インタビュー記事

2019.08.28

ビズリーチ CPO 兼 CTO×建築家 佐野文彦が語る、オフィス空間の未来。国産材を使ったビズリーチ新オフィスに込めた想い

木の温もりや香り、手触りは、リラックスしたい住空間には欠かせないものとなっています。では、ビジネスシーンにとって、木の魅力はどのような効果をもたらすのでしょうか?

今回、その効果を知るべく伺ったのは、『株式会社ビズリーチ』の新オフィス。5月に渋谷駅新南口にオープンしたばかりの新しいオフィスには、奈良県産材である吉野スギや吉野ヒノキをはじめとした国産の木材がふんだんに使われています。エントランスで来訪者を出迎える巨大なマツの木、ミーティングスペースへ抜ける小路の壁を彩る杉皮張り、モニターの土台となっている大きな春日杉の丸太、ケヤキの変木を使用したホワイトボードの枠組、オフィスのデスクの天板には全席に吉野ヒノキの無垢材を使用するなど、その多くは一般的なオフィスでは見ることのないような斬新な木材の利用法ばかり。木の持つ自然そのままの魅力が新しいアイデアと調和した、今までに見たことのないオフィス空間となっています。

この新オフィスについて、依頼主である株式会社ビズリーチ取締役CPO兼CTOの竹内真さんと、その依頼を実現した建築家の佐野文彦さんに話をうかがいました。

インタビュー:株式会社ビズリーチ取締役CPO兼CTO 竹内真、建築家 佐野文彦

――まずは、ビズリーチとしてこのオフィスを立ち上げる際に考えていたコンセプトについて教えてください。

竹内:ここは当社のなかでも、新規事業を立ち上げる部門のためのオフィスです。昨今、インターネットを利用したサービスは、単純なビジネスモデルでは存続しにくくなっています。右から左へモノを売れば成立するのではなく、かなり複雑でクリエイティヴなものであり、様々なチャレンジをして、失敗もしながら、まだ世の中にないサービスを作り上げていかなければならない。そのため、オフィスも創造性をかき立てるような空間が必要だと考えました。

――そのコンセプトを追求した結果、奈良の木や国産の木をふんだんに使用したオフィスになったということですね。

竹内:そうですね。ディテール、感触なども含めて、良いモノに囲まれたオフィスをつくりたいなと。また、もう一つの理由に、当社がグローバルな人材の採用を行っていることがありますね。オフィスの中で外国人が占める比率が上がってきている中で、日本のアイデンティティが明確になるようなオフィスにすることで、多様な人材が心地よく働ける環境をつくりたいと思ったんです。そうした希望を叶えられるオフィスの設計を佐野さんにお願いすることにしました。

――佐野さんは、どういった話し合いの中でアイデアを発案したのでしょうか?

佐野:最初に「今までに見たことのないオフィス」というお題をもらったんですね。オフィスというと、一般的には「どこ風」というようなトレンドがあるんですが、そういったトレンドに乗っかったつまらない提案は出来ない。そこで、通常オフィスでは使わないような生の素材を使っていこうと考えました。

――通常使わないような素材というと、どのようなものですか?

佐野:例えば、無垢の吉野ヒノキの天板のデスクを社員みんなが使っているオフィスは、おそらくここしかないと思います。また、受付のiPadを置くために使っている石は香川産の庵治石(あじいし)で1tもの重さがあって、ベンチに使用している石もそれぞれ1t以上ある。過剰だけど、素材の存在感や特徴がそのままに感じられるものがオフィスに置かれているのは面白いんじゃないかと考えました。

――受付にある大きな松や、オフィス内の植物など、生きたままの木も数多くオフィスに置かれていますね。

佐野:受付にある松は150年以上かけて育てられたゴヨウマツです。また、オフィス内にはツバキの木があって、季節になると花を咲かせるんですね。そういった変化があることで、家とオフィスの往復だけでは感じられないような季節の移り変わりを感じられるのではないかと考えました。

――素材選びで特に意識した点はどこですか?

佐野:素材感の残っているもの、経年変化していくものをなるべく使用しています。

竹内:生々しいモノがたくさんありますよね。キレイに成型されたモノと、素材そのままに持って来られたモノがオフィス内に混在している。完成品と未完成品が混じり合うのは、新しい何かを生み出すために必要なことだと思うんですね。完成形だけでは行き詰まってしまうから、もっと荒々しいラフなアイデアが必要になる。

佐野:成型し過ぎると、ただの素材になってしまうんですね。例えば、モニターの土台に使用したスギの切り株。あれを成型し過ぎると、ただの角材になってしまってどれも大して変わらないモノになってしまう。でも、切り株の状態でモニターと組み合わせることで、それぞれの違いが際立って見えるようになる。

――あの丸太には、それだけで圧倒される存在感がありますね。

佐野:それぞれのモニターに使用したスギは「春日杉」と呼ばれるとても希少なもので、6mあった木を使っています。コピー用紙入れにした分を含めて、2本の木で全て出来ているんですね。あとは、茶室の床の間に使用した木は千葉にある香取神宮のもので、香取神宮(※1)の神様が春日大社(※2)の御祭神になっているという繋がりもあります。

※1 香取神宮…千葉県香取市香取にある神社。下総国一の宮。祭神は経津主大神(ふつぬしのおおかみ) 。鹿島神宮とともに軍神として尊崇を受けた。

※2 春日大社…春日山原始林を背景に奈良公園内にある神社。世界遺産「古都奈良の文化財」であり、 奈良時代に平城京の守護と国民の繁栄を祈願する為に創建され藤原氏の氏神を祀る。神が鹿に乗って来たと言い伝わる。

竹内:御利益がありそうですね(笑)。

――オフィスに訪れた方から、何か特別な反応はありますか?

竹内:オフィスに来訪する方の反応を見ていると、まずは受付の石とマツに圧倒されるようですね。その後に杉皮張りの壁を見て「ここは料亭ですか?」と驚かれたり(笑)。あとはホワイトボードに反応する方が多いです。

佐野:ホワイトボードは思っていたより難易度が高かったんですよ(笑)。まずは柱に出来るケヤキの変木をそろえるのが大変で、使えそうなモノでも向きが合わないと倒れるんじゃないかとか、最終的なバランスを取ると足元の軸をずらさないといけないとか。これを作った家具職人が納期に間に合わないんじゃないかと心配して、工場に泊まり込みで作業をしていました(笑)。

――実際に働いている社員の皆さんは、どのような使い方をしているのでしょうか?

竹内:社員の反応で面白いのは、こちらが使用方法を指定しなくても、使っていくなかで様々な使用方法が生まれていくことですね。モニターが丸太に刺さっていたり、オフィスの壁一面がホワイトボードになっていたり、茶室があったりと、色々と違和感のあるスペースなので、引っ越してきたばかりの頃はみんな戸惑っている様子でした。最初はみんな自分の席で働いていたんですけど、少しずつ慣れてくると茶室でミーティングをしたり、階段に座って話し合ったりするようになっていく。今では、かなり自由度高く使いこなしていますね。柔軟な思考のメンバーが多いということもあって、自由に考えながらオフィスを活用している印象があります。

佐野:それは面白いですね。機能性だけに特化していないスペースがたくさんあるので、それを自由に使いこなしてもらえるのは、作った側としても嬉しいです。

――佐野さんは、日本の木を使用することにこだわりを持っていますか?

佐野:日本の木でないといけない、と考えているわけではないです。大事なのは、コンセプトに合うかどうか。例えば、昨年再建された興福寺の中金堂は無垢にこだわっているからアフリカケヤキなどを使っていて、東大寺の大仏殿は大きい柱が取れないから寄木造で作っている。四天王寺は何度も焼失した過去があるから、燃えないようにコンクリートで作られている。コンセプトによって、使用する材料が変わってくる。

――今回提示されたコンセプトには、日本の木がぴったりだったということですね。

佐野:そうですね。今回は経年変化を楽しめるものにしたいという思いがありました。通常の製品だと、結局買った最初が一番良くて、あとは劣化していくだけになってしまう。でも、例えば吉野ヒノキの天板を使ったデスクは、使っていくうちに色の移り変わりを楽しむことができる。それに、最終的に汚れが目立つようになれば、削るだけでまた新しいデスクへと生まれ変わる。

竹内:日本のビジネスは、機能性だけを重視する方向に走り過ぎているんじゃないかと思うことがあります。機能として使えるものを、コストをできるだけ抑えてつくるという方向性ですね。表面だけ取り繕って、それらしく見えるようにすればいいんだ、というマーケットが一部では出来上がってしまっている。ただ、例えばこういったヒノキの天板の手触りというのは、表面を一枚張り付けただけでは味わうことが出来ない。触覚だったり嗅覚だったり、本来人間が持っている五感がしっかりと刺激される中にいないと、本当に良いものは作れないんじゃないかと思います。

――最後に、そういったオフィス作りにどんな想いが込められているのか、教えてください。

竹内:日本、特に東京では、多くの人々が人間として大事なものを諦めながら一生懸命生きているような感じを受けるのですが、本来はもっと別のものに幸せを感じたりしながら働いて生きていく方がいいんじゃないかと思うんです。色んなものに豊かさを感じたり、感動しながら作ったものでなければ、人々を魅了することはできない。自分が幸せを感じていなければ、他の人を幸せにすることはできない。そこで、これから仕事をするための環境には、五感を刺激したり、精神的な健康を保つための要素を取り入れることが必要になってくるはずです。私たちがそういったオフィス作りの先駆者になれればいいですね。

取材・文 : 青山晃大
写真:大石隼土

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