レポート/インタビュー記事

2018.03.09

<rooms EXPERIENCE 36>に奈良の木ブースが登場。こだわりの技法で家具を生み出すブランド「市 ichi 」と「studio Jig」に吉野スギの魅力を訊く。

アッシュ・ペー・フランスが主催する日本最大級のファッションとデザインの合同展示会<rooms EXPERIENCE 36>が、2月21日(水)~23日(金)の3日間、五反田TOCビルで開催されました。

会場には日本全国からクリエイターが集結。モダンな入場ゲートをくぐると、広大な会場内に様々なジャンルのマーケット、木村祐一氏らによるアイディア満載のアート展、伝統工芸の実演、お笑いライブ、占いなど多彩なブースが用意され、会場を訪れた約2万人の来場者を迎えました。

伝統工芸品と吉野スギを使用した家具が集まる奈良県ブース

中には奈良県の様々な工芸品が集まったエリアも。ここでは「企画ディレクター」「職人」「デザイナー」の3つの視点で集められたアイテムが揃い、シルクロードの終着点として日本文化の原点となった奈良のものづくりの魅力を発信。

金物を一切使わない一刀彫のひな人形「奈良一刀彫 段雛(ならいっとうぼり だんびな)」や「奈良団扇 漆黒水仙(ならうちわ しっこくすいせん)」、「鉄彩磁 線紋酒器(てつさいじ せんもんしゅき)」など、歴史ある奈良の工芸品に来場者が見入っていました。「ろうけつ染めクラッチバッグ」など、ファッション性と実用性を兼ね備えたアイテムが人気を集めたのも、<rooms EXPERIENCE 36>ならではです。

奈良関連のブースの中で大きな注目を集めていたのが、こだわりの技法で吉野スギを使用した家具を製作する奈良県の下市木工舎「市 ichi 」と「studio Jig」です。広葉樹に比べて材質がやわらかいため、一般的には家具製作に向かないと言われてきた針葉樹を使って美しい家具を生み出す注目の2ブランドによる展示は、木のぬくもりが感じられる優しいブースの雰囲気や、まるでショールームのように実際の使用感を確かめられる展示方法も相まって、ひときわ来場者の目を引いていました。

  • 左側:「市 ichi 」の代表作「カフェチェア」。やわらかな曲線が優しい座り心地を実現。
    右側:「studio Jig」の座椅子「CJ2 Legless Chair」。現在も微細な変更が加えられています。

吉野スギの歴史や思いに触れて生まれた「市 ichi 」ならではの温もり

森幸太郎さんが働く下市木工舎「市 ichi 」は、吉野スギをはじめとする国産産の木材で、「鉋(カンナ)仕上げ」の家具を製作する家具工房。サンドペーパーを使用せず、木の表面を鉋で削ることで成形する鉋仕上げは、木をペーパーの摩擦で傷つけることがないため、吉野スギ本来の木目や艶やかさが最大限に生かされています。また、吉野スギならではのやわらかさと鉋による曲線が、腰への負担を軽減する優しい座り心地を実現しています。

  • 下市木工舎 「市 ichi」 :森幸太郎さん

「僕は兵庫県の三木市で修業をしていたのですが、そこで『吉野スギを使ったデスクを作ってほしい』と注文を受けたのが、吉野スギに触れたきっかけです。家具の世界で針葉樹を使うことは一般的ではないので、それまでは触れる機会がありませんでした。けれども実際に製作する中で、思った以上に魅力的なものが出来ると感じました。吉野スギはやわらかく、椅子にすると座り心地が優しいですし、綺麗な木目の木というのは他にはなかなかありません。また、吉野スギには歴史があり、何代にもわたって木を育てているため、関わっている方の思いが強い木でもあります。その思いに触れて、僕自身も木への接し方が変わりました。吉野の方々は木が身近にある生活をしているので、みなさん木に対する目が肥えているんですよ。」

時に和やかな笑いも交えながらフレンドリーに語る森さんですが、家具製作については、職人ならではの大切なこだわりも。

「吉野スギならではの綺麗な木目を生かしたものや、その木ならではの良さを生かしたものにしたいと考えています。たとえば、人に触れる座面や背中にはやわらかいスギを使って、逆に足など強度が必要な部分にはより硬い欅を使うなど、場所によって使う木材も工夫しています。また、うちの特徴は仕上げで鉋を使うことですね。そうすることで、年数を重ねたときに艶がより感じられるものになりますし、鉋を使えば木のやわらかい部分も硬い部分も凹凸なく削ることができるので、家具の手触りがとてもナチュラルになります。今回の<rooms EXPERIENCE 36>でも興味を持ってくれる方が多く、反応はとてもいいです。他県の方々と交流できるのも面白い機会になっています。」

  • 森さんが実際に使用する鉋。大小それぞれの鉋を製品や削る箇所によって使い分けます。
  • 「市 ichi」の椅子は、鉋仕上げ特有の曲線美を生かしたものになっている。

アイルランドの特殊技術と吉野スギの相性の良さから生まれた「studio Jig」

一方、平井健太さんが奈良県川上村に立ち上げた「studio Jig」は、アイルランドのアーティストの元で修業して培った曲げ木技術「Free form Lamination(フリーフォームラミネーション)」を吉野スギの家具製作に応用。しなやかな弾力を持つ吉野スギの薄い単板をミルフィーユ状に何枚も重ね、型を使用しない製法を取ることで、既存の家具デザインの概念を覆す、美しい曲線美を持った自由度の高いデザインを実現しています。平井さんもまた、森さんと同様に、吉野スギに魅力を感じて奈良県に移り住んできたクリエイターのひとりでした。

  • studio Jig:平井健太さん

「僕ももともとは広葉樹で家具を製作していて、アイルランドで特殊な技術を身に着けました。その技法と吉野スギの相性の良さを見つけたのが、奈良県で家具を作りはじめたきっかけです。この出会いは偶然によるところも大きかったのですが、僕は当時から、針葉樹の使い道が少ないことに対する問題意識も持っていたので、そうしたことが合わさって吉野スギを使った家具を作るようになりました。奈良に住んで思うのは、材料を作っている方たちが身近にいることの利点ですね。お互いに足りないものを補い合える部分も多いと思います。もちろん、木の生産者のみなさんはこだわりが強い方々なので簡単なことだけではないですが、だからこそいい関係を築けているようにも感じています。」

平井さんには、非常にモダンなデザインの座椅子、「CJ2 Legless Chair」の制作秘話についてもお話をうかがいました。

「僕の場合は曲げ木の技術を使うのですが、『CJ2 Legless Chair』では1.5mmの薄い板を何層にも重ねて、それを型を使わずに曲げることで成形していきます。これはアイルランドのジョセフ・ウォルシュが考え出した製法、造船などには古くから使われていた技法を応用したものですが、それを木に転用したのはジョセフが初めてでした。『CJ2 Legless Chair』はその技術を吉野スギでの家具製作に使用したものですね。今回の<rooms EXPERIENCE 36>は、他県や地域の特色が分かるのも面白いですね。また、今回の展示を通して、『あのときに見たあのイスを、このシチュエーションで使いたい』など、来てくれた方の生活の中に合うシチュエーションを見つけていただいて、それが吉野スギの魅力が伝わるきっかけにも繋がれば嬉しいです。その結果、針葉樹で家具を作ることがより一般的になっていけば、僕らとしてはとても嬉しいことだと思っています。」

  • 曲げ木の技術は「CJ4 Bench」や手軽で使いやすいスツールなど、studio Jigの様々なラインナップで用いられています。
  • 吉野スギの薄い板を15枚重ね合わせた美しい曲線のフレーム。

500年の歴史を持つ吉野スギを使用し、それぞれの方法でその美しさと機能性を引き出していくお二人の家具には、古くから伝わる伝統と、職人の創意工夫による最新の技術やアイディアが高い次元でひとつになっています。そして今回の<rooms EXPERIENCE 36>は、来場者がその魅力について、作家のお二人から話を聞くことができる、貴重な機会にもなっていました。

奈良の木ブランド課が伝える、奈良の木の魅力

奈良の木ブースでは、吉野スギの魅力を伝えるDVDの放映や、「やたがらす」、「花巴(はなともえ)」、「猩々(しょうじょう)」といった奈良県吉野の地酒3銘柄の試飲、酒樽や枡なども展示。奈良の木ブランド課による「奈良の木のこと」リーフレットの配布なども行なわれ、来場者が様々な角度から奈良の魅力に触れている様子が印象的でした。

ファッションとデザインの合同展示会<rooms EXPERIENCE 36>では、全国各地から集まった様々な職人やクリエイターの作品とともに、既成概念にとらわれない作家が生み出す家具を通じて“吉野スギの新たな可能性”を感じることができたのではないでしょうか。

取材 ・ 文 : 杉山仁
写真 : 大石隼土
編集:「奈良の木のこと」編集部

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