レポート記事

2018.12.21

「木は、生きている。」by 行方ひさこ

奈良の林業の中心地である吉野地方で、樹齢約270年の吉野スギの伐採現場から、奈良の木が建築物やプロダクトになるまで、川上から川下の現場を巡る体験型ツアー<奈良の木見学ツアー>が11月23日(金・祝)〜24日(土)の2日間にかけて開催されました。世界的建築家の隈研吾さんもゲストとして参加するなど 大盛況で幕を閉じた人気ツアー。

今回は、ブランディングディレクターの行方ひさこさんと一緒にツアーを体験。奈良の木の魅力を探るべく、吉野の林業・木材産業の現場を訪ねました。

レポーター:行方ひさこ(ブランディングディレクター)

「木は、生きている。」

講演会で、建築家の隈研吾さんは一言目にこうおっしゃった。

木は、私たちを取り巻く豊かな大自然の産物であり、恩恵。そして、木の循環は私たち人間の文化が育んできたものでもある。

今回、ご縁があって<奈良の木見学ツアー>に参加させていただいて、はじめていろいろな側面から木と向き合って考えてみた。

そして、「木は、生きている。」やっぱり、そう感じた。

吉野の林業は、500年も前、室町時代に初めて植林が行われ、多くの手間と時間をかけ現在まで粛々とその伝統が受け継がれてきたんだなんて、本当に驚くばかり。

豊臣秀吉が吉野を領有し、大坂城や伏見城などのお城やお寺の建築にこのあたりの木を多く使ったのがきっかけで、林業が盛んになったと言われているんだって。

吉野の木は、この地域ならではの豊富な雨量、風害や雪害の少なさで、とても質が良いんだそう。そこには、その後の長い歴史の中で、その良質な木材を生み出すための知恵や技術が磨かれて発展してきたという土台があるからこそ。

ここ吉野の林業での重要なキーワードは「密植」。

他の地域では1haに3000本程度の木を植えるところ、吉野の「密植」は8000本から12000本!約3倍から4倍もの木を植える、これが「密植」。

「密植」して日が当たらない状態にし、あえて成長を遅らせることで細かな年輪を持ったまっすぐで健やかな木が育つ。この細かい年輪は、木の強度にも深い関係があるそうで、美しい模様を演出しているだけではないんだね。

もちろん木の価値を高めるための手間は惜しまない。それが「枝打ち」という作業。枝が生えていた痕には節ができてしまう。だから人が丁寧に枝を伐る。美しさの観点からいうと、節があることで価値が大幅に下がってしまうんだって。

そして、木を植えてから何度も何度も「間伐」を繰り返し、長い年月をかけて100本程に厳選されるというから、選び抜かれたエリートしか生き残れないということになる。

「密植」、「枝打ち」、そして「間伐」……美しさと強さを兼ね備えた優秀な木を育てるために、想像していたよりもはるか昔から、たくさんの人の手がかけられていたことに本当に驚いた。

ここ吉野で林業に携わる人たちは、自分たちが植えた木の成長を最後まで見届けることはできない。だって、すぐにはカタチにならないし、自分が生きているうちはお世話をするだけでその先の成長を次の世代へと引き継いで見守っていくんだもの。それでも、未来に思いを馳せ、子孫のために、先の地球のことを考えて木を植えてきたなんてとてもロマンティック。

一方で、今ではその大切に育てられた選りすぐりのエリート達でさえ、需要が減ってきてしまっているというから、悲しいこと。

理由の1つとして、技術の進化がある。

〈美しい木目風〉のプリントや、薄い板を貼り合わせたベニヤ板などが安く流通することで、一般の人には本物との見分けが付きにくくなった。本物がわかる人が減ってしまったってことだよね。正直、私も見分けがつけられない1人。

今回のことで、人生で初めて深く木のことを考えたからと言って、過剰に木への幻想を煽るような情緒的なことを言いたいわけじゃないんだ。ただ、私たちの美意識が変わってきている、ということは確か。

今後は、このような価値のある木をどう活かしていけばいいのか根本的なところから考える必要があるんだろうなんて思いながら、吉野の森へ向かう車に揺られてた。

今回参加させていただいた<奈良の木見学ツアー>では、樹齢約270年の吉野スギを伐採するという貴重な現場に立ち会わせていただいたの。もちろん、普段東京で暮らしている私にこんな機会はなかなかないので、とても楽しみにしていたの。

現場までの道のりは、国道からつながる林道を車で15分走った後、そこからさらに急な山道を徒歩で15分くらいなんだけど、あちらこちらに間伐された木が横倒しになっていて。この山から外に出すのにもお金と手間がかかるらしい。この横倒しになった木の中には、このままここで他の木の肥料となって生涯を終える木もあるんだろうと思うと、少し切ない気持ちになったよ。

山道を登っていくにつれ、見上げるほどに太くて大きな木々が現れ、荘厳な空気を感じた。ピンと張りつめた冷たく澄んだ空気の中、所々に差し込む陽の光がとても神々しくて。ものすごい機会に立ち会わせてもらえるんだって感動がこみ上げてきたよ。

現場に到着すると、<山の持ち主=山主さん>と<山主の山を管理する人=山守さん>が伐採の段取りを説明してくれた。

そして、いよいよ一大イベントがスタート! 伐採の前には、山の神への祈りの時間があり、山主さんや山守さんたちだけでなく、見学している私たちも静粛な空気に包まれた。

原付バイクよりも大きなエンジンを積んだ大型のチェーンソーを使用。ヴィーンという大きな音が、静かな山に鳴り響く。直径1メートル以上もある太い幹に素早く正確に切り目を入れていく山守さん。私は、山の中腹から見下ろす形で、木が伐り倒されるのをドキドキしながら見守ってた。

伐採は、山の斜面の上に向かって倒すように伐る。これは、この後の運搬のこともあるけれど、何より伐り倒した後にそのまま半年から1年ほど寝かせるから。スギは伐り倒した後の株から樹液が染み出るほど多くの水分を含んでいて、伐採した場所で寝かせている間に葉から水分が蒸発して軽く、さらに腐りにくくなって運びやすくなるんだって。

枝葉をつけたまま寝かせておくことによって、渋みが抜けて、吉野スギの特徴である美しい淡いピンク色に。樹齢が高ければ高いほど長く寝かせて、水分量を半分くらいまでにするんだそう。

メキメキと大きな音を立てて樹齢約270年の木が倒れた瞬間、周りから「おおぉーーー!」と声があがった。それぞれにいろんな気持ちが入り混じっていたと思う。私はというと、たくさんの人が大切に育ててきた木が目の前で伐られる光景は、言葉ではなかなか言い表せないような複雑な気持ちになっちゃった。だって、吉野の木は世代を超えた職人たちによって何百年も守られ、受け継がれてきたものだから。

カメラマンさんの「木に寄り添ってもう少し朗らかにー!笑ってくださーい!」と言う声。従って笑ってはみたものの、なんだかちょっと寂しい気持ちが心から離れなくて。

材料にするために育ててきた木なんだから、いつか伐るために育ててきたようなもの。そんな事実関係は理解していたつもりなんだけれど。もちろん、この大切に育てられてきた木が、これからさらに人々の手によって価値あるものとなって、私たちとともに暮らしていくと思うとありがたいこと。大切にしていかなくちゃいけないよね。

吉野の山は険しいから、ヘリコプターでの搬出が重宝されているそう。でも、ヘリコプターによる出材コストが、木の価格以上にかかってしまうと損しちゃうよね。最近はそこがなかなか難しくて、樹齢50年くらいの間伐材は出材されることはほぼなくて、80年から100年の木も一部はそのまま山に還ることになるみたい。

  • 吉野中央木材株式会社

間伐材の価格がもっと上がったらいいんだけれど、海外から入ってくる安い木材に価格も使い勝手も負けてしまうことが多いらしい。人の手が入っていない海外の森が、森ごとまるっと伐採されて運ばれてくるんだから、育てる手間もいらないし安いのも納得なんだけれど。

でも、自分たちが安く手に入れられさえすれば、それでいいのだろうか……良いわけがないよね。

吉野の木は、世代を超えて、職人たちが何百年も守り、受け継いできたんだよね。森と人がずっと一緒に生きていけるように。その想いを感じて、改めて吉野の木の価値と、人の手によって持続可能な林業が守られてきた歴史に心を打たれた。受け継がれてきたその想いと対価を還元できるように次の世代に繋いでいかなきゃ。

  • 樽丸くりやま

やっぱり、木は生きているんだと思う。

木はたくさんのCO2を吸収し、水を保ち、たくさんの生命を養ってくれる。そして、川も海をもつくってくれる尊い存在の木に私たちは生かされ、活かされていることを忘れてはいけないってことなんじゃないかな。

  • 吉野杉の家

隈研吾さんが講演の中でこのようにおっしゃっていたの。

"19世紀までは木の時代、20世紀はコンクリートの時代でした。そして、21世紀はもう一度木の時代になるでしょう。"

"世界のどの文明も山に依存して繁栄してきました。石の建築で有名なギリシャですら、かつては木と共に発展してきたんです。人間は木と、森とうまく暮らしていくことが大切なんです。"

隈さんの最近の作品を見ていたら、木を活かして、私たちが自然と調和するようにつくられたものばかり。

人は森と共にあった。森が崩壊したところは、文明が発展しなかった。これがどういうことなのか、私たちがよく考えて行動しなくちゃいけないこと。

そもそも、化学製品に囲まれて生活をしたいか、自然の産物の中で豊かな時間を過ごしたいか。

食べ物に気を遣うのと同じように、自分を、自分の周りを取り囲む環境にも気を遣いたい。自分の周りにあるものたちは、どこでどんな風に育って、どうやって手元にきたのか。これを知ることってかなり重要なことよね。

吉野の森で本物に触れることで、日常生活の中で忘れがちな本質を思い出した。やっぱり私は、自分の周りにあるものとは、できるだけ顔の見える関係でありたい。

そして、自分の先の世代が関わる未来まで見通して、本当に価値あるものを育て、選んでいけるような抽象度の高い目線と美意識を常に持っていたい。

Profile

行方ひさこ(ブランディングディレクター)

最も価値のある資産となる「ブランド」価値を高めるコンセプトメイクを行うブランディングディレクター。アパレルブランド経営やディレクター、デザイナーなどの経験を活かし、スポーツ、フード、ビューティなど幅広い分野で活動中。ニュートラルなマインドで、より多くのファンの獲得を戦略的に考え、ターゲットに届けるコミュニケーションの仕組みをつくっている。

Instagram

文:行方ひさこ
写真:鈴木誠一

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