レポート記事

2019.02.20

プリツカー賞受賞の「RCRアーキテクツ展」が開催中、スペインへ渡る日本文化

「RCRアーキテクツ」という名前を聞いたことがあるでしょうか。1988年にラファエル・アランダ氏、カルマ・ピジェム氏、ラモン・ヴィラルタ氏が、バルセロナから150kmほど離れた、彼らの故郷、スペイン・カタルーニャ地方オロットに設立した、建築スタジオです。2017年には、「建築と敷地の関係、素材の選択、幾何学を駆使して自然環境を生かしながら、建築にまとめ上げている」と評価され、建築界のノーベル賞とも称される「プリツカー賞」を受賞しました。

いま世界中で注目を集めている「RCRアーキテクツ」が、現在、東京・乃木坂の「TOTOギャラリー・間」で展覧会<RCRアーキテクツ展 夢のジオグラフィー>を開催しているのです。

展覧会の一般公開前日に行われたレセプションには、ピジェム氏、ヴィラルタ氏が来日しました。

RCRが想い描く“夢“の一大プロジェクト

この展覧会では「RCRアーキテクツ」(以下、RCR)が、スペインのカタルーニャ地方で進行している「ラ・ヴィラ」プロジェクトを紹介しています。「ラ・ヴィラ」は「夢」をテーマに、人々が集い、自然を体感し、「開かれた研究の場(ラボラトリー)」が作られることを標榜し、「森林と水の流れ、そして記憶の住まう土地(ジオグラフィー)」に、研究施設や工房、宿泊施設、パビリオンなどを配する一大プロジェクト。その広大な敷地は、140万平方メートル(東京ドーム30個分)にも及ぶのだとか。

その「ラ・ヴィラ」プロジェクトのひとつが、「紙のパビリオン」です。「紙のパビリオン」は、奈良県吉野町の人々の協力で吉野の木材を使用したもので、今回の展覧会では「紙のパビリオン」の構造体の一部を展示するほか、RCRが吉野町の山林や製材所をめぐる旅や、オロットではオフィスの様子やラ・ヴィラの森などをとらえた、ドキュメンタリー映像も紹介しています。

ラ・ヴィラを彩るRCR作品の数々

会場に入り、まず目をひいたのが、吉野で漉いた和紙に、水彩で描かれた「ラ・ヴィラ」の全体図でした。まるで抽象画のように詩情たっぷりに描かれた全体図の上には、いくつものスケッチが飾られています。

そして、その全体図を囲むように、「トゥッソル・バジル陸上競技場」(スペイン・オロット、1991〜2012年)、「ラ・リラ・シアター・パブリック・スペース」 (スペイン・リポイ、2011年)など、RCRの6つの代表作品の模型や映像が展示されていました。

国境を越え魅せられる、吉野スギと職人の技術

今回の展示のハイライトともいえるのが、「ラ・ヴィラ」で最初に建てられる建物であるという「紙のパビリオン」です。素材には、吉野スギのほか、吉野スギを使った和紙を使用。屋外には、吉野の大工・桝谷貴仁氏が加工を担った、パビリオンの構造体の一部を展示しています。屋外に展示された構造体からは、吉野スギの心地いい香りがほんのりと漂っていました。

桝谷氏にお話を伺いました。

「これまで経験したことのないデザインに触れることができ、刺激的でした。今回のプロジェクトに参加できたことをうれしく思います。」

また、今回使用した吉野スギについては、「なかなか触れることのできない、人によっては一生触ることもないようなすばらしい木。大工冥利につきます」とコメント。「年輪がとても細かく、また油分も多くツヤもあります。実際に木材に触れてみて、江戸時代から今まで、無傷で育っているというのはすごいことだなと改めて感じました。」

なお、この構造体の一部は単なる模型ではなく、展示終了後、「ラ・ヴィラ」の建物の一部として使用されるそうです。

和紙に描かれた吉野の木々たち

4階の展示スペースでは、RCRの自然観を表したインスタレーション「書かれた、そして描かれた風景」を展示しています。見る人によって印象は異なりますが、天井から吊るされた吉野の手漉き和紙はまるで森のようにも思えました。窓から差し込む光や風を受け、刻一刻と表情を変えます。和紙を通した光は暖かく柔らかく、まるで意思を持っているかのように雄弁です。実際の「紙のパビリオン」でも、ガラスの間に和紙を挟んで、屋根や壁に利用するのだそうです。

「吉野の森での体験を再現した」(ピジェム氏)というこのインスタレーションには、「私たちは自然の一部」というRCRのフィロソフィーそのものも体現されているといっていいでしょう。来日中に行われた講演会で、ピジェム氏は、吉野町とのプロジェクトはビジネス的な契約ではなく、「そこにあるものや吉野町の人々とコミュニティとして繋がっている」と語っていました。

その奥では、RCRが2017年に吉野を訪れた時の映像「吉野の森、ラ・ヴィラの森」の映像が流されています。バルセロナを拠点に、建築写真家として活動する鈴木久雄氏が手がけた映像は、RCRの作品とリンクするように、吉野の自然と寄り添い、そして、神々しいものでした。

世界中の人たちが学び、大切にしていきたい文化

レセプションの合間に、ヴィラルタ氏に話を聞くことができました。吉野の森の印象を尋ねると、彼は「吉野の森は、私たちに日本の木造建築の文化を示す存在です」と即答。そして、こう続けました。

「奈良県吉野町を訪れ、吉野の仏像も、和紙のような儚いものも、同じ木からできていることに、感銘を受けました。世界中の人たちが学び、大切にしていきたい文化です。森はさまざまな生命が助け合い存在している複合体であり、私たちの創造の源です。この『紙のパビリオン』には、苗木を植えておき、大きくなったら植樹をするというコンセプトがあり、この小さなパビリオンが、世界中の人々が森や木の大切さに気付くきっかけになる、そんなシンボリックな存在になればうれしいですね」

そんな話を聞きながら、彼らの夢のジオグラフィー「ラ・ヴィラ」の森で、まるでずっと前からそこにあるように、心地良さそうに存在している「紙のパビリオン」の映像が脳裏に浮かぶようでした。

  • © Hisao Suzuki

“今の東京に必要なこと”を感じる特別な空間

レセプション後、昨年11月に<奈良の木見学ツアー>にも参加した、ブランディングディレクターの行方ひさこ氏に、今回の個展の感想をお聞きしました。

「RCRのお二人がおっしゃっていた、『建築を通して夢を実現する』『建築は人と人との関係を濃密にさせていくもの』『自然と戯れるような建築を作りたい』という言葉が印象的でした。その視点で改めて彼らの建築物を見ると、全然異なる印象になります。また、『風景を最大限にいかすものが建築』とおっしゃっていましたが、作品はもちろん、彼らの空気感にもそれが表われているような気がして。今回、来日したお二人が大切にしているもの、人となりが伝わってきます。チャーミングで、ナチュラルな感じが、ジェーン・バーキンを彷彿させます(笑)。大都市ではなく、地元の田舎で事務所を構えたのは、彼らの意思表示なんでしょうね」

行方さんは、彼らの佇まい、作品が作り出す空気は、 「今の東京にものすごく必要なことだ」と感じたと言います。

「『昆布のように揺れる(4階に展示されていた)吉野の手漉き和紙には、どこか懐かしい気持ちになりました。難しいことを考えずに、彼らが言うようにふらっと“感じに”来ていただきたいですね。吉野の森やRCRの雰囲気が伝わる映像もおすすめです。」


RCRのポリシーは、「私たちにとって人生とは夢であり、建築とは夢を見るための道具である。私たちは夢と建築を通して、真に重要な現実を創造することができる。そのような夢を通して、私たちは人生をたどっていく」こと。その夢に、吉野の木材がどのように活かされていくのか──。心を躍らせながら、今後の活動を見守っていきましょう。

INFORMATION

RCRアーキテクツ展 夢のジオグラフィー

開催期間 ~2019年3月24日(日)
会場 TOTOギャラリー・間
(東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F)
開館 11:00~18:00 入場無料
(月曜・祝日休館)
会場 TOTOギャラリー・間
(東京都港区南青山1-24-3 TOTO乃木坂ビル3F)
詳細はこちら https://jp.toto.com/gallerma/ex190124/index.htm

取材・文:長谷川あや
写真:大石隼土

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