがすべて起こりました。こまった神々は相談をし、思金神に、天照大御神が天の石屋から出てくる方法を考えさせるのでした。
- ここのところ、父親から疎まれているような気がしてなりません。父の命じる通り、西へ東へという
ことを聞かない者たちと戦い、毎回智恵を絞って勝利しているのにも関わらずです。どうしたら父に
愛情をかけてもらえるでしょうか?
[相談者・倭建命さん]
- それはお気の毒ですね。それほど大活躍だとさぞかしお疲れでしょう。それなのにお父様は次から次
へと戦いを命じられるのですね。よく胸に手を当てて考えてみてください。あなたに何か心あたりは
ありませんか?また、お父様は、智恵もあり、力もあるあなたを疎んじるというより、自分にその力が
向けられたらどうしようと恐れていらっしゃるのかもしれませんよ。いまはお父様ばかりに目を向
けないで、私のようにあなたを応援している人のことも忘れず、どうぞ心を強く持って生きていって
ほしいと思います。いつでも私を頼ってください。
[回答者・倭比売命さん]
小碓命(のちの倭建命)は、父の景行天皇から、朝夕の食事を一緒
に取らない兄・大碓命を教えさとすように言われました。とこ
ろが、小碓命は兄を討ったばかりかその亡骸をこもに包んで投げ
捨ててしまったのです。それを聞いた天皇は我が子の猛々しく
荒々しい心を恐れ、西の熊曾建、出雲建を征伐し、さらには
東の十二の国の服従しない者どもの平定を次々に命じるのでし
た。倭建命は「天皇である父は、私なんか全く死んでしまえとお思
いになっていらっしゃるのです」と嘆き悲しみます。そんな倭建
命に、叔母である倭比売命は草なぎの剣と嚢を授け、励ますので
した。