インタビュー記事

2017.09.29

Instagramも有効活用!カッティングボード製作などを通じて吉野を発信「辻 木材商店」辻万里さんの取り組みに迫る

木の芳しい香りに満たされ、製材機の鋸の音が聞こえてくる木のまち。東西約2㎞にわたる地域に約50もの製材所が多く密集する吉野で、製材所を営む辻万里さんが、日常の暮らしにこそ吉野の優れた木を使ってもらいたい、とカッティングボードを作りはじめたのは約3年前のこと。吉野の木に精通した職人の辻さんに、吉野材の特長やカッティングボード製作、ワークショップなど吉野材の魅力を発信する取り組みについてお話を伺った。

インタビュー:辻万里氏(辻 木材商店 代表)

――吉野材の特長とはどんなものなのでしょうか?

吉野の木はまっすぐで節がなく、強度が高いのが特長です。また、日々材木を扱っていて実感していることは、色艶の良さ。とくに吉野スギは時を重ねるごとに艶が出てきます。例えば家を建てるときに使う木材の色合いは、それぞれ異なるのですが、何年か経つと木は同じ色合いになり、家としての統一感が出てきます。木は劣化するのではなく、時間が経てば艶が出てそれが味となる。それが吉野の木材の大きな魅力です。また、樹齢100年以上の吉野スギや吉野ヒノキには優れた抗菌効果があることがわかっています。病院や学校、保育所や老人ホームの建材として使用したり、食器として使ったり、カビやダニ、インフルエンザウイルスに強い木の特性を生かした活路が注目されています。私たち製材屋の仕事とは、そんな優秀な吉野の木の良さを生かすことだと考えています。

――林業、製材業で栄えたかつての吉野とは、いったいどんなまちだったのでしょうか?

吉野は古くから、木のまちとして知られ、多くの先人が林業に携わってきました。今このまちを訪れた人にとっては、想像がつかないかもしれませんが5、60年ほど前のこの辺りは大変賑わっていました。大量の木材の需要があった昭和の高度成長の時代には、まちには商店が立ち並び、映画館があり、今では考えられないほどの活気があったものです。かつての吉野川にはダムがなかったため、水量が多く、橋の上からでも飛び込めるぐらいでした。私たちも子どもの頃、よく川で遊んだものです。吉野川には旅館や商店の屋形船が浮かび、それはなかなか風流な光景でした。吉野の工場のすぐ近くにも当時材木を引き込んだ貯水池の遺構があります。貯水池の周辺には製材工場があり、今とは違いすべてが人力で営まれていました。仕事で命を落とした人も多かっただろうと思います。私たちの役割とは、先人の残してくれた吉野の林業を世間にアピールすることだと思っています。まちはかつての賑わいを失いましたが、数百年もの時を経た材木が今ここにあるのは、多くの先人が林業に携わってくれた証だからです。

  • 現在の吉野川の風景(写真提供:吉野町)

――吉野の木材の良さを世に広めるために、辻さんが行われている取り組み内容を詳しく聞かせてください。

吉野の木を実際に暮らしのなかで使ってみてもらいたい、そしてその良さを実感してほしいという想いから、約3年前から無垢材で作るカッティングボードの製作やワークショップを行っています。吉野の工場で行われるワークショップでは、吉野の木に実際に触れてもらい、匂いを嗅ぎ、滑らかな手触りや年輪の美しい模様を五感で味わってもらう体験ができます。

レポート:吉野材の風合いをそのまま生かした「カッティングボード作り」を体験するワークショップ

今回、辻さんからお話を伺ったのは、カッティングボードを作るワークショップの現場でした。木材や機材が並ぶ製材所に入ると、ワークショップに参加された皆さんが、やすりで真剣にカッティングボードを磨いていました。選べる木材は吉野スギと焼ヒノキの2種類から。まずは好みの大きさやかたちの木材を選びます。木材の表面をやすりでなめらかに磨き上げたあとは、持ち手に工具で穴を開けます。仕上げに焼き印でメッセージを刻み、オイルで拭きあげたら、年輪がくっきりと浮かび出たMyカッティングボードの完成です。この日使った木材は、なんと200年ものの吉野スギ。

参加された皆さんは、お子さんといっしょに参加された女性が多く「作り進めるごとに、なんだか愛着が湧いてきました」といかにも愛おしそうに仕上がったボードを眺めています。何に使いますか?と尋ねると、うーん……と少し考えて「何にでも使えそうですよね」という声が返ってきました。確かに。木の模様、風合いをそのまま生かしたカッティングボードは、何を盛りつけても自然で、食べ物がおいしく見えそうです。吉野スギには少し赤みがあり、パテやハムなどの肉料理やハーブのグリーンが映えそう。焼ヒノキのカッティングボードは、バーナーで焼いたヒノキのなんともいい香りと、焼き色を付けられた年輪が深くていい味を醸し出しています。「円形は不思議と何を盛っても様になるんですよ」と話してくれたのは、すでにカッティングボードを愛用中のリピーター。「週末にはこれで朝ご飯のプレートを作るのが楽しみなんです」という声も。トーストや卵料理、サラダを盛りつけて、吉野ヒノキの香りを嗅ぎながら、ゆっくり休日の朝を楽しむそうです。なんとも粋で素敵な使い方ですね。

辻さんの言葉を借りると「住んでこそ家、料理を盛ってこそ食器」。使う人があってこそ木が生かされると考える辻さんは、今の暮らしに木のぬくもりを取り入れる機会を提案しています。ワークショップ(所要時間約2時間)に参加希望の方は、辻木材商店まで詳細を問い合わせてみてください。また、このカッティングボードは、ワークショップで作るほか、NEXTWEEKEND STOREのサイトでも購入することができます。

ワークショップの参加者がSNSで吉野の魅力を発信する「#discoveryoshino」の取り組みとは

ワークショップに参加した人は、カッティングボードを使っている写真をInstagramにアップし、「#discoveryoshino」とハッシュタグを付けます。この楽しい取り組みの発起人はもちろん辻さん。

「ここにいる皆さんが取材者となって、吉野の木のことや、まちのことをSNSで発信してくれます」と辻さんがInstagramにアップされた数々の写真を見せてくれました。そこには北海道の鮮やかなトウモロコシで彩られたボードや、焼きたての肉や野菜がのせられたボードの姿がありました。吉野の美しい自然がたくさんアップされていたのも印象的。広々とした空に、刻一刻と表情を変える夕焼けに浮かび上がる山やゆったりと流れる澄んだ清流を眺めていると、また吉野を訪れたくなります。仲間を集めてカッティングボード作りをして、そのあと吉野川沿いでバーベキューをして、さっそく使ってみるのも楽しいかも、と新たなおでかけのアイデアが湧いてきます。

木のまち・吉野に関心を持ってもらえるようなものづくりを続けていきたい

「林業、製材業というのは、人がいてこそ成り立つものなんです」と辻さん。山で木を育てる人、運ぶ人、製材する人、道具をメンテナンスする人、廃材を加工する人。木に携わってきた先人をリスペクトする辻さんは、吉野材のブランド力を、今一度自分たちが世に広めなければと考えている。

「暮らしのなかで実際に吉野の木を使ってみた人が、吉野を訪れてみようかと思ってもらえるようなものづくりを続けていきたいですね」と辻さん。今の暮らしにフィットする吉野材の使い道を提案し、繰り返し使うことでその良さをしみじみ実感してもらおうという辻さんのアイデア。無垢の木のカッティングボードを通じて、吉野の木の良さは使う人の日常の暮らしへと広まっている。

INFORMATION

辻木材商店

住所 〒639-3113
奈良県吉野町飯貝5-23
電話 0746-32-4156

取材・文 : 白桃澄江
写真:鈴木誠一

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