記紀・万葉講座

「古代歴史文化賞」記念シンポジウム/古代から詠む未来へのメッセージ

日時・2017年2月11日(土)13:00~16:30
会場・銀座ブロッサムホール(東京都中央区銀座)
主催・奈良県 協力・島根県、三重県、和歌山県、宮崎県 後援・朝日新聞社

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プログラム
主催者挨拶 奈良県知事 荒井正吾
第1部 基調講演「国際交易がつむぐ古代社会」
田中史生氏(関東学院大学教授(第4回古代歴史文化賞大賞受賞者))
第2部 特別講演「『出雲』という地名をめぐって」
千田稔氏(奈良県立図書情報館館長)
第3部 古代史ゆかりの知事サミット「地名」

<パネリスト>
奈良県知事 荒井正吾
島根県知事 溝口善兵衛(ビデオ出演)
三重県知事 鈴木英敬(ビデオ出演)
和歌山県知事 仁坂吉伸
宮崎県知事 河野俊嗣

<コーディネーター>
小滝ちひろ氏(朝日新聞社編集委員)

主催者挨拶/開会

開会に先立ち、荒井正吾奈良県知事が主催者として挨拶しました。

第1部

基調講演 「国際交易がつむぐ古代社会」 田中史生氏(関東学院大学教授)

古代からどのように未来を考えていくかをテーマに「国際交易」の視点から展開。越境的な社会関係を幅広く捉えられる「交易」に注目すると、外交史とは違う歴史のつながりが見えてくると語る。紀元前後、弥生の複数の小国が、朝鮮半島を介し中国とも政治的関係を築いたと紹介。この国際関係のなかで、倭王も誕生した。しかしこうした関係の基盤は、すでに紀元前3~4世紀に作られていたと言及。現在の北京を中心に河北省北部を支配した燕が、このころ積極的に東方へ進出し、中国沿岸地域から朝鮮半島、日本列島をつなぐ、東アジア海域の交易圏が形成されていたと指摘する。

9世紀ごろになると、東アジア海域では民間の国際商人が活躍するようになる。『竹取物語』は、9世紀末の成立だが、ここに描かれているのは全くのフィクションではなく、ところどころに織り込まれた事実描写によって、当時の国際交易事情を読み取ることができると述べる。

右大臣阿倍御主人からの求婚に、かぐや姫が「火鼠の皮衣」を手に入れることを条件に出すエピソードを解説。御主人が唐の商人・王慶へ使いを送り、金を渡して入手を依頼すると「唐朝の協力を得て依頼品を手に入れたが、唐の地方役人に渡すべき資金が不足したので、その補塡が必要」との書簡が届く。御主人は不足分の金を送って「火鼠の皮衣」を手に入れるが偽物だった。

実際、9世紀には、唐の地方官の役職を持ちながら日本と交易する王慶のような商人が活躍していたと紹介。さらに「火鼠の皮衣」は、シルクロードの珍品とされた「火浣布」と呼ばれる防火服だったという研究に触れる。物語の教訓としては、右大臣のような一国の権力者も、海外商人との安全な取引が難しいということを挙げ、一定の領域にとどまる政治権力に頼るだけでは、境界を超えるような交易の信頼性は確保できなかったと述べた。

「そこで交易者たちは、交易の安全性・信頼性を高めるために、国家権力に頼るだけでなく、信頼できる人間関係の構築に腐心しました」と田中氏。贈答品を送る、酒を酌み交わすといった活動のほか、血縁関係や地縁関係、信仰など駆使して、様々な取引を信頼あるものへと変えていったと推測。一国の政治や制度を超えた取引における信頼関係が国や社会の歴史を越境的に結びつけていたことが、交易をキーワードに時代を振り返ることで浮かび上がってくると語る。「古代から築き上げた信頼関係は、今にも続いています。その関係を、私たちも未来へとつないでいくべき」と述べ、発表を結んだ。

第2部

特別講演「『出雲』という地名をめぐって」 千田 稔氏(奈良県立図書情報館館長)

はじめに、『古事記』の出雲国づくりでは、海の彼方から少名比古那神がやってきて、大国主命に協力したと紹介。
一方、少名比古那神が常世へ帰ってしまったあと、海面を照らしながらやってきたのが大物主神だと『日本書紀』にはある。大国主命が、何者であるかを尋ねると「私は、あなたの幸魂・奇魂」だと大物主神が答えることから、大国主命イコール大物主神であり、どちらも海の向こうからきた渡来の神であると指摘した。

さらに、出雲大社の口伝では、高さ70メートルにもなる高層神殿があったと伝えられており、本殿の心柱も出土していると紹介。高いところに神を祭ることは中国の道教の教えからきているものと推測。さらに、出雲固有の神様である八束水臣津野命、八重垣、八雲など「八」という数字との縁の深さを指摘。これも道教的な考え方で、「東西南北」とその中間方位の八方位で「世界」や「宇宙」を意味すると語る。また「天皇陵などに八角形のものが多いのもそのため」と例を挙げた。

出雲は「雲の湧き出づるところ」を意味するが「山川は雲を出だす」とある儒教の経典や雲に乗る仙人を信仰する道教でも「雲」は重要なキーワードだと言及。神の国である「出雲」という地名は、単なる日本語的なものではなく、中国の宗教や思想から影響を受けていると考える方が自然ではないか、と問いかける。「その大きな視点を持って出雲古代史を研究すると、さらなる発見がある気がしてならない」と展望を語った。

第3部

古代史ゆかりの知事サミット

○舞台上にはパネリストの奈良県知事及び和歌山県知事、宮崎県知事や、コーディネーターの小滝ちひろ朝日新聞社編集委員が登壇し、各県知事が熱い思いを語り合いました。
※島根県知事及び三重県知事は欠席のため、ビデオにて出演しました。

○「古代における地名の由来について-奈良県編-」
奈良県知事 荒井正吾


現在、奈良県や全国各地にある地名には、奈良県磯城郡田原本町「多」に見られるように『万葉集』や『古事記』、『日本書紀』などの古代の書物に由来しているものが多いことや、アスカという地名に見られるように、古代奈良においても、国際性が豊かでユーラシア大陸と深く結びついていたことをご紹介しました。

○「記紀に登場する「熊野」の由来について」
和歌山県知事 仁坂吉伸


和歌山県南部に位置する「熊野」の由来には、隅っこで奥まったところや、動物のクマ、神様に捧げた米ではないかというような様々な説や、記紀に出てくる「熊野」は「あの世の入り口」というイメージがあり、神話の時代には、再生を意味し「よみがえりの地」であったことをご紹介しました。

○「日向(ひむか)」
宮崎県知事 河野俊嗣


宮崎県が古代には「日向(ひむか)」と呼ばれ、日本書紀の中で景行天皇が「この国は、まっすぐに日の昇る方向に向いている」とおっしゃったことに由来すること、また、県内には多くの神楽が残っており、世代を超えて神話が今なお大切に語り継がれ、息づいていることをご紹介しました。

○「古代出雲の地名」
島根県知事 溝口善兵衛(ビデオ出演)


出雲という地名は島根県だけでなく、全国に30箇所以上存在し、地名の成り立ちにはそれぞれ歴史的な背景があり、その一つ一つが古代を物語っているとご紹介しました。

○「「采女」地名から詠む未来へのメッセージ-女性活躍の聖地・三重-」
三重県知事 鈴木英敬(ビデオ出演)


三重県四日市市に残る「采女」町という地名をもとに、采女の飯高諸高など三重出身の女性官僚について紹介し、斎王や海女など、三重県が古代から女性活躍の聖地であったと述べました。