Innovate コンセプトカー「SETSUNA」 コンセプトカー「SETSUNA」

Company
トヨタ自動車株式会社
コンセプトカー「SETSUNA」
開発責任者 辻賢治氏

2016年4月、イタリア。世界中から注目を集めるミラノデザインウィーク、通称「ミラノサローネ」の会場で、集まったデザイン関係者たちをあっと驚かせた一台のクルマがありました。それがトヨタ自動車(株)(以下トヨタ)による木を使ったコンセプトカー「SETSUNA」です。あなたもきっとひと目見ただけで、いかに常識破りかがわかるはず。ボディ外側は、なめらかなカーブを描く美しい木目の杉板に覆われています。フレーム部分には高い剛性を持つ樺(かば)、フロアには強度が高く、耐久性に優れた欅(けやき)が用いられています。クルマというのは、鉄やアルミなどの金属の塊では?という私たちの頭の中の常識を丸ごと変えてしまう姿がそこにありました。トヨタでこのコンセプトカーが開発された背景には、クルマの未来を見つめる想いがあります。始まりは、「クルマが人に“愛”を感じてもらえる製品となるためには?」という想いからでした。そして、丁寧に労り、手を掛けて乗り継いでいくことで、クルマが家族の特別な存在になっていく可能性を目に見えるカタチにしよう。確かに時代が求める価値は変化しており、性能や効率だけで善し悪しを判断する風潮は廃れつつあります。未来のクルマは、過去の価値観に縛られない、もっと人の感性に寄りそう存在なのかもしれません。しかし、そのようなトヨタのコンセプトを表現する素材が、なぜ木だったのでしょうか。

積み重なる想いを表現するために、
ボディは86枚のパネルで構成されています。

家族と共に過ごした時間を何にも替え難い価値として刻んでいく。このクルマには、それが出来る。 家族と共に過ごした時間を何にも替え難い価値として刻んでいく。このクルマには、それが出来る。

その答えを知るカギは、「SETSUNA(=刹那)」という名前に込められていました。SETSUNAは、幾世代にもわたって家族が“愛”を注ぎ込むことで、まるで“年輪”を刻み込むように、そのクルマがほかの何にも替え難い価値あるものになっていくことを願う、トヨタの想いを託されたクルマです。年月と共に変化していく木材をあえて用いることで、家族の思い出の一瞬一瞬…いわば刹那の連続に、しっかりと寄りそうクルマにしたいという想いが込められています。ボディに用いられた86枚の杉板は、一枚一枚が職人の手作業で作られており、完成後は時間が経つと共にそれぞれが色・風合い共に違った変化をしていき、徐々に見た目が変わっていくボディが家族の大切な時を刻みます。長い年月の中で修理が必要になったときには、その一枚だけを交換することができます。時間と共に価値が下がっていくのではなく、むしろ家族の絆の象徴として価値が高まっていくクルマ。そんな理想を実現するため、トヨタは木材を使うことを選んだのです。今回開発されたSETSUNAは、走る・曲がる・止まるといった基本性能を装備していますが、トヨタの想いを「木」を用いて実現したコンセプトカー。残念ながら市販車ではありませんが、この試みによって実現された「時と共に愛の深まる家族のクルマ」という考え方は次へのインスピレーションとなり、きっと未来のクルマに受け継がれていくでしょう。

木の魅力を生かしたクルマの開発を進めるにあたっては、宮大工・船大工など多くの知見を持った方々に対してヒアリングが行われました。その結果、木の接合には釘やネジを使用しない日本古来の伝統技法である「送り蟻」「くさび」を用い、色味に変化をつけたい箇所には「拭き漆」の技法を採用するなど、これまでの歴史の中で人が受け継ぎ、磨き抜いてきた技が存分に生かされています。
fin