真言宗豊山派総本山長谷寺 「お参りの仕方とマナー」長谷寺 法務執事/登坂高典

―西国三十三所巡礼は本格的な巡礼として最も歴史が古く、参拝者が多いことでも知られています。長谷寺はその第八番札所で、観音信仰の根本霊場とも呼ばれています。そこで、正しいお寺のお参りの仕方について、まず教えてください。
登坂執事お寺に参拝されるのは、先祖の霊を偲び、御仏に安寧を祈るためですね。ですから心静かに手を合わせ、お線香や灯明、花などをお供えするのが礼儀かと思います。
神社では神様に相対し、お伝えするということで拍手を打ちますが、お寺では手は叩かず、右手を仏の手、左手を私たち衆生の手と感じ、その二つを合わせます。この「合掌」は、仏と私たちが一体になるという精神を表わしています。一番大切なことは、謙虚に仏に祈り、先祖に心を寄せること。仏教美術を見て終わりとするのではなく、御仏に心を託し、気持ちを聞いていただく。そうして霊験に触れ、教えを実践するのが私たち仏教徒です。
―服装やマナーなどで気を付けるべきことはありますか。
登坂執事肌を露出するような服装は控えるべきだと感じます。私たち僧侶も衣や袈裟で肌を覆い隠しているでしょう。煩悩や淫欲に心乱されることのないよう気を付けるためです。若い人からすればファッションなのでしょうが、それを表わす場所は別にあります。寺には身内を亡くすなどして打ちひしがれた方も来られます。相手を慮る気持ちを持っていただきたいのです。ただ、うっかりそういう格好をして来たので、遠目から手を合わせさせていただきましたという方には、心を感じます。
してはいけないことは、大声で世間話をするなどして、読経やお祈りの妨げとなるようなことです。当寺には外国の方も大勢来られますが、話せば皆さん理解してくださいます。敬虔な祈りの場であるということは寺も教会も同じ。それぞれの信仰の中にあるものを尊んでいただくのがマナーだと思います。
―「花の御寺」としても有名ですから、撮影に来られる方も多いでしょうね。
登坂執事当寺では、怪我を防ぐ意味から三脚の使用は禁止させていただいています。文化財関係など撮影禁止の場所もありますが、掲示が目に入らなかったのか、撮影される方がおられるのは残念です。撮っていいか迷う時は、寺に相談していただければと思います。
また、朝の勤行を撮影される方には、位置や方角にも気を付けていただきたく思います。勤行では本堂での読経の後、外舞台に出て三方の山々に向かって拝むのですが、祈っている姿を撮ろうと、僧と山々の間に立つ方がおられます。山に向かって祈りを捧げている、その合間に入るのは非礼になります。撮影する側にも、神や仏に祈るという覚悟を持っていただかないと、撮る意味がないのではないでしょうか。
何でも簡単に撮影できる時代だからこそ、慮る気持ち、思いやりを持っていただければと思います。
―相手を思いやる心。便利な世の中にあって、ともすれば忘れがちです。
登坂執事障子と襖だけだった昔は、障子一枚向こうに祖父母が寝ていると意識すれば、言われなくてもテレビの音量を下げたものです。自然と相手を気遣う作法が身についていたのですね。最近はサッシで音が気になりませんが、生活環境があまりに変化すると、本来持っている“思いやる心”は薄まっていくように思います。
それで思い出すのは、ある若い兄弟の父親の葬儀での出来事です。品行の悪い兄弟で、読経の最中に酒を飲み、出棺の段になると煙草をふかし始めた。さすがに注意しようとしましたら、実は亡くなった父親がタバコ好きだったから、タバコを父親にたむけようとしたのだという。一見非常識な振る舞いは、兄弟が父を思って懸命に考えた、一番いい送り方だったのです。
“思いやる心”から出た行動は、優しさや慈しみにつながり、人の心を打ちます。そうした行動に、気付く自分でいたい。祈る心の中で自分を鍛え、それをまた、人に分けることができればいい。私はそう思っています。

プロフィール

長谷寺 法務執事 登坂 高典(のぼりさか こうてん)

1959年生まれ、大正大学仏教学部卒。真言宗豊山派事相研究所所長、山形県朝日町教育委員、同町文化財保護委員を歴任。自坊は山形県朝日町の若宮寺。

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