インタビュー記事

2017.09.27

上質な高級木材・日本三大人工美林という理由だけで売れる時代は過ぎ去った。吉野林業の中心地として知られる川上村の挑戦「川上さぷり」が目指すこと。

奈良県の南東部に位置し、吉野川(紀の川)の源流がある「川上村」。日本三大人工美林のひとつ、吉野スギの主産地として知られる。その歴史は、明治期の吉野林業技術書『吉野林業全書』に記されるとおり室町時代から始まり、大阪城や伏見城の築城にも吉野材が使われたという。伝統ある吉野林業は、平成10(1998)年の台風7号により大きな被害を受け低迷するが、現在は、活性化を目指してさまざまな団体が活発な動きをみせる。

そのひとつが「川上さぷり」。所有者に代わり森林の管理をする「山守(やまもり)」15名により、平成12(2000)年に設立された川上産吉野材販売促進協同組合(通称:川上さぷり)は、変化する住宅産業のニーズに応えることを考え、工務店やハウスメーカーの声に耳を傾け、少しずつ成功に結びつけている。代表理事を務める上嶌さんは「時代が変わったことを受け入れることから始まった」と話します。

インタビュー:上嶌逸平氏(川上さぷり 代表理事)

――長い歴史がある吉野林業。「川上さぷり」が発足した理由を教えてください。

川上村で一番古い木は、推定樹齢400年。一般的に山単位で考えるので、ひと山すべて400年間守り育てている木々があるわけです。100年単位で話をしていますが、一人の人間よりも長く生きることになるでしょ。100年なら、大体3代続けて山を守るということになるので、400年になれば単純計算して12人が管理してきたことになります。歴史を感じますし、先人の知恵があり賢い人間が居たから、これだけ長い間林業地帯として残ったのだと思います。

時代は変わりました。気候風土、木を育てるための肥沃な地力など吉野の山そのものは変わりませんが、木を必要とする人の生活が変わりました。今までどおり山から木を切り出すだけではお金になりません。海外から安い木材も買えるし、強度や品質が安定している集成材もあります。また、木以外を使う鉄筋住宅などもありますから、素材の幅が広がったことで、吉野材の需要は減る一方。

今までは、吉野の木を市場に持って行って売るだけで、ご飯を食べていけたけれど食べられなくなる時代が来る。目線を変えて真剣に考えないといけませんし、なんとかしなければという思いから、地域の製材業の人と一緒に加工し、製品販売をしてみては?と考えるようになりました。そこで、立ち上げたのが「川上さぷり」です。

侍の語源を知っていますか?仕える人の横に控え、いざという時に働く「さぶらう者」が語源。川上村の山守が「さぶらう者」となり、本物の吉野材を適正価格で工務店やハウスメーカーに「サプライ(供給)」するというのがネーミングの由来です。

――人の手をかけて時間をかけて育てられている天然木の吉野材。その魅力は、どこにありますか?

ツヤがあり美しく強い木材。細かくいえばいろいろあります。節が無い、年輪の幅が狭く均一でまん丸なものが多く木目が美しい。ずっと同じ太さで真っ直ぐ。他に、香りも良さのひとつですね。何より経年の変化が違うのが一番でしょうか。木材は使う前の、建材として開封した時は綺麗ですが、使うほどに汚れたり劣化したりしていきます。でも、密集して植え間引きする独自の育成方法により育つ樹齢が古い吉野材は、年数が経てば経つほど深みを増すといいますか、ツヤとともに味がでてきます。

吉野は、吉野でいい。今までの吉野の伝統は残すべきですが、時代のニーズに合わせていかないと。今までは、それこそ間引きした間伐材を、薪として、また日用品のための木材として売ったり、足場丸太にしたりなど活用方法がありました。だから樹齢が100年以上の木を建材として販売するやり方でも生きていけましたけど、今は違いますから。吉野の伝統や木材の良さをわかっていただくためにも、最終ユーザーとなる住む人々へ私たちの声が届くように、さまざまなアプローチをしています。そのひとつが装飾材。例えば、家の中で見えるところの柱は美しいほうがいいですよね。フローリングとか、天井板とか、すべてを木造にする家は少なくても、家の中のどこかに木を使いたい思いのある方はたくさんいらっしゃいます。そのあたりは、日本人なのでしょうね。また、吉野スギの置き床パネル家具なども制作しています。日本は木の文化があり、木の需要はゼロにはならない。

「川上さぷり」は、工務店やハウスメーカーがすぐに使いやすいように二次加工し、家屋1棟分の吉野材を用意して販売できるようにしています。奈良県内では、こんなことをしたところはなかったと思います。私たちが手塩にかけた良質の木材ですから、やっぱり吉野スギや吉野ヒノキを使っていただきたいんですよ。

――天然木の吉野材は無垢材。呼吸をして生きていますから扱いも難しいと聞きます。

天然木は、美しいだけでなく、断熱効果が高く、夏は涼しく冬は暖かいのが特徴です。また、例えば雨の日ならムシムシとした湿気を吸収し、晴れたら湿気を放出することで、天然木が自然に室内の湿度を調整しています。そのメリットがあることで、木と木の間に隙間ができるデメリットもありますが、その欠点を上手にカバーしてきたのが大工さんの技術で、実力です。時間をかけて木を見て、どのように反るのか、だったらこう使おうとか、目利きの良し悪しがでます。でも、吉野林業もそうですが大工も後継者不足でしょ。なかなか天然木を上手に扱える人がいないことは、吉野にとって深刻な問題なんです。どれだけ良い素材を出しても料理人が下手だったら駄目だよって。そう考えれば、吉野材を知っている私たちが誰でも扱える天然木のシートとか、開発をしていかないといけないんです。

理想の家は、やはり木造住宅。それは、気候風土を考えると日本に住まう限りそうだと思います。面白いのは、皆さん盆や正月になったら田舎に帰りたいという帰省(帰巣)本能といいますか、仕事を終えて自由になったら田舎へ行きたいと思われること。自然の中に身を置きたいということだと思うのですが、それは、やっぱり日本人の持っている本能だと思います。個人的な意見ですが、人間は、もともと自然豊かなところで生活してきたことを遺伝子が覚えている。以前、岐阜県のある村を訪れた時に、平成10(1998)年に新築された100%木造校舎の小学校でお話を伺ったところ、子どもたちの問題が非常に少なくなり、先生方は転任したがらなくなったそうです。落ち着くのか、癒しの空間というのか。人間の遺伝子がそうさせているような気がしてならないですね。

――2017年3月と7月に「奈良の木のもつ健康効果」を科学的検証データとともに発表され、健康に良いことが判明しましたが、そう思われますか?

カビの育成を抑制するとか、ダニの数が少なくなるとか、インフルエンザウイルスの感染力を低下させる働きがあるとか、凄いですよね。今まで数字にしてこなくとも、そういうことは感じてきたと思います。天然木、吉野スギや吉野ヒノキによる無垢材を使うことが、カラダに良いということがわかり、実際に使いたいという思いが出てきたら、今度は私たちの番でしょ。使っていただけるように、使う側のニーズをくみ取らないといけないですよね。

今後も製材や加工部門を集約し、販売も手掛けることで、吉野材の良さをもっとわかっていただくことができたら。「川上産」「吉野100年梁」などの言葉が広まって、木といえば―で、思い出していただけたらと思います。そういう努力の積み重ねをすることで、吉野林業を引き継ぐ次の世代が生き残っていけるようにしていきたいですね。

INFORMATION

川上産吉野材販売促進協同組合(通称:川上さぷり)

住所 〒639-3541
奈良県吉野郡川上村大字東川758−1
電話 0746-53-9988
URL http://yoshinoringyo.jp/suppli/

取材・文:土井淑子
写真:畑中勝如

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