インタビュー記事

2019.03.01

クリエイターたちが移住する東吉野村へ。職人たちのこれまでとこれから

奈良市街から車で約1時間の場所にある東吉野村。山あいの清流をたどるように上った先にある村は、近年デザイナーやカメラマンなど、ものづくりに携わる移住者が増え、活気を帯びています。

そんな東吉野村の移住者たちが集うスペースにもなっているというシェアオフィス『オフィスキャンプ東吉野』で今回お会いしたのは、仏師として工房を構える「安本佛像彫刻工房」の安本篤人さんと、吉野の木を使う椅子専門の木工所「維鶴木工」の山本ひいろさん。東吉野村に移住して木を使ったものづくりをしているお2人に、東吉野村での暮らしやものづくり、木への想いについてお聞きました。

インタビュー:仏師 安本篤人氏(安本佛像彫刻工房)、山本ひいろ氏(維鶴木工)

――移住される前は、それぞれどちらにいらっしゃったんですか?

安本:以前は葛城市に住んでいて、そこに工房もあったんですが、賑やかだったりして集中し辛い環境で。スーッと集中できるような所でやりたくて、2017年の2月からこっちに来ました。ここ川がすごくきれいでしょう? あと大阪からそんなに遠くないところも環境的に良いと思った。僕は田舎じゃないとダメとかではなく、いろんな所に行かないとダメという感じで、田舎も都会も、どっちも良いなって思う。こっちに来てから普段静かなところにいる分、都会が好きになって(笑)。東京とかも月1くらいで行っています。

山本:僕は2017年の11月くらいですね。一緒に「維鶴木工」を立ち上げた藤川も僕も大阪にいて。2人で起業するとき、関西圏で木に縁のある地域でやりたいと移住しました。ただ最初は、吉野っていう山奥に拠点を置くのに怖さもあって、一歩手前の桜井市にしたんです。でも、そこで吉野の木を使い出して1年くらいやっていくうちに、吉野のいろんな方々と出会って。知り合いもできたし、こっちに来た方が素材の木も揃って仕事しやすそうだと思い移住しました。

――東吉野村に移住して良かったこと、大変なことなどがあれば教えてください。

山本:吉野に住む人たちは、移住する若者に対してウェルカムですよね。僕は、地域の人に恵まれていて、苦労したことはそんなにないです。大変なことといえば、工場が村でも奥の方にあるので、雪が積もると缶詰状態になること。年に数回ですが大雪や台風で停電して復旧に時間がかかることもあり、そういうときはちょっと大変ですね。でも、普段は買い物も車で30、40分あれば行けますし、車さえあれば生活の中で不便に思うことはほとんどありません。

安本:僕は、こっちに来てからネットで買い物をすることが増えました(笑)。食べ物とかもけっこうネットで買います。住んでいて思うのは、東吉野って外国みたいなんです。人も環境も穏やかで、良い意味で適当。けっこう海外に行くんですけど、バンコクとか台北とか行っても、何か東吉野の方がずっと海外っぽいなって(笑)。お年寄りが多いからっていうのもあるかな。

――2人が知り合ったのは、東吉野村に移住してからですか?

山本:はい、安本さんのところでご飯会があったとき、初対面で工房にお邪魔させてもらって。初めて安本さんに会ったときは、良い意味で少年みたいな人やなって思いました(笑)。好きなことをやっていて目が輝いていて。

安本:(笑)。僕は、たくちゃん(維鶴木工・藤川さん)の方が社長っぽくて、それに比べて職人っぽいなと。

山本:それは実際、その通りですね。僕が高校生の頃、『美しい椅子』っていうシリーズの本を見て感動して、それからずっと椅子をつくりたいと思っていたんです。藤川は何かで起業したいという想いがあって。今も社長業や経営的なことは藤川、制作は僕が中心でやっています。

――一般的に椅子は、木以外にもいろんな素材でつくられていますが、「維鶴木工」では木を、なかでも吉野ヒノキをメインで使っていますね。

山本:椅子って身体に触れるものなので、どれだけ落ち着くかが大事だと思っていて。人間が一番落ち着く素材って、多分いつか変わりますけど、あと100年位は木だと思うんですよ。桜井市に移ってから吉野ヒノキをメインに使うようになったんですが、一般的なヒノキに比べて硬くて、強度試験でもそういう結果が出ているみたいです。椅子って普通は、強度の高い広葉樹を使うことが多いんですけど、吉野ヒノキだったら充分使えると感じて。それから、一般的なヒノキの特徴として香りや艶がありますが、そういった要素も他のヒノキに比べて強いと思います。

  • ▲山本さんが3本足に初挑戦したizr3。座面は布張りか吉野スギが選べる
  • ▲機械での作業を減らし、細部までとことんこだわり手作業で削ったというizr9

――仏像を彫るときは、どんな木を使うのでしょうか?

安本:これまで日本各地の木を使ってきて、外国のものも少し使用したことがあります。吉野の木も最近使っていて、吉野ヒノキで何個かつくりました。どの木を使うかは、つくりたいイメージに合わせて選びます。パワーが欲しかったらそういう木を使うし、慎ましい感じだと白木とか。「これをつくるならこの木やな」と直感的に選ぶことも。でも仏像彫刻の世界で一番と言われているのが木曽ヒノキ。木目の細かさ、美しさでいうとやっぱりすごいんです。ただ、その固定観念を疑問に思うこともあって。吉野ヒノキは、けっこう個性的なんですよね。真っ白じゃなくて、黄色だったりピンクだったり木によって個性豊かでポップな色。あとやっぱり硬さですね。硬いから艶が出て、他にない色合いになる。個性があって面白いなと思って。今後もどう使うかアイデア次第だなと、自分の中ですごく可能性を感じています。

  • ▲運慶の作を模彫した「大日如来像」。エキゾチックな雰囲気に合わせて桂を使用
  • ▲(左)奈良県に寄贈した「白衣観音像」。身体は吉野ヒノキ、白毫に吉野スギを使用(右)木曽ヒノキを使った「中将姫像」

――安本さんは、どうして仏像をつくるようになったんですか?

安本:高校生ぐらいから人生や幸せについて考えるようになって。気持ち良く、楽しく生きていくためにどうしたら良いか悩んでいた頃、バリ島のウブドに1か月くらいホームステイしたんです。現地のバリ・ヒンドゥー教の人たちはすごく信心深くて、朝イチからお供えを用意して、正装でお祈りして、お香とかの独特な香りとガムランの音がして。そういう信仰や暮らしを見て、日本に比べて物質的には豊かじゃないのに、バリの人がすごく幸せそうに見えた。その後、日本に帰ってきて東大寺で持国天を見たときに感じるものがあって「自分もこんな仏像をつくりたい」と思ったんです。普通は仏像を見るのが好きになる、とかなのかもしれないですけど、できるんちゃうかって、あほやから思ってしまって(笑)。

山本:要はそういうことですよね(笑)。できるんちゃうかな、やりたいなと思っちゃうんですよね。

――東吉野村は、制作する環境としてはいかがでしょうか?

安本:谷の底に住んでいるような感じが、造仏の最後、追い込みに適しているなと。アイデアを出すときは、街に出たり海外に行ったり、人に会ったりするんですけど、こもるのにすごく良い。きれいな川があって、森の匂い……木や土の匂いが濃くて、一番集中できる環境です。

山本:僕は、新しい作品ができたら、できるだけ東吉野に住んでいる知り合いのデザイナーさんとかに見せています。いろんな分野で活躍している人がいて、「ダサい」とか皆けっこう遠慮なく意見を言ってくれて(笑)。そんな良い環境は、なかなかないと思います。

  • ▲オフィスキャンプ東吉野の向かいを流れる清流

――移住した人同士の交流会みたいなものがあるんでしょうか?

山本:交流会というよりは、ここ(オフィスキャンプ東吉野)に自然と人が集まるので、デザイナーさんとか僕らみたいな木工家とか、いろんなジャンルの人で意見交換したり、イベントを開いたりすることも。こういう場所があることは、すごく有り難いです。

安本:外から来るときも、こういう所があるから入ってきやすいというのがある。役場とかには、いきなり行きにくいかもしれないけど、ここでとりあえず相談にのってもらえて。

山本:僕らも工場を探しているとき、知りあいの呼びかけでここにふらっと寄ったんです。そしたら今の工場のオーナーさんがたまたま来られて。場所も良くて設備もばっちりだったので、すぐ決めました。偶然ここで居合わせたのにも縁を感じて。住むところとか工場とか、そういう情報も集まりやすい場所ですね。

――今後の制作についてどう考えていますか?

山本:とにかく「良い椅子をつくりたい」というのが一番で、「良い椅子」って何かいつも自問自答しているんです。座り心地、見た目、実用的な面など、どれも大切なので。でも特に手触りは、けっこう重視しています。座っているとき何となく触りたくなるようなフォルムを取り入れて、手が触れるところは曲面にするとか、もちろん平面も、どこを触っても滑らかで気持ちいいようにしっかり磨いて。全部を木でつくることに意固地になっているつもりはないんですが、少なくとも身体に触れる部分は木の方が良いと考えていて、そこは今後も変わらないと思います。せっかく良い木を使わせてもらっているので、それを楽しんでもらえるようなデザインや加工を今後も追求したいです。

安本:僕は、自分にしかできない表現とか面白いものをつくっていきたい。普通、仏像って史実にあるものをつくることが多いんですけど、僕はそれをもとに自分なりの解釈で表現したものもつくっていて。「尊敬と親しみを感じさせる」っていうのが僕のテーマで、老若男女、外国の方が見ても、温かい気持ちになったり、何かを感じたり、そういうものに挑戦していきたいです。あと自分がこの東吉野で、どういう風に役に立てるかっていうことを考えています。仏像は一体つくるのに時間がかかるし、吉野ヒノキをそんなに消費できないので、僕はイメージアップ、ブランディングみたいなところで役立てればと。奈良県への観音像の寄贈もそうですし、これまで海外からのファムトリップも受け入れてきて、今は仏像彫刻の体験ができる企画を進めています。うちで体験して、泊まったり食事したりを他のところで、いろんな人と協力し合えたら、地域経済にも貢献できるかなと。吉野の林業全体でいうと小さいことだけど、できることからやっていきたいですね。

INFORMATION

OFFICE CAMP HIGASHIYOSHINO

住所 〒633-2421
奈良県吉野郡東吉野村小川610-2
URL http://officecamp.jp/

取材・文:岩永茜
写真:鈴木誠一

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