記紀・万葉講座

首都圏記紀シンポジウム「古代・現代・未来と記紀」

2014年1月18日(土)
会場・日本教育会館 一ツ橋ホール

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プログラム
第1部 ●古代
 基調講演
 「記紀のなかの女性像ー古代国家の形成と周縁地域ー」

 講師 鈴木靖民氏(横浜市歴史博物館館長、國學院大學名誉教授)
第2部 ●未来
 記紀ゆかりの知事サミット
 「2020年と記紀ー古き書物を未来にどう活かすかー」

◇パネリスト
  奈良県知事 荒井正吾
  三重県知事 鈴木英敬氏
  和歌山県知事 仁坂吉伸氏
  島根県知事 溝口善兵衛氏
  宮崎県知事 河野俊嗣氏

◇コメンテーター
  鈴木靖民氏

◇コーディネーター
  音田昌子氏(くらしと文化研究所主宰)

第3部 ●現代
 「古事記出版大賞」表彰式

 古事記出版大賞、太安万侶賞、稗田阿礼賞、三重県・和歌山県・島根県・宮崎県に
  ちなんだ賞各賞の発表と表彰

大会の概要

首都圏記紀シンポジウム「古代・現代・未来と記紀」の冒頭で、主催者である荒井正吾・奈良県知事が挨拶。「古事記ゆかりの5県の知事を代表し、ご来場に感謝申し上げ、今後とも古事記の世界に親しんでいただきたいと」と本イベントのねらいを語った。

基調講演「記紀の中の女性像―古代国家形成と周縁地域-」

古代日本において国家形成期に、中央国家とその周縁である地方の関係を見据えながら、そこで活躍した女性の姿を古事記・日本書紀を通して読み取ることは現代にも大切な示唆を与えてくれるだろう、と講演の意図を紹介した。

天皇や王子が周縁である地方を巡行して地方の首長・豪族、支配者の娘たちと関係を取り結ぶことが重要な意味をもつ。そもそも行幸や国見は、天皇や王子がそれぞれの国の様子を見ることをいう。それから天皇が地方の首長の娘たちと結婚することで、あるいは各地の神様やそれぞれ土地の娘との関係を取り結ぶことによって統治を実践するという方法がとられていた。大和の古代王権に服属しない地域、つまり周縁で、そこの女性と関係を結ぶことによって、地域の神様をも支配することへの正当性合理性が与えられることになる。

そしてその次に各地の首長や天皇、王子の系譜を結びつけるため、政略結婚のような犠牲的な血縁関係をつくりあげていく。このように王権構造は各地の首長との連合による政治形態をとる。女性を媒介にして血縁関係を形成していった。

古事記、日本書紀は多彩な女性たちの活動を記している。一つは支配者、征服者としての女性。もう一つは被支配者、従属者として、あるいは結婚、性愛の相手であったり、王子の母であったりという二面性を指摘した。

記紀ゆかりの知事サミット「2020年と記紀―古き書物を未来にどう活かすか―」

荒井知事(奈良県)・「古事記は日本独特の世界観を持っていると思われがちだが実は世界との共通点を多く有している。ギリシャ神話などと共通する内容もある。大古事記展を今年10月から12月まで奈良県立美術館で開催する。国宝級の文化財をできるだけ多く展示したい。古事記は見方によってたいへん不思議な世界で物語性が豊か。ぜひ大古事記展にもお越しいただきたい。」と紹介した。

鈴木知事(三重県)・「伊勢神宮には常若(とこわか)という考えがある。古くて新しいと伊勢神宮とよくいわれる。ずっと瑞々しい、若々しい場所に神様にいていただくという思いで、1300年ずっと遷宮が続いている。この常若という気持ちを大事に未来に伝えていきたい。」と語る。

仁坂知事(和歌山県)・「和歌山県で記紀というと神武東征だが、他にも注目すべき点がいくつかある。和歌山市に岩橋千塚古墳があり、非常に多くの古墳が密集して国の特別史跡で古墳数・古墳密度は日本一。それは紀氏集団がこの地域でものすごく栄えていたことが大きいと考えている。この繁栄している紀氏の周辺で現れたのが武内宿禰で、記紀の中で最大の英雄ではないか。」と語った。

溝口知事(島根県)・「出雲大社では60年に一度の御遷宮ということで例年250万人の参拝者が800万人にも及んだ。古事記上・中・下の三巻のうち上巻が神話の世界でその三分の一が出雲神話だといわれる。スサノオノミコトのオロチ退治、オオクニヌシノミコトの国譲りの神話などがある。実際に出雲にそんな強い権力があったのかについては、学会でもあまり定着した意見はなかったが、ここ30年の間に出雲の豊かさ、古き世界の豊かさを示すものがたくさん発掘されることになった。」と、語った。

河野知事(宮崎県)・「宮崎は神楽の宝庫だが、ここでは高千穂の夜神楽を中心に紹介する。記紀に描かれた神話のメッセージを、神楽を通じて表現しようとする。そして神楽を通じて子から孫へと伝えられている。そして、大切なことは直会(なおらい)で、必ずその場面その場面で集落の皆さん、それを見に来ていただいたお客様と食事をともにすることである。焼酎を酌み交わし、これが地域の絆をつくっている。」と語った。

鈴木氏・「今回は一般の方々にも古事記・日本書紀を手がかりに古代史を読み解く喜びを味わってもらおうということが趣旨である。そこに示されている豊かな世界観は、必ずしも過去の遺物ではなく、また日本独自のものでもなく、現代・未来につながる国際性をもっている。とくに三重県鈴木知事は、伊勢神宮の「常若」についてふれられた。この「常若」の精神のもと、二十年に一度の式年遷宮ですべてを造り替え、美しさを保ち続けている。繰り返し再生することで、みずみずしいままの「永遠」をめざしているものであり、私たちもそうありたい。」と締めくくった。

「古事記出版大賞」表彰式

(二次審査員代表による講評) 二次審査にあたった3名の書店員を代表して、株式会社ジュンク堂書店難波店店長の福嶋聡氏が、「古事記の中に描かれ、1300年の時代を超えていまに読み継がれている理由の一つは、恋とか愛といった、古代の人々の熱い思いであると思う。この意味もあり、古代の人々が熱い愛を交わし、熱い思いをたぎらせた同じこの場所で、いま私たちは生きているということを実感させてくれる本を今年度の大賞とした。」と、選考の意図を紹介した。

(表彰式)
本居宣長賞(三重県)
受賞作品:「古事記の恋」
受賞者:清川妙(著者)、いきいき株式会社(出版社)

著者の清川妙氏、いきいき株式会社いきいき編集部の岡島文乃氏が登壇。プレゼンターの鈴木英敬・三重県知事が、賞金20万円と、三重県が誇る「真珠」「松坂牛」「伊勢えび」「あわび」の4つのブランド品を記念品として贈呈。受賞者を代表して著者の清川妙氏は、「国文学者の頂点とも言うべき本居宣長さんの賞をいただき光栄であるとともに、これからも一生懸命、本居宣長さんにあやかって執筆に勤しみたい」と受賞の喜びを述べた。


武内宿禰賞(和歌山県)
受賞作品:「絵画と歴史で解き明かす決定版『古事記』の世界」
受賞者:武光誠(著者)、梅田紀代志(作画)、小学館(出版社)

著者の武光誠氏、作画の梅田紀代志氏、小学館出版局出版クォリティーセンター室長加藤真文氏が登壇。プレゼンターの仁坂吉伸・和歌山県知事が、賞金20万円と、那智黒石の中でも希にしか取れない通称「玉石」から作り出された硯石「曼荼羅の経」を記念品として贈呈。受賞者を代表して著者の武光誠氏は、「和歌山は子供の頃から何度も訪れた大好きな場所であり、長年やってきた研究の成果を評価いただきとても嬉しい」と受賞の喜びを述べた。


古代しまね賞(島根県)
受賞作品:「『古事記』なるほど謎解き100話」
受賞者:瀧音能之(編者)、東京堂出版(出版社)

編者の瀧音能之氏の代理として分担執筆者の瀧音大氏、東京堂出版第一編集部林謙介氏が登壇。プレゼンターの溝口善兵衛・島根県知事が、賞金20万円と、出雲大社にゆかりの縁起物で島根県ふるさと伝統工芸品にも指定されている「福こづち」と、大黒様と恵比寿様を手彫りで仕上げた「福神面」を記念品として贈呈。受賞者の代理として瀧音大氏は、「古事記を100項目に分けてコンパクトにまとめたこの本をぜひ手に取って読んでいただきたい」と受賞のコメントを述べた。


宮崎ひむか賞(宮崎県)
受賞作品:「はじめての古事記 日本の神話」
受賞者:竹中淑子(著者)、根岸貴子(著者)、スズキコージ(イラスト)、徳間書店(出版社)

著者の竹中淑子氏と根岸貴子氏、徳間書店児童編集部小島範子氏が登壇。プレゼンターの河野俊嗣・宮崎県知事が、賞金20万円と、夜神楽で名高い高千穂町の伝統工芸品「岩戸神楽面」のほか、「宮崎牛」、「完熟きんかん『たまたま』エクセレント」、「宮崎キャビア1983」の宮崎県が誇るブランド食材を記念品として贈呈。受賞者を代表して徳間書店の小島範子氏は、「小学校低学年向けに古事記の神話の部分だけをまとめ直した本書を通して、子から孫へと古事記を伝えていきたい」と受賞の喜びを述べた。


太安万侶賞
受賞作品:「マンガ古典文学 古事記」
受賞者:里中満智子(著者)、小学館(出版社)

著者の里中満智子氏、小学館第三コミック編集局プロデューサー大島誠氏が登壇。プレゼンターの荒井正吾・奈良県知事は、賞金30万円と盾、太安万侶ゆかりの多神社の記念品を贈呈。受賞者を代表して著者の里中満智子氏は、「自分でいつか描きたいなと思って、小さい頃から憧れていたのが古事記の世界。このように評価をいただいたのも多くの研究者の方々や出版社、書店の皆様のおかげです」と受賞の喜びを述べた。


稗田阿礼賞
受賞作品:「ぼおるぺん古事記」
受賞者:こうの史代(著者)、平凡社(出版社)

平凡社新書編集部菅原悠氏が登壇。プレゼンターの荒井正吾・奈良県知事は、賞金30万円と盾、稗田阿礼ゆかりの売太神社の記念品を贈呈。受賞者を代表して平凡社の菅原悠氏は、「著者は本書を書く前に稗田阿礼を奉っている売太神社へ参り、これから古事記を書かせていただきますと報告したと聞いた。この賞をいただいて著者もたいへん喜んでいる」と受賞の喜びを述べた。


古事記出版大賞
受賞作品:「地図と写真から見える!古事記・日本書紀」
受賞者:山本明(著者)、西東社(出版社)

出版社の西東社編集部編集長江利川咲子氏が登壇。プレゼンターの荒井正吾・奈良県知事は、賞金50万円と記念の盾を贈呈。受賞者を代表して西東社の江利川咲子氏は、「写真と地図を主体に、古事記の舞台を旅をしながら古事記を読み解けることを意図した本書を通して、実際に歴史の地を旅していただければ」と受賞の喜びを述べた。