インタビュー記事

2019.05.17

小さなことから始める木育。家具・雑貨の専門店「キシル」が思うこと

皆さんは、木育という言葉をご存知でしょうか? それは、木についての様々な体験や教育を通して、森林や環境問題に対する確かな理解の基礎を育む、森林を守り育てる意識の醸成を意味する言葉です。近年の森林事業において、この木育に対する取り組みは重要性を増しています。

ただ、木育とはどのような取り組みが行われているのか、具体的なイメージが沸かないという人も少なくないでしょう。そこで、今回話をうかがったのは株式会社キシル吉祥寺(きちじょうじ)店の店長・岡本さん。

日本の木にこだわった製造販売を行う家具・雑貨の専門店である『キシル』は、木の学びをテーマにした子ども向けワークショップの開催やあまり木を使ったおもちゃプロジェクトでウッドデザイン賞を受賞するなど、木育の最前線で様々な試みを行っています。日本の木にこだわる理由、木育に対する考え方や実際の取り組みについて、内装から柔らかな杉の匂いが香る吉祥寺店内で話をうかがいました。

インタビュー:キシル吉祥寺店 店長 岡本朝樹(おかもと あさき)

――キシルは「にほんの木を、大切にします。」というコンセプトのもと、日本の木にこだわった家具や学習机を展開しています。まずは会社の設立背景について教えてください。

当社の社長はもともと家具が好きで、キシルをスタートさせる前に家具について色々と勉強していたんですね。日本でどのような家具を作ればお客さまに喜んでもらえるのかを考えてリサーチする中で、とある場所でスギの机に出会って「なんか良いな」と感じたそうなんです。スペックや論理的な思考ではなく、五感で木の良さを体感したということですよね。その後、さらにリサーチを進めていく中で、日本の木や山を取り巻く環境について学んでいきました。輸入材を使った家具が増えていることでスギやヒノキが余ってしまい、使われなくなることで山が荒れてしまっている状況を知り、それならば日本のスギとヒノキを使って何か作れないか、という考えからキシルを立ち上げたんです。

――日本の木のことを知ってもらう「木育」について、キシルがもっとも大事にしていることは何ですか?

キシルという社名は、古代ギリシャ語で「木」を意味する-XYL-から付けられたのですが、「木を知る」という意味も込められています。そこにはもちろん、日本の木を取り巻く状況への問題意識も含まれてはいます。ただ、お客さまからすると、いきなり難しいことを言われても腰が引けてしまうだけだと思うんですね。当社の社長がスギの机の良さを直感で感じたのと同じように、まずは木の良さを感じてもらうことが何よりも大事なんです。実際に店頭で触っていただいて、手触りの気持ち良さを実感してもらったり、木の良い香りをかいでもらったり。五感を使って木の魅力を感じてもらうことが、「木育」のはじめの一歩として何よりも大事なことだと思います。

――キシル吉祥寺店は、家具店初の「FSC部分プロジェクト認証」を取得されていたり、ウッドデザイン賞の受賞歴があったりと、内装にもこだわりが感じられます。店舗デザインについてのコンセプトを教えてください。

特に都会では木や自然に触れる機会が少ないので、賑やかな街の中で山とのつながりを感じられるような空間を演出しています。FSC100%の天竜杉を使用して、アーチを印象的に配置することで、木のお腹の中に入ったような安らぎを感じてもらえるようにデザインしました。スギやヒノキについてのイメージをお客さまに聞くと、どうしてもヒノキ風呂とか、和のイメージが強いんですよね。今の住宅環境は和室が多いわけではないですし、スギやヒノキの家具とだけ聞くと、洋風の部屋に合わないと思われてしまうかもしれません。そういったイメージを払拭したいという思いもあり、なるべくキャッチーで目を惹かれる内装にしています。

※FSC部分プロジェクト認証…森林管理の適正性を国際基準で審査し認証するもの。

――客層はお子さま連れの家族が多いのですか?

もちろんお子さま連れのお客さまも多いですが、吉祥寺という土地柄もあって、インテリアに惹かれてふらっと立ち寄られるお客さまも少なくありません。そういったお客さまの中には、無垢材がどうとか、木の節がどうとか、そういった木についての知識が全くない方も多いですから、一から木について知ってもらえる機会もありますね。社名にもあるように、店舗に立ち寄ってもらえれば何か一つでも「木を知る」ことができるようなお店になっていると思います。

――キシルの看板商品は、子どもが使う学習机ですが、学習机を看板商品としている理由は何ですか?

「五感で魅力を感じられる」という木の特性を一番素直に感じてもらえるのは、やはり子どもたちだと思うんです。また、木の家具は時が経つにつれて色合いが変わっていく経年変化がありますから、お子さんの成長と共に家具も育っていくことができます。当社の家具が極力シンプルなデザインなのは、木の魅力を率直に感じてもらいたいのと、使う人それぞれの個性が出やすいようにという理由があります。丁寧に使ってもらいたいというよりは、その子に合った形に自由にカスタマイズしてもらって、最終的には世界に一つだけの個性を持った机にしてもらえたらいいですね。また、学習机を買われたお子さんの今の文字をレーザーで焼き付けて時計にする「じぶん時計」というサービスも実施しているのですが、それも「思い出」と「時間」がテーマになっています。

――子どもたちに木を身近に感じてもらうための取り組みとしては、定期的に開催しているワークショップがあります。「あまり木」を使ったワークショップはどのように始まったのですか?

最初に当社がワークショップを始めたのは2011年頃です。当初の目的は家具を作る時に出てしまう「あまり木」を何とか使えないか、ということでした。家具を作るときに余ってしまう木材を捨ててしまうのはもったいない。せっかく60年もの長い時間をかけて育った木なのだから、砕いて再利用するのではなく、そのまま使えたらという思いがあって、「あまり木」を使ったワークショップをスタートさせました。

――ワークショップは、どういった形で開催されているのですか?

3歳~5歳くらいの子どもたちを主な対象として、ヘアゴム、ペンダント、箸といった小物づくりを店舗で体験してもらっています。毎回、木目について知ってもらおうとか、木を削った時の香りを感じてもらおうといったテーマを決めて開催しているのですが、中にはこちらから教えなくても「これとこれ、木目が違うね」などと気づいてくれる子もいます。例えば、ペンダントをつくる場合は、針葉樹と広葉樹を模して角ばったものと丸みを帯びたものにするなど、デザインの中に少し知識を入れることもありますが、基本的には子どもたちに楽しんでもらうのが一番ですね。

――木育というと難しいイメージになってしまいますが、身近な「楽しい」から始めることが木について知る一番の良いきっかけになる、ということですね。

木と仲良くなるきっかけ作りの一環として、キシルではワークショップを行っていますが、木を知るきっかけはモノ作りじゃなくても構わないと思うんです。例えば公園に行って松ぼっくりを見つけたり、どんぐりを拾ったり、そういったところから始めるのも良いですよね。私はキシルに入る前、幼稚園で働いていたんですが、同じ松ぼっくりでも晴れの日と雨の日で大きさが違うことに気付く子どもがいたりして。松ぼっくりは水に触れるとしぼむんだということを発見して、疑問を持つことが知識の獲得に繋がっていく。木について知るためのきっかけは日常の中にたくさん潜んでいますから、それをどのように刺激してあげられるのかがいちばん大事だと思います。

――最後に、にほんの木の未来に期待することを教えてください。

すぐに大きく何かが変わるというのはなかなか難しいのかもしれませんが、一人ひとりの消費者の意識が少しずつでも変わっていけばいいとは思います。とにかく安ければ安い方がいいというような感覚だったからこそ、輸入材の製品が増えて日本の木が余って、森が荒れてしまうという今の状況になってしまっている部分もあると思うんです。でも、モノ作りを自分でも経験してみて、大変さが分かるようになれば、その分愛着がわいたり、長く使えるという事が分かってくるはず。モノを買うときに生産者の背景や込められた思いを意識するようになってもらえれば、そこから一つひとつの小さな行動が森の状況の改善にもつながっていくんじゃないかなと思いますね。

INFORMATION

キシル吉祥寺店

住所 〒180-0001
東京都武蔵野市吉祥寺北町1-11-1 1F
営業時間 11:00~19:00
(定休日:毎週 火・水曜日)
HP http://www.xyl.jp/html/shop_kichijoji.html

取材・文 : 青山晃大
写真:大石隼土

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