インタビュー記事

2017.10.06

吉野材に包まれて過ごし心地良い時間に出会う、2つの場所

木材のまち、吉野町。灯台下暗しという言葉が表すように、総じて身近にあればその良さに気づかず過ごしがちだが、吉野町の人々は違う。吉野材の価値を知り、山や木に感謝して親しむことを、町民が自発的に行う。今回は、様々な取り組みを実践する注目のスポット、上市地区の“ゲストハウス『三奇楼』”と、三茶屋地区の“カフェがある図書スペース『木の子文庫』”を訪れた。

地元の良さに目を向け、古きを大切に新しきを創る移住体験スペース・ゲストハウス『三奇楼』

酒蔵のある通りや細い路地がノスタルジックな気分にさせる町「上市」。かつては、東西の交通路として重要視され、今はなき中の島(吉野川の中州)では木材の市が行われ、活気ある商店街に、映画館まであった。また、伊勢街道筋で宿場町としても栄えたところ。4階建て純和風建築の小粋な料亭旅館「三奇楼」が繁盛したのもその頃。木材を運搬する筏師や旅人が疲れを癒したという。

時は過ぎ、空き家となった三奇楼を譲り受けたのは、「上市まちづくりの会リターンズ」会長の南達人さん。「約10年間も空き家だった、この素晴らしい建物をなんとかしたかった」と話すが、実際何に使えば良いのか悩んだという。結論は、移住の体験もできるゲストハウス。三奇楼を拠点に、この町が元気になる、そんな場所にしたいという。

しかし、「三奇桜」は10年間ですっかり荒れ果てていた。瓦が割れ、雨漏りがあるなど、傷みの具合が激しく、さらには水道や電気などのかなりの改修が必要だったためと、1年間の修繕期間を余儀なくされたが、このとき、上市まちづくりの会リターンズのメンバーは、さまざまな夢を描いていたという。その一つが吉野材を使うこと。南さん曰く「吉野材を使う空き家改修のモデルになればという思いがあった」と話す。

まずは、「三奇楼」料亭時代の展望デッキを復活させた。吉野川を望む景色の素晴らしさと、オールシーズンこの町を楽しめる場所をつくろうと、メンバーはもちろん、奈良県立高等技術専門校や近畿大学の学生にも手伝ってもらったという。木材は吉野スギを使い、8m×8mのウッドデッキを完成させた。

そして、洗面所には明るさを強調するために、吉野スギの内側の赤い部分ではなく外側の白い部分を使用し、お風呂は壁に吉野ヒノキを使用し、ハーフユニットというスタイルに。南さん曰く「本当は、吉野ヒノキの浴槽も考えましたが、乾燥させるのに時間がかかりカビが発生することなどを考えると衛生面が心配でした。浴槽と洗い場ぐらいは洗剤で掃除できるようにし、壁に吉野ヒノキを使用しています」。手入れに手間がかかるが、水には強く、香りが良い吉野ヒノキの良いとこどりをしたのが今回のハーフユニットだった。

ほかにも、ダイニングとキッチンの床には吉野スギを使用しているが、ここでひとつ面白い現象があるという。南さん曰く「吉野スギを感じるダイニングでは、ゆったり食事をしたり、コーヒーを飲みながらだったり、時間を忘れて話をしてしまいます。応接間では会議や打ち合わせで使う方が多いのかも、これって居ごこちの良さの違いでしょうね(笑)」。

吉野材の良さを、身をもって感じる人々がいる空間。人に寄り添うように存在する吉野スギや吉野ヒノキは、そこにあるだけで安心感が生まれる空間となる。

INFORMATION

三奇楼

住所 〒639-3111
奈良県吉野郡吉野町上市207
電話 0746-39-9207
URL http://sankirou.com/

お母さん目線で見守るスタッフがいる温かい空間 木の優しさを感じる“図書スペース『木の子文庫』”

山々に囲まれた、宇陀方面から吉野町へ入る玄関口「三茶屋」。伊勢本街道に面した大きな駐車場の奥に、吉野材でつくられた看板が印象的な“図書スペース『木の子文庫』“がある。代表者は、3人の子どもを育て上げた、地元出身の上田由賀さん。いまから16年前、町内の育児サークルからはじまり、自分たちの地域に子ども達が本を楽しむための図書館が欲しいという思いを、さまざまな方々のサポートにより実現化していったという。

上田さんは「吉野町には、絵本や児童書をたくさん置いている図書館スペースがありませんでした。でも、東吉野で文庫をオープンされた方がいることを知り、無いのなら自分たちでつくればいいんだって思ったのがきっかけです」と話す。自ら勉強会を開催するなど行動を起こし、2つの書架と300冊の本からスタート。それから4度の引っ越しを経て現在の地へ。「以前は飲食店をしていた場所で、まずは掃除することから始まりました。私よりも手伝ってくれるお母さんたちや利用する方たちのニーズに合わせた空間づくりで、何より、この施設は吉野町の建物で、網代が組んであったり、大きな丸い柱があったり。とても良質の吉野材を使っていたので、それを活かしたいという思いがありました」と、上田さん。実家も嫁ぎ先も建具屋をされ、吉野材はとても身近な存在。若い時は、自ら間伐に行くなど個人的な活動もしたほど、吉野材には興味があったという。

はじまりは「子どもたちに本を」だったが、今では、吉野町のことを知ってほしいという思いも強く、店内には、吉野ヒノキを使った入って遊ぶ木のプールと木のボールや、吉野高校の生徒が手づくりする吉野スギの廃材を使った細長い形の積み木に、木のスプーンなど、さまざまな吉野材の遊び道具や小物が置かれている。

また、さをり織りの織機があり、スタッフや訪れた人が織り繋ぎ、カフェで使うコースターなどを織っているという。オープン2年目を迎えた今年は、4月に子どもたちと一緒にウッドデッキを完成させた。そして最近は、吉野町を探検して学ぶ「やまんびこ探検隊」を1ヶ月に1度開催。今夏は、貯木の町探検をテーマに、製材所や「吉野杉の家」などの見学をして、木材のまち「吉野町」を印象づける時間を過ごしたという。上田さんは「吉野町について知る本が少ないこともあり、この活動を一冊の本にまとめていきたい」と話す。

「手の届くところにあればいい」。上田さんは、「本にしても吉野材にしても、手の届くところにあるだけで、感じることができるだけでまずは良い」と話し、「人がそこにいなければ手に取れない。絵本は、お母さんが与えてくれなければ、子どもは出合うことができない。だから、本も吉野材も人が繋いでくれるものだ」と語る。本に出合い、吉野材と出合える木の空間は、いつ訪れても優しさに包まれている。

吉野スギや吉野ヒノキとともに育ち生きてきた人々が、身近にあるからこそ気づいた「吉野材の良さ」。2施設に行き触れるだけでも十分感じられる、吉野材による安らぎは、一度触れたらくせになるかもしれない。

INFORMATION

木の子文庫

住所 〒639-3321
奈良県吉野郡吉野町三茶屋328-1
電話 0746-39-9220
URL https://ja-jp.facebook.com/kinokobunko/

取材・文:土井淑子
写真:畑中勝如

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